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 ◆雲上院昭一郎



 私の名は、雲上院昭一郎ウンジョウイン ショウイチロウ


 私には娘がいる。娘はかわいい。非常にかわいい。


 目にいれても痛くないという表現は真実だと思えるほどだ。


 そんな娘にも、色々なことがあった。が、随分と良くなった。


 学校にも通えるようになったし、クラスにも復帰した。


 最近は、友達ができたそうだ。


 ただ、その過程で失礼なことを言ってしまったと聞く。


 その発言内容が余りにひどかった為、つい怒ってしまった。


 冷静に叱ったとは言いがたいが、私の気持ちを理解して、その子に謝罪し無事友人関係を築くことに繋がったのだから結果オーライだろう。


 後に強く言い過ぎた事を気に病んでいるかもしれないと娘に謝ったが、自分も悪かったと受け入れて許してくれた。


 はあ……、うちの娘、理解がある上にかわいい。


 今日はその娘の友人となった子が訪ねて来る。


 といっても、娘に会いに家に来るわけではない。


 仕事中の私に会いに、宿泊中のホテルに来るのだ。


 ……うん、よく分からない。


 現在私は、取引先との会談のため、ホテルに滞在している。


 そんなところに彼女の父から面会依頼が舞い込んだ。急ぐ用件らしい。


「で、どんな子なんですか?」


 と、たまたま部屋に訪れていた母に尋ねる。


 この人は自由すぎる。いきなり来るんだから、もてなしようがないじゃないか。


 久しぶりの再会はいつも唐突なものばかりだ。


「普通の子だったけどね。強く印象に残るようなものはありませんでしたよ」


 と、思い出すように言う。


 母の評価で普通の子。それは素晴らしい。


 要するに、うちの名前や仕事、金にすり寄って来るタイプではない可能性が高いということだ。


 娘は本当にいい子に出会えたようだ。


 あんな辛い目に遭ったのだから、これからはそれを引っくり返すくらい幸せになってほしいし、そのための努力は惜しまない。


「お見えになりました」


「大丈夫だ」


 秘書の言葉に、頷いて通すように指示する。


「お忙しい中、すみません」


「こんにちは」


 と、九白親子が入室してきた。


 父親の方は仕事が出来る雰囲気だ。顔つきは案外、私に似ているかもしれない。


 娘の方は……。普通? いや、普通じゃないだろう。なんというか異様な凄味を感じる。


 この子が水族館で会った子ですか、と母に視線で確認すれば、静かな首肯が返ってきた。


 母からすると、普通の範疇なのか……。いかんいかん、つい無言になってしまった。


「どうも、こんにちは。娘のお友達には是非お会いしたいと思っていたので歓迎ですよ。どうぞ掛けてください」


「失礼します」と父と子、同時に着席。


 うん、所作は普通だ。ちょっと雰囲気が大人びて見えただけだったのかな……。


 しかし、どういった用件だろう。


 父親が娘を操って面会に来たのだろうか。


 私に近づいて、仕事を得ようと考える者は少なくない。


 秘書に調べさせたが、父親は不動産と警備会社をやっているのだったか。


 特に業績が悪化しているわけでもないし、わざわざ私に擦り寄る必要性を感じない。


 そもそも不動産も警備も、代々懇意にしているところがあるのは向こうも承知しているはず。


 娘が友人になっただけで、それらとの契約や関係を打ち切り、安易に乗り換えるなどと考えるわけもないだろう。


 果たして何の用事だ。


「実は娘がどうしても、貴方と話したいと申しまして。その内容を事前に確認したところ、私もそうした方がいいと判断して、お邪魔しました」


「ホテルにいたのも丁度良かったんです。周りに家の方が極力いない方がよかったので」


 と、父親と娘が言う。


 ふむ、父親ではなく、本当に娘の方が私に用があるのか。


 父親に促され、娘の九白真緒が何か取り出した。


「それでは早速本題に入りますね。これは、レイちゃ……お嬢様に許可を戴いて、会話を録音したものです」


「用件というのは、この録音を聞いて欲しいということなのかい?」


 話が見えない。この子はわざわざ録音した会話を聞かせに来たというのか。


「はい。お嬢様とお話しさせていただくようになって、おかしな発言があることに気付きまして。それが家の方針なのかどうかを確認しておきたくて、今日は無理を言ってお邪魔させていただきました」


「おかしな発言? 家の方針? なんのことだろう」


 私は背後に控える秘書に視線を送る。が、秘書も覚えがないらしく、首を横に振った。


 まあ、彼女は仕事での関わりはあるが、家のことには関係していない。


 娘のことを知るはずもないか……。


 母にも視線を送るが、心当たりがない顔をしている。


 母は、北海道に居を構えているため、孫の礼香と接する機会はほぼ無い。


 私が近況を電話で伝えているくらいには接点が無いのだ。


 この中で礼香と一番接しているのは、父である私だが思い当たることが全くない。


 なんのことだろう……。


 ああ! もしかして、娘が未だにサンタクロースを信じていることだろうか。


 うむ、こういう問題は、保護者に確認をとっておくべきことだな。


 勝手にネタばらししていいのかどうか、難しい問題だ。


 確かに小学校高学年になっても未だにサンタを信じているのは珍しい。


 いつかは話さなければいけないと思いつつ、かわいいし、がっかりさせたくないから、そのままにしていた。


 なるほど、それが家の方針の確認というわけか。


 十二月はまだ先だが、そういう会話になったときの解答を知っておきたいということだな。


 友人同士なら、そういう話題が出るのも頷ける。


 うん、こうやって先回りしてくれるなんて、中々出来た子じゃないか。


 ……いや、待て。


 もしかしたら、食べ物の好き嫌いが結構あることかもしれない。


 娘はピーマンやにんじんが苦手で食べられない。


 栄養素なら他の野菜から取れるし、問題ないと考えていた。


 が、もう少し厳しくすべきだっただろうか。


 ピーマンが食べられないことで、いじめられていたりするのであれば、一大事だ。


 そういったことを報せに来てくれたのであれば、早速対策会議を開かねばならない。


 これは感謝しなければ。


 うん、やっぱり出来た子じゃないか。


 さてさて、娘のどんな可愛い問題が飛び出すのか。


 仕事の合間に一息つくには丁度いいかもしれないな。


 訳知り顔の私の様子を確認し、九白真緒がレコーダーを再生しはじめた。





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