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すると、綾小路君を含めた男性陣が、スキー場の従業員と揉めていた。
「あいつがいないんだ! 探してくれ!」
「どこではぐれたか、分からないんですよね? 今、この辺りにいないか確認中だから待ってください」
詰め寄る綾小路君を、係の人が鎮めている。
「もういい! 俺たちで探すぞ。いくぞ、皆!」
そう言って、古畑君と雪沢俊也君に呼びかける綾小路君。
すると、二人も乗り気で、捜索方法を話し合い始める。
それを見て係の人が顔をしかめた。
「もうすぐ調べ終わるので、動かないでください。貴方たちが山に入ると、二次災害が発生する恐れがあります。また雪崩が起きる可能性があるので、勝手な行動は控えてください」
と言われ、冷静さを取り戻す三人。
そこは成績優秀者たち、感情的になっていたことに気づき我に返る。
何もできないことに歯がゆさを感じているが、今は動かないことが最善策と理解し、大人しく待機することにしたようだ。
ここで私はマンガでの展開を思い出していた――。
マンガではヒロインが婚約者候補に崖から突き落とされる。
ヒロインは霊気を使って衝撃を緩和。片足を負傷するも、身体強化を使って洞窟に避難。
婚約者候補は夜ごろに戻って嘘の報告をする。
その話を聞いたヒーローは、ヒロインの捜索に飛び出す。
そして、なんとかヒロインを探し出すも、吹雪が強まり、洞窟で一夜を過ごすという流れだった。
今起きている日高さんの状態と綾小路君の動きは、マンガの展開にどことなく似ている。
そうなると、日高さんは遭難しているのかもしれない。
もし、そうだった場合、ちょっと問題がある。
日高さん、綾小路君、ともに霊気がない。そのため、身体強化が使えない。
そうなると、人が踏み入っていない上に積雪深が高い場所だと、行動不能に陥るかもしれない。
それ以前に、ここはマンガのイベントが発生した場所ではない。
ナナちゃんが、居たところがイベント発生ポイントなのだ。
つまり、ここには洞窟が存在しないことになる。
避難場所がないのだ。
私の考え過ぎならいいけど……。
とにかく、日高さんの安否を早めに確認しておいた方がよさそうだ。
「わたくしたちはどうしますか? 一応、雪山のサバイバル訓練は受講済みですので、この程度の状態であれば活動に支障はありませんが」
「そうだね。一旦、GPSの発信ポイントに行ってみよう。日高さんの現在地を確認しておかないと」
「承知しましたわ」
私はレイちゃんと話し合い、日高さんの捜索に向かうことを決める。
ついさっき、係の人が綾小路君に行くなと言っていたのに、私たちはその禁を躊躇なく破る。
これだけ大胆な行動に出られるのには、理由があった。
それは、私が使える霊術にある。
いわゆる、アイテムボックスというやつである。
収納したい物を霊装でくるみ、自分の内部にある宇宙にしまい込む。
この方法により、大量の物資を保管、持ち運びすることが可能となった。
私が収容施設では快適な生活を送れたのは、この術のお陰だ。
今回は雪山に行くことが確定していたため、寒冷地用の物資を事前に準備しておいた。
ちなみにどの程度の持ち込みかといえば、外界と完全に隔絶された状況となっても、数か月は生存できる分量を揃えている。
回復術で大半は何とかなると思うけど、医療用装備も用意したので、何があっても生き残れる自信がある。
ただ、これらの装備は、なるべく使わないに越したことはない。
捜索は時間を決めて行い、日没までには帰ってくることにしておいた方がいいだろう。
お互いの装備を確認した私たちは、GPSの発信元へ向かった。
現地に到着するも、周囲には何もなかった。
針葉樹が生い茂り、その合間を縫うように空白の土地が点在している。
それらを雪が覆い、視界が白で統一されていた。
地面を重点的に見て回るも、人が来た痕跡が全くない。
それに加え雪が柔らかく、歩きづらい。
そんな場所で日高さんの帽子を発見する。
GPSの反応は、この帽子に取り付けていたものだった。
しかし、周辺に彼女の姿はない。
「むう、やっぱりこんな感じか」
「見てください。足跡がありますわ」
私が帽子を調べている間に、レイちゃんが周囲を調べて足跡を見つけ出してくれた。
途中までは溝の様になっていたが、雪が浅い所まで移動した先は足跡に変化している。
現状と足のサイズから予測すると、日高さんの可能性が高い。
しかしその時、降雪の勢いが増し、風が強くなり始める。
視界に影響が出るレベルだ。
「吹雪いてきたね。こうなると、雪が落ち着くまで捜索は中止になるはず」
「日没までに収まるでしょうか。それに、このままでは足跡が消えてしまいますね」
「私たちなら吹雪の中でも動ける。けど、視界が悪い中を二人で探し回っても、何も見つけられないと思う」
私たちは訓練を受けているので、二次災害に派生することはない。
だからといって、ここまで環境が悪いと、捜索を続行しても成果を上げることはできない。
一旦、拠点を構築し、対策を考えるべきだろう。
「ふふっ、問題ありませんわ。ここは、わたくしにお任せください」
すると、レイちゃんが自信ありげにそう言い、大量の霊装を召喚した。
真っ白だった視界の中に、突如漆黒のビル群が乱立する。
「はあっ!」
レイちゃんが気合の一声と共に霊術を発動した。
途端、ビル群と同等のサイズの炎柱が複数発生。
それらが伸長を続け、上空の雲を突き割る。
炎柱群は倒壊するような動きで、じわじわと斜めに傾く。
結果、雲が両断され、日の光が周囲に降り注ぎ始めた。
最終的に炎柱群は雲と並行な状態になった後、急上昇。
散らした雲に燃え移り、全てを焼き払ってしまった。
「すご……」
一連の光景を見た私は絶句。
まさか吹雪を消し飛ばしてしまうとは……。
もし、飛行機が接触していれば、蒸発していたかもしれない。
……まあ、今の天候であれば、運航中止になっているとは思うけど。
「うふふ、どうですか。わたくしもやるものでしょう?」
自慢げに胸を逸らすレイちゃんに、割れた空から日が降り注ぎ、神々しく映る。
「凄いよ、レイちゃん! 頼りになるぅ! 格好良いっ!」
私はレイちゃんを激褒めした。
私の賞賛を受け、くすぐったそうな顔で縮こまるレイちゃん。
しかし、その程度で褒め褒めの手を緩める私ではない。
ここぞとばかりに褒めちぎっておいた。
「これなら捜索を再開できるね」
「はい、行きましょう」
というわけで、捜索再開。
残念ながら、足跡は積雪で分からなくなってしまった。
が、雪に埋もれる前に進行方向は把握していたので、そちらに向かう。
すると、うつ伏せに倒れている日高さんを発見した。
先ほどの降雪で、彼女の体には雪が積もり、景色と一体化する寸前となっていた。
それだけの状態になっているのに、ピクリとも動かない。
どうやら、意識を完全に失っているようだ。
とにかく、脈拍と外傷の有無を確認したい。
そう思って、日高さんに近づいた瞬間、強烈な殺気を察知する。
私はすかさず全身に霊装を纏い、霊気で全身を覆った。
それと同時に、固い何かが側頭部に接触し、弾いた感覚があった。
――これは間違いなく、遠距離からの狙撃だ。
「レイちゃん、伏せて!」
そう叫んだ時には、彼女は身をかがめた状態で高速移動し、木々の間へ避難していた。
レイちゃんの安全を確認した私は、土属性の霊術で倒れた日高さんを覆う。
そして、弾いた弾丸を探した。
すると、近くの木に痕跡を発見する。
「……弾丸じゃない」
それは雪を固めて、氷の塊のようにした物だった。
氷塊から、僅かに邪悪な気配を感じ取る。
どうやら、妖怪が私を狙って攻撃してきたようだ。




