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 ◆九白真緒



「こんなことになるとは……」


 私は機内でのことを思い出し、呟いた。


 マンガとは随分と違う展開になってしまった。


 まさか、ハイジャック犯が二人いるとは……。


 正確には一人は妖怪に憑りつかれていた人だったけど。


 それに他にも違う部分があった。


 それは、妖怪ではない本物のハイジャック犯の方だ。


 マンガで出てくるハイジャック犯とは別人だったのだ。


 後に、レイちゃん経由で取り調べ結果を横流ししてもらったところ、動機が違っていた。


 マンガでは、海老名理沙に雇われた人間がハイジャックを行っていた。


 しかし、今回のハイジャック犯は、航空会社への怨恨が動機で、会社を混乱させるのが目的だった。


 つまり海老名理沙とは、無関係だったのだ。


 これはもしかして、ナナちゃんの危惧した通り、元々ナナちゃんが乗る予定だった便にハイジャック犯が現れたのか、と調べてみた。


 結果、そういった被害は発生していなかった。


 ハイジャック犯が現れたのは、私たちが乗った便だけだった。


 日高さんとナナちゃんの間で、主役ポジションが入れ替わることによる弊害が生じているのだろうか。


 今のナナちゃんはマンガとは違い、アキラ君と随分前からラブラブ。


 しかも、最近になって家柄までグレードアップした。


 つまり、海老名理沙の敵対心が薄れているのかも?


 いや、彼女がナナちゃんを見る時の視線には、明らかな敵意が含まれていた。


 油断は禁物だろう。


 今回のイベントは、ここで終わりではない。まだ続くのだ。


 この先に控えた雪山遭難イベントも危険なため、気を抜くべきではない。


 マンガ通りの展開が起きると思って対応した方がいいだろう。


 とにかく、事前準備のお陰で被害を出すことなく、解決できた。


 特に今回は、レイちゃんとナナちゃんの助力のお陰だ。


「二人とも、ありがとうね。凄く助かったよ」


 私は二人にお礼を言いながら、ターンテーブルを流れてきたスーツケースを受け取る。


「あれ、マオちゃんのスーツケースって、そんな色だっけ」


「ううん、違うけど?」


 私はナナちゃんの問いに答えつつ、スーツケースを開錠し蓋を開けた。


「は? じゃあ、それは誰のなのよ」


「ナナちゃんもまだまだですわね。そんなの、日高さんのスーツケースに決まっているじゃないですか」


 と、動揺するナナちゃんに、レイちゃんが当然と言わんばかりの顔で説明してくれる。


 私はナナちゃんの対応をレイちゃんに任せ、作業に取り掛かった。


「ちょ、何やってんのよ!」


「何って、GPSの取り付けだけど……」


 後で現在地を確認する際に使用するためだ。


 ただ、何を身に着けて行動するか分からないので、複数の物に取り付ける必要がある。


 日高さんがここに来る前に済ませたいので、急いで片づけないと。


 私が手早く作業を進める中、レイちゃんがナナちゃんをたしなめる。


「まあまあ、いつものことではありませんか。そんなに目くじらを立てなくても」


「レイちゃんはマオちゃんに甘すぎる! これ、絶対にヤバいって……」


「よし、終わった。ここにいると怪しまれるから、一旦離れるよ」


 そう言って私は二人の手を引いて、その場を離れた。


 そして、日高さんがスーツケースを回収し、迎えに来た綾小路君と合流するのを確認する。


 日高さんと綾小路君は、仲良さげに雑談しながら空港から出て行った。


 そんな二人の後姿を見守りながら、改めてレイちゃんとナナちゃんにお礼を言う。


「二人とも本当にありがとう。まさか妖怪まで出るとは思っていなかったから、本当に助かったよ」


「いえ、マオちゃんが事前に危険を察知したからこそですわ」


「受け入れがたいけど、プロファイリングの成果なのは間違いないね。でも、あんまりやりすぎないでよ?」


 と、レイちゃんから褒められ、ナナちゃんから釘を刺される。


 まあ、ほどほどにやりますとも。


「気を付けるよ。それに次はナナちゃんだからね」


 私は、そう言いつつナナちゃんに視線を向けた。


「え、私?」


「そう。次のトラブルは高確率でナナちゃんに起きる」


 私は、そう言い切った。


「ちょっと断言しないでくれる? 滅茶苦茶怖いんだけど。って……、もしかして、私のこともストーキングしてたの!?」


 ナナちゃんは自分で自分の身体を抱き、身震いした。


 く、身に覚えのないことで引かれるのは心外なんですけど……。


「そういう結論に行きつくか……。そんなことしてないから。というか、気づいていないの?」


 と、あらかじめ考えておいた言い訳を口にする


 まあ、言い訳というより事実に近いけど。


「え、なんのこと?」


 ナナちゃんは、思い当たる節がないようで首を傾げた。


 だけど、レイちゃんの方は気付いているようで、私の言葉を引きついだ。


「殺気に近い敵意ですわ。最近の人間関係を思い返してみてください。日々妖怪を相手にしているナナちゃんであれば、気が付けるはずですわ」


「ああ。もしかして、海老名さん?」


 レイちゃんからのヒントを聞き、ナナちゃんが正解を言い当てる。


 今のナナちゃんは、マンガの因幡七海とは色々と違う。


 特に、霊術師としての経験値と技量は雲泥の差。


 幼い頃から様々な経験を積んできた今のナナちゃんは、ベテランかつトップランカーの領域に到達している。


 当然、敵意や殺意の感知も人並外れているのだ。


「そそ。アキラ君の自家用機にあの子だけ乗っているのは、どう考えてもおかしいでしょ? 多分、滞在先でも何か仕掛けてくると思うよ」


「そうかな。いくらなんでも考え過ぎじゃない?」


 ナナちゃんは私の言葉を聞いても、半信半疑の様子だ。


「だって海老名さん、どうみてもアキラ君に近づこうとしてるじゃん。そうなると、ナナちゃんて目の上のたん瘤だからねぇ」


「ええ。しかもそれだけではありません。海老名さんの意中の人であるアキラ君とナナちゃんが相思相愛なのは誰が見ても一目瞭然。あれだけベタベタしていれば、幼子でも状況を理解し、ついからかってしまうほどです」


「だよねぇ、毎度毎度見せつけてくれるよね。あんなにイチャイチャしてたら、海老名さんの精神が崩壊しちゃうよ」


 私とレイちゃんは意気投合し、二人の熱愛ぶりについて熱く語った。


 すると、ナナちゃんが見る見るうちに赤面。


 まるで酔っぱらったかのように、挙動不審となる。


「ちょ、相思相愛とか、ベタベタとか、イチャイチャとか止めてくれない! そ、そんなんじゃないし」


 色々な言葉を並べ、否定するナナちゃん。


 しかし、自分で言った『相思相愛』、『ベタベタ』、『イチャイチャ』という言葉に過剰に反応する。


 多分、その言葉を言うたびに、今までの思い出で該当するようなシーンが脳内で再生されたためだろう。


 そんな、乱れに乱れたナナちゃんを見た私とレイちゃんは無反応で真顔。


「そんなこと以外ないと思いますが」


「事実でしょ。見せつけて煽ってるようなもんだからね」


「ええ、巧妙な挑発に見えますわ」


 これまで私たちがどれだけ被害に遭ったことか……。


 私とレイちゃんは目を合わせて頷き合い、今まで散々見せつけられてきた、あれやこれやを思い出す。


 う~ん、やっぱり見せつけに来ているとしか思えないな。


「え……、そんなに?」


 自覚がなかったナナちゃんは、驚愕の表情で私たちに聞き返してきた。


「「そんなに」」


 私とレイちゃんは声をシンクロさせ、同時に深く首肯した。


「わかった……。気を付ける。あと、アキラとの接し方も考える」


 ナナちゃんは神妙な顔で自重すると告げた。


 しかし、私たちは首を振って応えた。


「いえ、そのままでよろしいかと。どうぞ、お構いなく」


「だね。折角旅行に来たんだから、一杯思い出作りなよ」


 こちらの事を気にして接し方を変えるというのは、私たちの望むところではない。


 確かに、ずっと見せつけられると堪える部分もある。


 が、幸せそうにするナナちゃんが見れるのはプライスレス。


 できれば、いないものとして仲良くやってもらって問題ない。


「う、うん」


 私たちの言葉を聞いたナナちゃんは、照れくさそうに短く頷いた。


 それを見たレイちゃんは満足げな表情となる。


 そうそう、これが見たかったのだと言わんばかりである。


 そんな風に会話をしていると、アキラ君と智仁君が私たちを発見して駆け寄ってくる。


 合流を果たした私たちは、早速ホテルへ向かうこととなった。




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