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 ◆兎与田七海



 座席に着いた七海は、自然と眉間にしわが寄るのを感じていた。


 真緒曰く、この機内で何かが起きるらしい。


 すごく曖昧な物言いだ。何かって何だ。


 そう思って、考えてみる。


 可能性として考えられるのは、事故だろうか。


 パイロットが行動不能に陥る、もしくは機材トラブルで制御不能。


 果たして、本当にそんな事が起きるだろうか……。


 とりあえず、私たちの霊術を駆使すれば、墜落程度なら防げる。


 上空で爆発したとしても、気圧さえ何とかなれば生還できるだろう。


 うん、問題なく対応できそうだ。


 後は、何が起きえるだろうか。


 ありえない可能性まで考えるなら、ハイジャックなんてこともあるかもしれない。


 ハイジャックはハイリスクでローリターン。正気の人間がやることではない。


 海外逃亡でも企てていない限り、やる意味がない。


 国内線でそんなことをする奴がいるとは思えないけど……。


 もし起こるとすれば、クレーマーが暴れまわる展開だろうか。


 でも、真緒の日高千夏絡みに関する勘は本物。


 よく当たるので、何かが起こる可能性は大いにある。


 だからといって、事前に席を予約しまくって空席を作った上に、護衛を大量に同行させる徹底ぶりには驚いた。


 まあ、ここまでやっていれば、何とかなりそうだ。


 息を吐いた七海は気を紛らわせようと、背もたれに体を預ける。


 七海の座席は左後方の通路側だった。


 いつも自分は後ろの席だな、と自嘲する。


 隣の席は、スーツ姿のサラリーマンだった。


 さすがに、この人がハイジャック犯ということはないだろう。


 そんなことを考えながら過ごしていると、異変が発生する。


 真緒の座席の方で動きがあったのだ。


 ほんの数秒の出来事だったため、一般の乗客は気付いていなかったが、七海には分かった。


 視線を向けると、礼香も気付いていることを知る。


 ほんの少し慌ただしさを感じさせる動きで、客室乗務員が行き来し事態が収束していく。


 最終的には、一人の男がどこかに連れて行かれた。


 傍目には酔っ払いを介抱しているように偽装されていたが、間違いなく拘束されていた。


 まさか、本当にハイジャック犯が出るなんて……。


 でも、これで解決か。うまく行ったみたいで良かった。


 七海が、そう思ってホッとしていると、隣のサラリーマンが口を開く。


「ギギッ、ソロソロイイカ……」


 妙に高く耳障りな声音。


 普段なら気にも留めない独り言だが、今回ばかりはシチュエーションもあいまって、二度見してしまった。


 前方を見据えたサラリーマンの口がニヤリと三日月型に開く。


 すると、中から先の割れた細い舌がちろちろと姿を見せ、鋭利な牙が見え隠れする。


 そして、指先から刃物の様に鋭利な爪が飛び出した。


 それと同時に、目が紫に染まる。


 ――間違いなく妖怪だ。


 七海は即座に判断し、霊装を取り出す。


 礼香をケガさせてしまった時の二の舞はしない。


 術を使えば、機体を傷つける恐れがある。


 七海は即座に体内の霊気を循環させ、体術でサラリーマンを押さえ込んだ。


 しかし、妖怪の方は機体の事などおかまいなしに暴れ出す。


 と、ここで周囲の席にいた護衛が異変に気付いた。


 そして妖怪の押さえ込みに協力してくれる。


 周囲に気づかれないよう、最小限の動きかつ最大限の力で取り押さえにかかる。


 一対多の状況を構築でき、妖怪を無力化することに成功する。


 ただ、妖怪は抵抗を続けているため、力を抜けない。


 そんな中、護衛が持参していたロープで妖怪を縛り上げていく。


 拘束が終わる頃、礼香が合流してきた。


「大丈夫ですか?」


「気を付けて、こいつはハイジャック犯じゃない。妖怪なの」


 七海が、そう説明した瞬間、妖怪が礼香の方を向く。


「今度ハ、オ前ノ体ヲ頂ク!」


 そう言って大口を開ける。すると、中から蛇が飛び出し、礼香目掛けて飛びかかった。


 まさか、人の体内に侵入するタイプだったの!?


 てっきり人に化けるタイプだと思っていた。


 そのせいで、妖怪と思った人物を押さえつけていたので、即座に動けない。


 目の前で、蛇が礼香に迫っていく。


 また……、また同じことが……。


 七海は絶望していた。こんなはずではなかったのに!


 このままでは……。


 そう思うも何もできない。どんなに早く動こうとも追いつけない。


 数秒の時間しか経過していない中で、何度となく後悔の念にさいなまれる。


 が、当の礼香は素の表情。


 驚きもせず、あっさり蛇を掴んでみせた。


 しかも、ただ掴んだのではない。蛇が閉口するように頭部を固定していたのだ。


「嫌ですわ。ベタベタしています。後でおしぼりを頂きませんと」


 などと余裕である。


 礼香は、そのまま指先に極小の霊装を展開。


 蛇を固定状態のまま霊気を少しずつ強めて放出。


 周囲に余波を出すことなく、妖怪を消滅させてしまった。


 そして全てが終わった頃、客室乗務員が異常を感じ取って、こちらに近づいてきた。


 それを察知し、護衛が素早くサラリーマンの拘束を解く。


「……あの、もしかして、こちらでもお客様が暴れられたのでしょうか?」


 と、聞いてくる。


 う~ん、どうしたものか。


 妖怪に憑りつかれていた珍しいパターンだし、説明が難しい……。


「いえ、違いますの。どうやら寝相の悪い方だったようで、隣にいた友人に何度もぶつかっていたようなのです。今は落ち着いて眠っていますわ。死ぬほど疲れているようなので、そっとしておいてあげましょう」


「そ、そうでしたか。幸い今日は空席があります。席を代わりたい場合は、いつでもお申し付けください」


「あ、ありがとうございます」


 七海がお礼を言うと、客室乗務員はこちらを怪しむことなく立ち去っていった。


 改めて、サラリーマンの方を見る。疲れてぐったりしているようだが、ケガはない。


 霊術で調べてみたが、体に異常はなかった。


 これなら、しばらく回復術を施せば完全回復するだろう。


 北海道に着くころには、元気になっているはず。


 この人にとって、今回の出来事は不運でしかない。


 これでハイジャックの疑いまでかけられたら、たまったものではないだろう。


 そういう意味でも、礼香の判断は正しかった。


 回復したら、今日の事は忘れて仕事を頑張ってもらいたい。


 七海はそう考えながら、回復術を発動した。




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