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 ◆日高千夏



 最近、新たな友人が出来た。


 中等部に通う雪沢俊也君だ。


 出会った当初は、私が綾小路君と付き合っていると彼が知らなかったこともあり、ひと悶着あった。


 だけど、今は友人の一人として仲良くさせて貰っている。


 というわけで、異性の友人がまた出来てしまった。


 中学の時には考えもしなかった状態だ。


 それでも楽しく学校生活を送れている。


 ――そして、私が綾小路君からの告白に返事をしてから、随分と経った。


 初めは、古畑君を含めた皆での距離感の掴み方に苦労したが、今ではそれも解消された。


 綾小路君とは二人きりでクリスマスと年明けを過ごし、皆とはスキー旅行に行く計画も立てた。


 最近は、本当に毎日が楽しい。


 ただ、そんな中でもうまく行っていないこともある。


 それは、とある人の捜索だ。


 私が告白の返事をした際に、綾小路君と古畑君に打ち明けた事――。


 自分は誰かから嫌がらせを受けている。


 そして、そんな状況を知った誰かが陰ながら私を助けてくれている。


 私は、私を助けてくれている人を探し出してお礼が言いたい。


 そう二人に相談し、三人で捜していた。


 そのことを知った俊也君も協力してくれることとなり、今は四人体制で捜索している。


 しかし捜索は難航していた。


 今日は、綾小路君の家に集まり、今までの捜索内容を振り返っていた。


「しかし、結局誰がやったのか分からないままだな……」


「ああ、あれから随分経つのに手がかりが一切ない」


 と、綾小路君と古畑君が今日までの事を思い出しながら呟く。


 私も、皆で捜せばすぐに該当人物に行き当たると思っていた。


「不思議ですよね。学校の中での出来事だから、すぐに突き止められると思ったんですけど」


 と、俊也君も疑問の声を上げる。


 不思議がる皆の言葉を聞き、私はがっくりと肩を落とす。


「ここまで目撃情報がないとは思わなかったよ」


 誰も見ていないし、痕跡も皆無。


 以前ほどの頻度ではないが、未だに私物が無くなったり、傷つけられたりすることはある。


 が、気が付くと手元に戻っていたり、新品と取り換えられてしまっている。


 かなり目立つ行動だと思うのだが、その瞬間を誰も見ていないのだ。


 ここまでくると、幽霊が正体だったと言われたほうが納得できるくらいである。


「一度、録画、録音機器を仕掛けてみたこともあったんだが、空振りだったしな」


 と、古畑君が当時の事を思い出しながら言った。


「あれはいい線まで行った。そのお陰で犯人も特定できたしな」


 と、綾小路君が古畑君の言葉に頷く。


 誰が物を盗ったり、傷つけていたのかが分かったこと。


 それが、この調査を初めて唯一の成果と言っても過言ではない。


「え、誰が犯人か分かっているんですか?」


 綾小路君の言葉を聞き、俊也君が目を見開いて驚く。


 そういえば、彼には犯人が誰か言ってなかったっけ。


 そのことを思い出した私は、頷いて肯定する。


「そうなんだ。でも、今はそのことを伏せておくって決めたの」


「どうしてですか! そんなの学校に報告して、対処してもらうべきでしょう」


 と、俊也君が至極真っ当な反応を返す。


 録音と録画をしたので、証拠はある。


 だから、犯人は言い逃れできない。


 でも今の所、学校に報告するつもりはなかった。


 どうしてそういう判断になったか、古畑君が説明してくれた。


「それは犯人を餌にするためだ。犯人を捕まえてしまうと、陰で動いていた奴も動かなくなってしまう」


「俺と古畑は反対したんだぞ。でも、千夏が聞かないんだ」


 と、綾小路君がこちらを見ながら、困った顔になる。


「犯人には、もう少し頑張ってもらうつもり。どうしても見つけ出したいから」


 誰が私の事を助けてくれていたのか、突き止めたい。


 そのためなら、多少物が無くなっても仕方がない。


 ただ、そのせいで私を助けてくれている人に色々と気苦労をかけてしまう上に、物の補充までさせてしまうのは本当に申し訳ないと思う。


 そこは再会した際にしっかりと謝って、弁償しよう。


 しかし、そんな私の言葉を聞き、古畑君が腕組みして難しい顔になる。


「でも、無理だと思うぞ。光毅がむきになって、鑑識と科捜研の知り合いに調べてもらっても何も出なかったんだからな」


 という古畑君の言葉を引き継ぎ、綾小路君が深く頷いて口を開く。


「あれはむかついた。何が「持ち主の痕跡しか残っていませんね。他のクラスメイトの痕跡も一切ないのは確かに不自然ですが、何もありませんね」だ。思い出しただけでも腹が立ってきた」


 あの時は私も驚いた。


 連日の捜索の結果――。


 聞き込みも駄目。張り込みも駄目。録音、録画も駄目。手がかりはなし。


 となった瞬間、綾小路君の闘志に火が付いた。


 プロ中のプロに分析をお願いしたのだ。


 物が無くなった日の放課後に無理を言って来てもらい、痕跡検索をしてもらった。


 しかし、成果はゼロ。何も分からなかった。


「え、そんな人たちが調べても何も出なかったんですか」


 二人の話を聞き、俊也君がまたもや驚いた顔をする。


「警察の設備が使えないから、専用の施設と設備を用意したのに、何もないと言われたんだぞ。あれは堪えたな」


「ったく、指紋、唾液、毛髪、繊維、足跡、何も残っていなかった。一体どうなっているんだ」


 当時を思い出したのか、綾小路君は不機嫌になり、古畑君は眉間にしわを寄せて考え込む。


 プロの人たちが言っていたが、私以外の痕跡が何一つないのが逆に不自然だったと。


 だけど、こうも言っていた。


 そんなことが出来る技術と知識があるのはおかしい。


 学校の中で、そんなレベルまで消去するなんて考えられない。


 だから、不自然ではあるが、偶然が重なった結果だろう、と。


「同じクラスメイトなら、側に指紋や毛髪があっても分からないのでは」


 そんな二人の様子を見て、俊也君が思いついたことを言った。


「ううん。クラスメイトではないの。タイミング的に不可能なことが何度かあったから。それに、周囲には私以外の痕跡は何もなかったの。クラスメイトのものも含めてね」


 クラスメイト全員を把握している状況で、無くなった私物が戻ってきたり、傷つけられたものが新品に入れ替えられていることがあった。


 そのため、件の人物はクラスメイトではないと思うのだ。


「何かトリックを使ったとか? それとも複数人で事に当たっているとか?」


 と、俊也君が自身の考えを口に出しながら、思考をまとめようとする。


 そんな彼の言葉を聞き、古畑君が首を振る。


「こちらの虚を突いているのは確かだ。が、複数人というのは無理筋だな。数が増えれば痕跡も増える。誰かは分からなくとも、多数の人間が絡んでいる事には気づけるはずだ」


「味方だからありがたい存在だが、敵であった場合は、これほど不気味な存在はいないな」


 と、綾小路君が神妙な顔つきで呟く。


 一切痕跡を残さず、様々なことをやってのける。


 まるでスパイや怪盗みたいな人だ。


「とにかく、私は会ってお礼が言いたい。だから、犯人にはこのまましばらくいつも通りに行動してもらうつもり」


 私を助けてくれる人には申し訳ないけど、しばらく現状を維持させてもらう。


 私は犯人の行動を野放しにする代わりに、私を助けてくれた人の捜索を続行することを決定した。




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