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 …………



 アキラ君の誕生日会を終えた後、月日は流れ、クリスマスが近づいてきた。


 それまでにも色々とあったが、生死に関わるようなイベントは無し。


 誕生日会の時に乱入してきた婚約者候補は、今の所、動きは無し。


 このままスキー旅行までは大丈夫そうだ。


 そして、瀬荷城宝子の方は、相変わらずといった感じ。


 日高さんに対して散発的な暴言はあれど、綾小路君たちがフォローに回り、ストレスは軽微で済んでいる、と思う。


 物損、紛失は、これまで通り私が対応している。


 以前に比べると随分と頻度が減ったが、それでも時折発生するので気が抜けない。


 そんな状況だったが、日高さんは逞しくやっている。


 きっと、綾小路君がうまく支えてくれているためだろう。


 申し訳ないが脱獄犯イベントが起きるまでは、今の調子をキープしたい。


 などと物思いにふけっていると、ピシャリと鞭のしなる音が鳴る。


「マオちゃん、話を聞いていますか?」


「あ、はい……」


 眼前には激おこのレイちゃん。手には乗馬用の短鞭。


 そして私は正座。


 隣にいるナナちゃんも正座。


 現在、私とナナちゃんは、お説教を受けていた。


 その理由は、直近で受けたテストの結果だ。


「理由は分かっています。マオちゃんは、日高さんに構いすぎ。ナナちゃんは、妖怪討伐の連続遠征。二人とも勉強をおろそかにしすぎです!」


「はい。その通りです」


 授業中も監視をしているんだから、成績が落ちて当然だ。


 その辺りの帳尻合わせを帰宅後に行っていたが、とうとうバランスが崩壊してしまった。


 隣で項垂れているナナちゃんも似たようなものだ。


 彼女は暇さえあれば、他県に出稼ぎに行っていた。


 北海道が落ち着いたため、全国の迷宮を片っ端から攻略して回っているのだ。


 さすがに、欠席することは少なかったが、金曜の夜に東京を発って、月曜の早朝に帰るという強行軍は日常的に行っていたのである。


 そんなことを続けていれば、生活のリズムが崩れて、学校生活に影響が出るのは当然の結果と言えよう。


「アキラ君とのスキー旅行は、今更キャンセルできないので決行しますが、それ以外の催しは全てキャンセルです! クリスマスも年末年始も、ひたすら勉強ですからね!」


 と、レイちゃんから非情な決定が宣告される。


 しかし、それもやむなし。


 日高さんの監視を止められるわけにはいかないので、しっかりと勉強することにしよう。


「うん。頑張るよ」


「えぇ~……。冬休み中は東北や北海道に行っても雪で動けないから、こっちで地道に稼ぐしかないのに……」


「ナナちゃん! 勉強をサボっていると、サンタさんが来てくれませんよ」


 レイちゃんが、真面目な顔でナナちゃんを真剣に諭す。


 私は同居しているので知っているが、レイちゃんはサンタさんを信じている。


 レイちゃんの父親である昭一郎さんには、そろそろ言わないとまずいと進言したのだが、渋られたまま今に至っている。


 ――今のレイちゃんは、全ての能力値がずば抜けて高い。


 サンタに対して疑いを持ち、侵入者に対する心得で拘束し、正体を暴けるポテンシャルを持っている。


 だけど、そこは雲上院家。


 本物のサンタさんがいるという事実を作り出せる技術と財力を有している。


 いくら今のレイちゃんでも、雲上院家総出で本気の対策をとられると、気づくことも困難なのだ。


 レイちゃんからお説教を受けたナナちゃんは、一瞬きょとんとした後、はは~んと訳知り顔で頷く。


「もう、そんな冗談まで言わなくてもいいよ。赤点取ったわけじゃないし、ある程度は大目に見てよね」


 あ、これは駄目な奴だ。


 多分、レイちゃんの言葉をジョークと勘違いしたのだろう。


 それにしても、赤点以外ならいいだろうという認識なんだ……。


 マンガでは常に成績トップで、特待生だったヒロインの面影が全くないな。


「冗談ではありません! サンタさんは、いい子の元にしか来て下さらないのですわ」


「え~、何言ってるの? サンタなんて……「はい、そうだよね! 勉強して、いい子にしているべきだよね!」」


 私は、ナナちゃんを背後から羽交い絞めにしつつ口を塞いで、会話に割り込んだ。


 ふぅ、間一髪。


 こんなどうでもいい場面で、サンタさんの正体を明かされてしまってはまずい。


 ここは何とか乗り切らないと。


 私に拘束されたナナちゃんは、わけが分からず混乱し、全力で抵抗し始める。


 そんな彼女の耳元に口を寄せ、小声で語り掛ける。


「サンタのことは、これ以上何も言っては駄目。レイちゃんのお父さんも関わってるから、軽々しい発言や行動は控えるように……。分かった?」


 私の確認に、全てを察したナナちゃんが高速で何度も首肯する。


 それを確認し、口を塞いでいた手を離して、拘束を解く。


「いやあ、ごめんごめん。やっぱ、サンタさんは、いい子の元にしか来ないのは常識だよね」


「そうですよ。だから、ちゃんと勉強しましょうね?」


 と、レイちゃんが心配そうにナナちゃんに声をかける。


 うん。彼女は心の底から心配してくれているだけなのだ。


「じゃあ早速、今から勉強会をしますか」


 レイちゃんの善意に応えたい私は、モチベーションMAX。


 日高さんの監視を続けるためにも、しっかりと勉強して良いテスト結果を残すとしましょう。


 と思っていたのだが、ナナちゃんは違うようだった。


 席に着かず、教科書をパラパラとめくっている。


 その姿は、本屋で目当ての本の中身確認や、ファッション誌の斜め読みに近い。


 走り読みを通り越した速度でページをめくっている。


 はたから見ていると、かなり雑な動きだ。


 全ページに傷がないか確認している作業、と言った方が納得できる動作だった。


 そんな作業を全教科の教科書で行う。


 一体何をやっているんだろう、と不思議に思っていると、ナナちゃんが口を開く。


「ちょっと全教科のテストをしてみてよ。なんか、丁度いいテスト問題みたいなのない?」


 という唐突な発言。


「それではこれを。家庭教師に作っていただいた、前回のテストの対策問題です」


「OK。すぐ終わると思うけど、制限時間を付けてやろうか」


 そう言って、携帯端末のタイマーを起動すると、すぐさま問題を解き始める。


 そして――。


「……全問正解ですわ」


 ――一瞬で解いたと思ったら、コレである。


 採点を終えたレイちゃんが驚愕の表情で固まり、私は地蔵化。完全硬直である。


 そんな私たちを見たナナちゃんが両手を広げて肩をすくめる。


「最近は結構疲れてたから、帰ったらすぐ寝てたんだよね。学校でも寝てたし。今度からは、登校のタイミングにでも、軽く目を通しておくよ」


 軽く、目を、通しておく、だと……?


「チートや……。こんなんチートや……」


 私は絶望し、その場に崩れ落ちた。


 脳みその出来が違いすぎる。何なのそれ……。


「ということで、勉強は二人に任せるよ。私は妖怪退治に励むんで、お互い頑張ろうね」


 そう言って、ナナちゃんは帰っていった。


「私だって……、これくらい!」


 私は、ナナちゃんの真似をして教科書の斜め読みを敢行。


 全てを読み終えると、携帯端末のタイマーを起動し、問題集に挑む。


 結果は――


「見るに堪えませんわ……」


 ――初の赤点である。


 採点を終えたレイちゃんが驚愕の表情で固まり、私は地蔵化。完全硬直である。


「マオちゃんは、冬休みにしっかり勉強しましょうね」


「はい、頑張ります」


 レイちゃんに優しく諭され、反射で頷く私。


 残念ながら私にチートは備わっていなかったようだ。ここは地道に頑張るしかない。


 と、言いつつ、日高さんと綾小路君のクリスマスデートは、しっかりと見守った。


 レイちゃんや後藤さんたちの監視の目をかいくぐって外に脱出するのは手間だったが、なんとかやり遂げることができた。


 一応、イベントを見届けた感じだと、順調に仲が深まっている感じだった。


 が、会話を聞いた感じ、あまりデートをしていない様子。


 日高さんは勉強を頑張りたいため、二人で会う頻度を減らしていたためだ。


 これはマンガ通りの展開ではある。だけど、それだけでは納得できない距離感を覚えた。


 そのことについても、理由が判明した。


 人探しに時間を使っていて、デートの回数が減っているという会話があったのだ。


 一体、どこのどいつを探しているんだ。そいつのせいで、希少なデート回数が減ってしまうなんて……。


 私が代わりに見つけ出して、二人の前に引きずり出してやろうか。


 という衝動が芽生えるも、今は我慢。じっと見守る時だ。


 とりあえず、次は大晦日の年越しイベントだ。


 この辺りはトラブルが発生するわけではないので、介入する必要はない。


 が、二人の仲が深まる重要イベント。


 日高さんと綾小路君、二人の関係がマンガと同じくらい進展しているのか、その辺りを確認しておきたいのだ。


 ひとまず、クリスマスイベントで感じた微妙な距離感程度であれば問題ない。


 このまま、何事もなく仲良くなっていってほしいものだ。


 そんなことを考えながら勉強に励んでいると、側でお茶を楽しんでいるナナちゃんとレイちゃんの会話が聞こえてくる。


「ねぇ、そろそろ矯正しないとまずいんじゃないの?」


「いつものことですから、問題ありませんわ」


「ほんと、甘いんだから」


「甘くはありません。勉強は厳しくしています。甘いというのは、クリスマスにお食事に出かけたアキラ君とナナちゃんの空気ではなくて?」


 と、レイちゃんが洋扇で口元を隠しながら「オホホ」と、笑う。


「く、アンタたちに恋人が出来たら絶対からかってやるんだから……」


 ナナちゃんは赤面しながらも、レイちゃんと私を睨んだ。


「ちょっと、なんで私までターゲットに入ってるの? 私は勉強してただけじゃん」


 なんたる理不尽。こんなに頑張っているというのに、なんという仕打ちか。


「マオちゃんが、ストーキングしてたのが悪いの!」


「えぇ~……?」


 と、私はナナちゃんに切れられつつも、勉強を頑張った。


 結果、成績は回復。高水準での維持も叶っている。


 これで、日高さんと綾小路君の見守りも捗るというものだ。




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