22
水族館から帰宅後、私はベッドに身を投げ出した。
まさか、雲上院礼香と友達になり、二人で遊びに行くことになるとは。
そして、何より驚きなのは、ここがマンガの世界かもしれないということ。
自分が取り巻きの一人だなんて、思いもしなかったよ。
「でも、おかしいな……」
ある程度のことは受け入れることができた。だけど、ひとつだけ気になっていることがある。
それは、私の顔。
マンガで登場する九白真緒と、顔がまったく似ていないのである。
悪役令嬢である雲上院礼香、そしてその取り巻きの一人である四谷真理。
あの二人がこのまま成長すれば、マンガの登場人物と全く同じ顔立ちになると思う。
初対面でマンガのことを思い出すくらいには、今の年齢でもそっくりなのだ。
だけど、私は違う。全然似ていない。マンガの九白真緒はもっと細長い体形で釣り目顔だった。
そして、もう一人の取り巻きである四谷真理が、ふくよか目の体形でたれ目。
対照的な体形で、主の雲上院礼香の後ろに控えていた。
三人そろって典型的な悪役的シルエットを構成していたのだ。
それなのに今の私は中肉中背。身長は高い方だと思うが、細さが際立っているわけでもない。
最も違う部分は母譲りのギザギザな歯であろう。
マンガの九白真緒は普通の歯並びだった。
「なんでだろ?」
まさか私は母の子ではなく、養子だったりするのだろうか。
とも考えたが、それにしては顔立ちが母にそっくりすぎる。
むしろ、マンガの九白真緒が父にも母にも似てない。
「もしかして……、鍛えすぎちゃった?」
母の出す課題をそつなくこなした結果、筋肉がついて成長を阻害。
身長の伸びが落ち着き、顔立ちも変化してしまった。
歯に関しては、ここがマンガの世界というのであれば、成長過程で形が変化していくのかもしれない……。
「不思議だけど、これ以上考えても答えが出そうにないなぁ。でも、気づくのが遅れたのは、この顔のせいでもあるよね……」
もう少し、マンガの九白真緒と似た顔立ちであれば、引っ掛かりを感じて思いだしたかもしれない。
まあ、過ぎたことだし、しょうがないか。
何より、マンガのコテコテの取り巻き顔より、今の母譲りの鋭さがある顔の方が好きだ。
成長すると、きっと母のように格好良い顔立ちになると思うんだよね。
自分の顔についての疑問を投げ捨てた私は、次に死亡フラグについて考えた。
脱獄犯が学校を占拠し、逃げ出そうとした雲上院礼香と、盾にされた私と四谷真理は、撃たれて死ぬ。
事が起こるのは、高校になってから。
今の私は小学五年生。随分と先の話だ。
時間的にかなり猶予がある。
イベントが起こるまでにやっておけることがないか考えてみる――。
強いて言うなら、舞台となる学校に行かないようにする、くらいだろうか。
だが、多分それは無理だろう。
私が通わずに逃げることはできると思うが、レイちゃんが無理なのだ。
雲上院というブランド的に、あの学校に入学しないという選択肢はない。
つまり、学校に入るのは確定。
入学した後にできることと言えば、悪役令嬢的振る舞いを軽減させることかな。
でも、雲上院礼香が悪役令嬢的振る舞いをするのと、死亡フラグは直接関係ないんだよね。
雲上院礼香がいい人になったとしても、ざまあみろという感想が、惜しい人を亡くしたというものに変わるだけ。
脱獄犯に拘束された際に、逃げ出さなければ撃たれないかもしれないけど、確実とは言えない。
イベントは突発的なもので、様々な事を積み重ねた結果、起こるものではない。
あの場が構築されてしまった瞬間、どうなってしまうか予想がつかない。
結局、以前考えた通り、事件が起きる前に両親と協力して、脱獄犯を捕まえてしまうしかない。
それに失敗してしまった場合も、当日、両親に協力してもらうのが一番だろう。
両親が妙な仕事をしているおかげで、妙な安心感がある。
そうなってくると、今から出来る事は、私自身を鍛えることかな。
一人で立ち向かえる人数ではないが、自分の身を自分で守れるようになっていれば、両親も動き易くなる。
それに、今の私には霊術がある。
全身に霊気を溜めれば、筋力を無視して身体能力を高められる。
だから、意外と戦力として役立つと思うんだよね。
となると、私のやる事は今まで通りだ。
ひたすら霊力を鍛える。つまりは霊核を育てる。
そのために、霊気圧縮し続ける。
ただただそれをやり続ける。
後は合間を見て、体の動かし方を母に教わればいいだろう。
ということは、結局今までやってきたことと変わらない。
中学まではそんな感じで様子見かなぁ。
気になるところがあるとすれば、マンガの主人公である因幡七海の存在。
現時点で彼女を探し出すのは、難しい。
なんせ、マンガの第一話の時点で高校だからね。それまでの生活は断片的にしか語られていないのだ。
一応、作品の主人公なので、どういった経歴かは物語の中でざっと語られてはいる。
確か――、両親が不明で養護施設育ち。
小さい頃から頭が良かった。
中学生時に、養護施設に寄付をしてもらう条件で、資産家の老夫婦に養子として引き取られる。
そして、マンガの舞台となる学校へ特待生として通うことになる。
――といった感じだったはず。
これらも、回想シーンがあったわけではなく、簡単な会話シーンで語られるのみ。
詳細は不明なのだ。ここでネックになってくるのが名前だ。
養子になったということは、高校に通っている時と今で苗字が違うはずなんだよなぁ。
しかも、養護施設が他県の可能性がある。
資産家の老夫婦は苗字と特徴から捜せるかもしれないけど、今の段階では主人公と接点がない。
中学校に通うくらいになれば、もう少し捜し易くなるかな?
でも、捜してどうする?
会って何を話す?
マンガの主人公である因幡七海は、性格に難があるわけではない。
むしろ、マンガ通りなら凄くいい子だ。
わざわざ、こちらから働きかけて、何かを修正する必要はない。
放置しておいた方が、話の通じるいい人に育つ可能性が高いんだよなぁ。
他にできることといったら、高校を変更してもらうくらいかな?
でも、彼女の入学先を変更するのは、あまり良い手段ではない。
舞台となる高校に入学してもらわないと、未来の予測が困難になってしまうからだ。
脱獄犯が学校を占拠する際も、被害に遭うのは私たちだけで、他は全員無事。
無理に入学を辞めさせるほどでもない。
ちょっと危ない目に遭わせてしまうので気が引けるけど、彼女の入学を取りやめさせたとしても、代わりに他の誰かが入学するだけなんだよね。
いじめに関してもそうだ。
結局、因幡七海の代わりに入学した特待生がいじめられるだけだ。
レイちゃんの性格が変わったとしても、特待生というシステムは残ったまま。
他の誰かが、因幡七海の代わりに入った特待生をいじめる可能性は大いにある。
そして、学校を潰しでもしないかぎり、脱獄犯の計画も変わらない。
それなら彼女に入学してもらった方が助かる。
因幡七海はマンガの主人公、彼女を中心に物語は描かれている。
中心人物が学校にいなくなったら、どんなことが起きるか全く分からない。
そうなってくると、あまり変更を加えず、予測し易い状態を作っておくのは作戦として悪くない気がする。
「様子見かなぁ」
マンガでの私は、影の薄い脇役。
主要な登場人物とのイベントなど存在しない。接点がゼロ。
現段階で、無理矢理関わった場合、どう未来が変化するか予測がつかない。
そもそも、他の登場人物と関わるのは難しいだろう。
皆、上流階級の中でも上位に属するお子さんだ。
我が家と接点がなさすぎる。
今のところ、積極的に関わって良いと思われるのは、レイちゃんくらいだ。
作品でも雲上院礼香の取り巻きになるんだから、問題ないと思う。
逆に他の登場人物とは、関わっても良い変化となるか微妙だ。
――結論。
霊核を大きくする。
レイちゃんと仲良くする。
他は積極的に関わらない。
――以上!
うん、シンプルで分かり易い。
進む方向が決まって安心した私は、そのまま布団にくるまり、眠りに付いた。
スッキリしたし、いい夢見れそうだ。
っと、それとは別に、レイちゃんのお父さんとは一度会っておかないと駄目だな。
タイミングをみて、父さんにセッティングしてもらうか。
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