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◆九白真緒
まさか、サロンがあんな状態になっているとは思わなかった。
結果、希望者には順次うちの研修を受けてもらった。
しかも、研修を終えた後は、定期的にコーチングの依頼が来る始末。
お坊ちゃんとお嬢さんの集まりだったはずなのに、全員戦闘訓練を受けるとは、これいかに。
しかも皆、霊薬を購入し、飲み切ってしまった。
当然、飲んだ霊薬は一属性が固定で発現するもの。
そうなると、秘密保持契約を結んで霊核を拡張する修行を実施してもらうしかない。
一体何がそうまでさせるのか……。
そういえば、新型の霊薬は飲み続ける期間が劇的に短縮できたらしい。
それに加え、使う素材の量が減ったので、味の方もほんの少しだけましになったそうだ。
そういう状態がプラスに働き、失敗した人はゼロ。
そんな霊薬を飲めるなんて、ちょっと羨ましい。
私とレイちゃんは、かなり辛い思いをしたのに。
それにしても……、向上心が間違った方向に作用しているとしか思えない。
止めるべきだと思ったが、サロンの主催者であるレイちゃんが超乗り気であり、ストッパーの役目を果たせない。
私では、一部のメンバーにしか発言力が機能しないので、止めることは難しい。
皆、暇さえあればトレーニングと霊術の修業に熱心に取り組んでいる。
というかストイック過ぎて、ちょっと怖い……。
その状態がサロンメンバー全員に浸透し、サロンの原型が無くなってきている……。
果たして、このままでいいのだろうか。
とまあ、ちょっとしたハプニングはあったが、そろそろ次のイベントが訪れる。
それは、アキラ君の誕生日会だ。
綾小路君の誕生日会を終えてやり遂げた気持ちになっていたけど、アキラ君の誕生日会も忘れてはいけない。
アキラ君の誕生日会は二回開催される。
業界人向けの大規模パーティーと、友人向けの小規模パーティーだ。
そしてその両方が、本来の誕生日から随分離れた日程で開催される。
理由は単純。鷹羽家が多忙を極めているせいだ。
最近は、それにプラスして妖王討伐計画も立ち上がっているため、中々時間を作り出せないようだ。
そのため、日取りが決まったのは開催日間近だった。
ちなみに私はナナちゃんの友人ということで、小規模パーティーに招待されていた。
――というわけで、小規模パーティー当日。
私たちは、アキラ君の自宅にお邪魔していた。
参加人数は本当に少数。装飾も最低限で、非常にささやかな催しとなっていた。
アキラ君曰く、「俺は落ち着いた雰囲気の方が好きだから、こうした。派手なのが好きな奴は、大規模パーティーにくればいい」ということらしい。
その発言を聞いたナナちゃんが反応する。
「私は大規模パーティーも呼ばれてたけど、あっちは面倒だから止めとくわ」
と、ナナちゃんが大規模パーティーを欠席することをアキラ君に伝えた。
すると、アキラ君が緊張した面持ちで、どこか言いづらそうにしながら口を開く。
「いや、できれば出てほしい。その……、俺の大切な人として、皆に紹介したいんだ」
「ぇ……、あ、はい」
その言葉を聞いたナナちゃんは、少し頬を赤らめながら頷いた。
一連の会話を聞く限り、これは公の場でナナちゃんを紹介するということだ。
二人の仲も随分と進展したということなのだろう。
といった一幕があったりしたが、誕生日会は何の問題もなく楽しい時間が過ぎて行った。
一応、マンガの誕生日会イベントが起きないか警戒していたが、これなら大丈夫そうだ。
そもそもマンガでは、こんな小規模パーティーは開催されていなかった。
そして、ナナちゃんに対する悪役令嬢ポジションの人物もパーティーに参加していない。
第一、今の彼女に悪役ムーブを取れるような人は煌爛学園に存在しない。
この感じであれば、ナナちゃんサイドで誕生日会イベントは起きないだろう。
大規模パーティーは業界人向けのものだし、参加者の大半は大人。
小規模パーティーより、イベントが発生する可能性は低い。
どちらのパーティーでも、ナナちゃんの隣にはずっとアキラ君が居る。
それに加え、四柱当主ではないが、それと同等の権限を有した五属性霊術師のナナちゃんに、この場に相応しくないとアキラ君の前で退場を促すのは無理筋。
これでは、イベントの起きようがない。
もし、起きたとしても、ナナちゃんとアキラ君の二人なら、私が何かしなくても上手く立ち回ることだろう。
そんなことを考えている間も、何事もなくパーティーは進行していく。
その際、ナナちゃんとの会話を聞き、あることが判明した。
どうやら、マンガのイベントで霊術関係のものは、ナナちゃんの方で発生していたようなのだ。
作中でヒロインは高校生になって初めて霊気を発現する。
しかも五属性として。
そこで、霊術師としても名高いヒーローの家と関わり、色々な問題や衝突が発生する。
そういったことを乗り越えることで、ヒーローのご両親とも打ち解けていく。
ナナちゃんは、それらのイベントをひっそりとこなしていたわけである。
その辺りの事に関しては、今知っても問題ない。命の危険に関わるような展開は存在しないし、ヒーローと仲が深まるのに重要なものだ。
初めから私が干渉する必要はないと考えていたイベント類である。
それより重要なのは、霊術関連のイベントは消えたわけではなく、ナナちゃんに起きていたということだ。
日高さんと綾小路君は霊気を発現していないので、イベント自体が起きていないと思っていたが、どうやら違ったようだ。
つまり、霊術関連のイベントで重要なものは、ナナちゃんをチェックする必要があるということになる。
この辺りを今の段階で気づけたのは良かった。
とはいえ、霊術師関連のイベントは人間関係がクローズアップされ、それ以外はあっさりしている。
それは、マンガのジャンルが関係している。
きら☆スピのジャンルは、ラブコメ。
基本バトル展開はない。
あったとしても淡白なもので、一コマで完結するようなものばかり。
危険なイベントは、妖怪とは無関係な火事とか誘拐とか、そういったものが大半。
妖怪が目立つ形で登場するのは、学校行事などとミックスされる形がほとんどなのだ。
そのため、霊術関連のイベントを軽視していたのである。
これから先で、重要なものは師匠キャラの登場イベントくらいだろう。
メタ読みすると妖怪関連のイベントは、きっと次の新連載のために抑えていたんだと思う。
と、有用な情報をゲットできたことに満足していると、話題は旅行の話に発展していく。
どうやら、アキラ君は年末年始辺りを狙ってスキーに行く計画を立てているそうだ。
「お前らも、来るか?」
と、アキラ君が誘ってくれる。
なぜ誘ってくれたかと言えば、ナナちゃんの参加が決定しているからだ。
友人である私たちにも、一応聞いてくれたのだろう。
すると、レイちゃんが私にアイコンタクトをしてくる。
多分、二人のお邪魔になるから、遠慮しておこうという合図だ。
しかし、ここは参加しなければならない。
私は首を振って、参加する方向で調整するよう合図を送る。
――これには理由があった。
マンガのイベントにスキー旅行があるのだ。
このイベントに関しては、ナナちゃんサイドで起きる可能性が高いと踏んでいる。
霊術は関わらないのだが、日高さんサイドでは起きにくい条件なのだ。
とはいえ、動きやすさを重視するなら、断って別行動にした方がいい。
が、今回のイベントは、現場で登場人物たちがどのような関係性で、どんな会話をしているか把握しておきたい。
それに、鷹羽家が関わる宿泊施設にカメラやマイクを仕掛けるのは、それなりにリスクがある。
そのため、参加を決めた。
こちらの参加希望を受け、詳細な日程は後日知らせてくれることが告げられる。
と、話がまとまりだしたところで、急に勢いよく扉が開いた。
そして、不意の闖入者が登場する。
まさか、ここで登場するとは……。
私がスキーイベントに、参加したかった理由。
それが彼女――、親類が決めたアキラ君の婚約者候補である海老名理沙だ。




