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 ◆九白真緒



 誕生日会イベントは一波乱あったが、無事に事なきを得た。


 日高さんが迷子になって雪沢俊也と出会ったのは、マンガ通りの展開。


 しかも、雪沢俊也が日高さんに好意を抱く、という展開まで再現されていた。


 後に分かったが、雪沢俊也は知り合いの知り合いという立場で招待を受けたようだ。


 しかも、友達招待枠ではなく、業界人系大人枠で。


 そう聞くと、不自然な参加にも納得がいく。


 その後に、瀬荷城宝子が護衛を連れて乱入してきたのは予想外だった。


 まさか、あそこまで強引な手法に出るとは……。


 瀬荷城宝子が出現した時には、日高さんを主軸にしたイベント進行が始まっていた。


 進行の妨げになると判断した私は、瀬荷城宝子を追い返すことにした。


 私たちが会場の警備員の人たちと一緒に瀬荷城宝子の対応している間に、日高さんと綾小路君たちが合流。


 マンガのイベント展開と同じ感じに収束してくれた。


 レイちゃんが私に同行してくれたのも予想外だったが、非常に助けられた。


 いつの間に、あんなに色々な事が出来るようになっていたんだろう。


 すごく頼りになる存在になっていてビックリである。


 などと、誕生日会の事を雲上院家主催のサロンで思い返していた。


 そんな感じで、イベントの方はつつがなく終わったのだが、別のところで異常が起きていたりする。


 ――それはこのサロンだ。


 最近、参加メンバーの様子がおかしいのだ。


 丁度、誕生日会が終わった後あたりから異変が生じ、日を増すごとに違和感が強まっている。


 といっても、レイちゃんに取り入ろうとか、情報を盗み出そうとしているとか、そういった不審さではない。


 雰囲気……、いや流行というべきか……。


 サロン内の話題に、強烈な偏りが生じているのだ。


 具体的には、筋肉――。


 そこかしこで、やれ筋トレがどうとか、タンパク質がどうとか、プロテインの味がどうとか……。


 フックのフォームがどうとか、ハイキックの狙いどころがどうとか……。


 果ては、関節技やタックルの話題まで出る始末。


 異変に気付いた私とレイちゃんは、密かに調査に乗り出した。


 すると、驚愕の事実が判明する。


 何と、サロンの真のメンバーとなるためのイニシエーションと称して、疑似霊薬を飲ませるようなことまで行われていたのだ。


 ……自分たちの感知しないところで、とんでもない事になっていた。


 このサロンは一体いつから、こんなカルト組織に……。


 更に調査を進め、ついに首謀者を突き止める。


 なんと首謀者は、私たちもよく知る暮舞不破子さんだった。


 彼女が何の理由もなくこんな事をするはずがない。


 きっと何か深い事情があるはず。


 そう思った私たちは、暮舞さんを個室に呼び出し、話を聞くことにした。


「なぜ、こんなことを?」


 私は率直に尋ねた。


 彼女なら回りくどい事をしなくても、素直に答えてくれると思ったためだ。


「の、乗りです……」


「え」


 暮舞さんから紡がれた言葉が意外すぎて、つい聞き返してしまう。


 そこで、ここまで黙って話を聞いていたレイちゃんがパチンと洋扇を閉じ、口を開いた。


「暮舞さん、わたくしたちは怒っているわけではありません。どうか、正直に話していただけませんか」


 とういうレイちゃんの言葉に、暮舞さんはゆっくりと話し出す。


「そ、その……、初めは普通にトレーニングをしていただけなんです」


「ふむふむ」


 と、私は相槌をうつ。


 トレーニングって段階で、おかしい気もするけど、話を中断させるわけにはいかない。


「でも、いざやってみると意外に単調でモチベーションの維持が難しかったのです。それで、色々工夫していったのです。専用のユニフォームを作ったり、積極的に取り組んでいる人を表彰したり、参加メンバーに特典を付与したり……」


「聞いている限り、普通ですわね」


「うん。むしろ、工夫して頑張っているように聞こえるね」


 私とレイちゃんは顔を見合わせ、暮舞さんの努力ぶりに感心していた。


「でも、色々やっていくうちに、もうちょっと個性があった方がいいとか、特別感が欲しいという要望が出るようになりまして……。それで、皆が楽しく取り組めるなら、良いことだと思って様々な要望に応えていったのです。そしたら、いつの間にか、あんなことに……」


「なるほど、経緯は把握しました」


 暮舞さんの話を聞き終え、レイちゃんが目で応じる。


 私は会話が一区切りついたタイミングで、初めから疑問に思っていたことを口にした。


「でも、なんでそこまでして、トレーニングを続けようとしていたの? そもそも、メニューがかなりハードなものだったみたいだけど」


 調べた感じでは筋トレに留まらず、格闘技の習得まで行っていた。


 果ては、疑似霊薬まで飲んでいたみたいだし。


 趣味で取り組むレベルを超えている。


 すると、暮舞さんが思いつめた表情で目を見開く。


「じ、実はそのことでご相談が!」


「どうなさったのですか?」


 暮舞さんの迫真の表情に、ただ事ではないと悟ったレイちゃんが親身に問う。


 すると、彼女がとつとつと語り始めた。


「最近行き詰まりを感じていまして。レイカ様は、九白さんのお家で研修を受けたと聞きます。もしよろしければ、私たちも研修を受けさせていただけないでしょうか」


「あら、それは良いではありませんか」


 暮舞さんの話を聞いたレイちゃんは、花を咲かせたように顔を綻ばせた。


「ええ!?」


 だけど私は疑問顔。


 なぜ、そこまでして……?


 すると、レイちゃんが私の方を向いて、じっと見つめてきた。


「マオちゃん、わたくしからもお願いしますわ。折角、皆さんがやる気になっているのですし、協力いただけませんか」


「お願いします!」


 レイちゃんの発言の後、暮舞さんが机にこすりつける勢いで頭を下げた。


 やる気があるのは良いことだと思う。


 思うんだけど……。


「うちは厳しいので、止めておいた方がいいですよ」


「覚悟の上です! そして、それと同時に、もう一つレイカ様と九白さんにもお願いしたいことが……」


 と、暮舞さんが、力強い勢いを維持したまま、私たちの方を見る。


 そんな彼女の言葉を受け、レイちゃんが首を傾げる。


「あら、なんでしょう?」


「サロンメンバーに霊薬を融通していただけないでしょうか。トレーニングに取り組んでいるメンバーは疑似霊薬を経験済みなので、確実に飲み終えることができますので……。どうかお願いします!」


「それは素晴らしいですね。わたくしの方から、お父様と弓子さんに話をして、許可を得ておきましょう」


 暮舞さんのお願いを聞いたレイちゃんは、両手を合わせて大喜びとなる。


 そして、あっさり了承してしまった。


 いや、待って。


 それは勝手に決めたらまずいのでは……。


「ちょ、レイちゃん?」


 私は慌てて、レイちゃんを止めようとする。


 しかし、彼女は非常にご機嫌な様子で、こちらの言葉を遮った。


「大丈夫です。サロンで霊薬を希望される方は、条件をクリアすれば販売を許可しましょう。そして、皆で霊術師になりましょう!」


「はい!」


 と、レイちゃんが、暮舞さんの要望を全面的に受け入れてしまう。


 暮舞さんは大歓喜となり、瞳を潤ませながら頷いた。


「お~い……。そんなこと勝手に決めちゃっていいの?」


 私は声量を抑えて、レイちゃんに尋ねた。


 現在、霊薬の生産は安定したものとなっている。


 それなりにストックがあるとはいえ、独断で決めていいとは思えない。


 私はそう考えていたのだが、レイちゃんは自信満々の表情を崩さなかった。


「問題ありません。霊薬はストックも十分にあります。サロンメンバーであれば、販売対象として最良。ここが放出時でしょう」


「そう言われると、そうかもしれない」


 問題がある人物は、このサロンには参加できない。


 そしてメンバーは全員、雲上院を支持している者たちで構成されている。


 そう考えると、重要なものを販売する顧客としての要件を満たしている。


 ……ならいいか。


「まあ、マオちゃんと一属性がお揃いというアドバンテージがなくなってしまうのは、悲しいですが、受け入れないといけないですね……」


 と、少しがっかりした表情となるレイちゃん。


 そう言われてみると、今まで同年代で一属性の霊術師は私とレイちゃんの二人だけだったことに気づく。


「あ、ショックなところはそこなんだ」


「もちろんです!」


「あ、はい……」


 意外に強く言われたので、素直に頷いてしまう私。


 結局、暮舞さんたちがトレーニングを始めた動機は、乗りということで片付いてしまった。


 そして、雲上院派のサロンメンバー内の希望者に、うちの研修参加と霊薬の提供が決定した。


 う~ん、どうしてこうなった……。


 果たして、これで良かったのだろうか。




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