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 瀬荷城さんが雇った護衛たちの前に、二人の女子が立ちはだかったのだ。




 藍白系青髪で編みおろしの女の子と、アッシュブラウン系茶髪でボブの女の子だ。


 体を鍛えているのか、立ち姿が非常に美しく、印象に残る。


 というか、どこかで見たような……。


 不思議な既視感を覚える。


 って、レイカ様の変装だ!


 茶髪ボブの子は、以前私がレイカ様に護衛してもらった際に披露していただいた変装と瓜二つ。というか、そのもの。


 そのことに気づくと、威風堂々とした立ち姿にも納得がいく。


 あれは間違いなくレイカ様だ。


 しかし、隣に立つ青髪編みおろしの子には見覚えがない。


 雲上院派のサロンでも見かけたことのない顔だ。


 だけど……、レイカ様の隣に立っていて違和感がない。


 むしろ、しっくりくる。息の合った二人の姿には妙な納得感があった。


「なんでしょう……、顔立ちは全く似ていないのですが、立ち姿がレイカ様とマオお姉様にそっくりですね」


 と、夜月さんが、ぽつりと呟いた。


 それに続いて薬帆さんも、「実は私もそう思っていたんです。なんというか、二人の距離感や醸し出す雰囲気がそっくりです。もしかして、ご親戚の方なのでしょうか」と、同意する。


「あ……」


 私は、そこで気づいた。


 隣にいるのは九白さんだ。間違いない。


 レイカ様が変装されているのだから、九白さんも変装しているに違いない。


 私が確信を得た頃、茶髪ボブに変装したレイカ様が口を開く。


「ここは綾小路君の誕生日会。招待状をお持ちの方のみ、入場が許されています。係の方の言葉を聞く限り、招待状をお持ちではない様子。どうかお引き取り下さい」


「うるさい、小娘が! そこをどけ」


 そう怒鳴ると、護衛の男がレイカ様を払いのけようと腕を払った。


 しかし、レイカ様がその腕を掴んで投げ飛ばしてしまう。


 護衛は盛大に尻もちをつき、床に衝突した際に大きな音を立てた。


 その音に紛れて、青髪編みおろしに変装した九白さんが残りの護衛を一気に無力化してしまう。


 ほんの一瞬。あっという間の出来事だった。


 気が付けば、残されたのは護衛の雇い主である瀬荷城さんたち三人のみ。


 三人は、思うようにいかなかったせいか、動揺を隠せない様子だ。


 そこへ、イベント会場の警備員が駆け付け、レイカ様達から事後処理を引き継ぎ始めた。


 状況が悪いと判断したのか、瀬荷城さんは慌てた様子で「会場を間違えただけです!」と言い訳しだした。


 するとレイカ様がすっと腕を上げ、出入口を指す。


「ふふ、そうでしたか。それでは出口はそちらですので、お帰り下さい」


「本来の会場への道が分からないのであれば、係の人に聞くといいですよ」


 と、九白さんが付け足す。


「道なら分かります! 行きますよ、皆さん!」


 瀬荷城さんはレイカ様と九白さんを一睨みした後、早足で退散していった。


 その顔は怒り心頭といった様子で、ドスドスと足音を立てながら出ていく。


 結局、レイカ様と九白さんによって、瀬荷城さんは追い払われることとなった。


 と、ここで友人たちが、二人の正体に気づいたようだった。


「ねえ、暮舞さん。あの二人ってレイカ様とマオお姉様よね?」


「うんうん、あの声は間違いないです! でも、お顔が全く違いますわ」


 興奮した様子でまくし立てる二人。そりゃあ、そうなってしまうのも仕方がない。


 私は、ふぅと溜息を吐き、事情を説明する。


「ええ、その通りですわ。レイカ様に関しては確実です。私は、あの姿のレイカ様と会ったことがあります」


 私が確信を持ってそう告げると、二人が大きく目を見開いた。


「二人の仕草や距離感が誰かに似ているなと思ったけど、やっぱりレイカ様とマオお姉様だったのね! 凄く納得できるわ」


「でも、あの姿は一体……。変装という事でしょうか。それにしては本格的というか、違和感が全くないというか……。とても自然な感じですわ」


 正体を聞いた夜月さんと薬帆さんは、興奮した様子で二人の変装について話す。


「私がレイカ様のあの姿を見た時は、素性を悟られないためでした。きっと今回も、雲上院の者と明かすと問題があると判断しての行動だと思います」


 私は当時の事を思い出しながら、推論を述べた。


 きっと、お忍びで綾小路君のお祝いに来たに違いない。


 雲上院礼香が来たとなれば、主役そっちのけで人だかりができてしまう。


 そういう事を気遣って、変装して参加されたのではないでしょうか。


「そのことを話してしまって大丈夫なのですか?」


「それは私も思いました。口止めされなかったのですか?」


 と、二人がレイカ様と九白さんの正体を軽々に明かしたことについて、心配してくれる。


 しかし、問題ないだろう。


「いえ、特には。それにあそこまで完璧な変装が出来るのであれば、声も変えられるはず。それをしていないということは、最低限誤魔化せれば、それでいいとお考えなのでしょう。ただ、お忍びで参加されているようですし、サロンのメンバー以外には口外しない方がよいでしょうね」


 という私の言葉を聞いた二人が、納得の表情で首肯を返す。


「そうですね。今回のことは心に秘めておきます。それにしても、レイカ様とマオお姉様はどこで招待状を入手されたのでしょう」


「そういえばそうですね。綾小路君は最近東京に来たばかりですし……」


「まあ、雲上院家ですから、どこかでお知り合いになられていたのでしょう」


「「それもそうですね」」


 ふと、どこで招待を受けたかについて疑問を覚えたが、それも雲上院だから、の一言で解消されてしまう。


 雲上院家なら、招待されていても何もおかしくはない。


 きっと会場入りしてから、変装したのでしょう。


「それにしても……」


「どうかされましたか?」


 と、言葉を詰まらせた夜月さんに先を促す。


 すると、彼女は一拍間を溜めた後、笑顔で口を開いた。


「レイカ様もマオお姉様も、すごい身のこなしでしたね!」


「そう! それは私も思いました。格好良くて思わず見惚れてしまいました」


 と、今度は違った意味で、興奮しだす二人。


 二人とも、まるで子供がサーカスのショーや歌劇を初めて鑑賞したかのような反応だった。


 しかし、私は冷静だった。なぜなら、それほど驚かなかったからだ。


「……実は、護衛のお仕事をされていた時のレイカ様は、こんなものではありませんでした。犯罪者を複数相手どり、凄まじい身のこなしでバッタバッタとなぎ倒しておりました」


 そう、私は今日見た光景より、数段凄い状況を目撃してしまったのだ。


「ええ!? レイカ様が?」


「九白さんではなく?」


 私の言葉を聞き、夜月さんと薬帆さんが驚愕の表情となる。


「……はい。私は間近で目撃したのですが、未だに現実として受け止めきれていません」


 華麗に舞うレイカ様の姿は今も尚、瞳に焼き付いて離れない。


「さすがレイカ様ですね。でも一体、何の目的で、そのような技術を身に着けたのでしょう……」


「それを言うのであれば、あの変装もです。近づいても特殊メイクと気づけない完成度ですし、声を聞かなければ、今でも別人と思っていたはず……」


「何か、私たちには想像もできないような目的があるのでは」


 レイカ様と九白さんの真意が掴めない。


 私たちは、しばらく無言で考え込んだ。


 その場を沈黙が支配し、パーティーの喧騒が環境音として流れる。


 数分の後、夜月さんが何かを思いつき、声を上げた。


「……私たちも雲上院派の人間として、武術を修めるべきなのでしょうか」


「一考に値しますね。持ち帰って皆で相談した方が良いかもしれません」


 と、夜月さんの言葉に、薬帆さんが賛同する。


 二人の意見はもっともに思えた。


 これは、他のメンバーにも意見を聞いた方が良いかもしれません。


「そういえば……」


 すると夜月さんが、何かを思い出す。


「何かご存じですの?」


「確か、レイカ様もマオお姉様も霊薬を飲んで霊気を発現し、霊術をたしなんでおられるとか」


「私も、その話は聞いたことがあります!」


 薬帆さんも、その話に覚えがあったのか大きく頷く。


「……体術に霊術ですか」


 私は腕組みして考え込んだ。


「それら習得すれば、レイカ様やマオお姉様と共通の話題を持てるわけですね」


 と、夜月さんが興奮気味に言う。


 しかし、その言葉を聞いた薬帆さんは難しい顔になった。


「ですが、お二人の腕前は計り知れないもの。付け焼刃で初歩的なものを披露しても、ひんしゅくを買うだけで終わりそうです」


「……確かに」


 私は、その言葉に同意した。


 二人の動きは、プロのそれ。


 一朝一夕で、どうこうなるものではない。


 軽くかじった程度で訳知り顔をすれば、恥ずかしい思いをするだけだろう。


「そう言われると、本当に凄かったですよね。映画のワンシーンのような動きでした。あんなもの、数か月でどうこうなるとは思えません……」


 途端にしょんぼりした顔になる夜月さん。


 とはいえ、着眼点は間違っていないと思う。


「レイカ様と共通の趣味と言えば、両親からの許可はとれそうですが、環境を整えるのが難しそうですね……」


「やはり、皆で相談し、身に着けるべきと判断した場合は、詳細な計画に落とし込まないと意味がないですね」


 私の言葉を聞き、薬帆さんがより実践できそうな計画を考え始めた。


「こうしてはいられません。ここは早々に切り上げ、皆に招集をかけましょう」


 我慢できなくなった私は、二人にそう呼びかけた。


 ここでじっとしているより、計画の実行に向けて時間を使った方が有意義だ。


「ええ。善は急げですわ」


「行きましょう!」


 私の言葉を聞き、二人が深く頷く。


 ということで、私たちはサロンメンバーに招集をかけるため、その場を後にした。




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