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◆暮舞不破子
私、暮舞不破子は、綾小路君の誕生日パーティーに参加していた。
自分は、綾小路君とは同じクラスというだけ。
挨拶や軽い会話を交える程度。
それでも招待を受けた。
それは私が特別扱いを受けた、というわけではない。
綾小路君と同じクラスだった人は全員招待された、というだけだ。
彼は東京に越してきたばかりで、知り合いが少ない。
きっと、こういう場で親交を深めたいのだろう。
そう解釈したのは、私を含めたクラスメイト全員。
だから、ほぼ欠席なく全員が参加している状態となっている。
綾小路君は、愛知では有名な家らしい。
用意された会場は、非常に豪華で広い。
招待客も同年代の人間だけでなく、業界の人間と思しき大人の姿が多数あった。
そんな中、私は自分と同じように招待を受けた雲上院派のお友達と一緒にパーティーを楽しんでいた。
私たち雲上院派の人間が、ここですべきことは静観の徹底。
この場で新たな交流を持つつもりはなく、綾小路君のお祝いだけにとどめる。
ここで無理に人脈を広げようとする必要はない。
そういったことは雲上院派のサロンを介して行えばいい。
あそこは、招待客を事前に雲上院の人たちが選別してくれている。
そのため、相手の思惑を詳細に探る必要がない。
本音で本題をぶつけられる、数少ない場なのだ。
だが、ここは違う。
ここでは相手の真意を見極める必要がある。
下手な対応をして、親に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
それなら無理に手を広げない方が無難と判断した。
私は、クラスでいつも一緒にいる夜月澄香さんと薬帆葵さんの三人で、会場を見て回る。
会場の仕様、参加人数、提供される料理など、自身のイベントに利用できそうなものを話したり、参加者から綾小路君の家の人脈について予想したりしていた。
そんな感じで、会場の中心から外れた位置でひっそりとやっていたせいで、出入り口で起きた騒動にいち早く気づく。
どうやら、誰かが強引に会場に入ろうとしているようだ。
漏れ聞こえる会話内容から、招待を受けていない人が無理やり侵入しようとして、従業員に止められていることが分かる。
まさか、招待されていないのに押しかけるとは。
あまつさえ、強引に入ろうとするとは、余りに無礼。何を考えているのだ。
その者たちは、女性三人を中心に護衛を引き連れていた。
護衛がガードしているせいで、中心人物と予想される女性三人の顔がはっきり見えない。
ただ、怒りに満ちた金切り声だけが、護衛の隙間を縫って聞こえてくる。
しばらく、膠着状態となっていたが、一瞬の隙を突いて護衛の男たちがイベント従業員を押しのけ、強引に中へ入ろうとした。
従業員サイドは暴力沙汰になることを恐れ、口頭での注意のみ。
ただ、インカムで警備員を呼んでいる様子が窺える。
会場の入口は混乱状態となり、その場にいた人たちが入り乱れた結果、中心人物である女性三人の顔がはっきり見えた。
なんと、瀬荷城さんと因幡さんと四谷さんだった。
「あれって、瀬荷城さんたちですよね?」
顔を見ても信じられなかった私は、一緒にいた友人たちに確認した。
「ええ、間違いありませんわ。でも、なぜあのようなことを……」
「そうですよね。クラスメイトは皆招待されているはず……」
二人とも疑問顔で首を傾げる。
「まさか……、招待されていない?」
ハッとなった私たちは顔を見合わせ、その事実にたどり着いた。
私は……、いや、多分クラスメイト全員が、綾小路君のクラスに所属している全員が招待されたと勘違いしていたのだ。
なんせ、招待を受けた時、クラス全体がその話題で持ちきりだった。
同じクラスというだけで、ほとんど会話したことない人も招待を受け、皆で盛り上がっていたのを覚えている。
当時、自分は招待を受けていない、などと誰も愚痴っていなかったのだ。
そして当日になれば、見知った顔がそこかしこにいる。
そうなると、全員招待を受けたと勘違いするのも当然の帰結。
それがまさか、瀬荷城さん達だけ招待されていなかったなんて……。
多分、彼女は持ち前のプライドの高さから、招待されていないことを打ち明けられずに隠したのだろう。
でも――。
「今知って驚きましたが、よく考えれば当然のような気もします」
「そうですよね。彼女、日高さんに理不尽な当たり方をされていましたし……」
「綾小路君と日高さんの仲を考えれば、悪手中の悪手。でも、それ以前に人として尊敬できない振る舞いです」
私たち三人は顔を見合わせ、無言で同時に首肯する。
瀬荷城さんたちには、何度かそれとなく日高さんに対する接し方について指摘したが、全く聞く耳を持っていなかった。
結果、私たちは彼女たちを諭すことを諦めた。
だけど、そのまま放置していると、日高さんが理不尽に責められてしまう。
話し合った私たちは、日高さんを陰からフォローすることにした。
また、酷いことを言われているのを目撃したときは、すぐさま「そんなことはない」と否定し励ますよう努めた。
こういったことは、レイカ様や九白さんの行動を見て学んだ部分である。
そんな私たちの行動を見て、他のクラスメイトも動き方を変えていった。
瀬荷城さんに言っても無駄だから、日高さんがなるべく傷つかないようにするという動きが浸透していったのである。
その結果、瀬荷城さんたちはクラスで浮いた存在となってしまった。
三人だけで行動し、他のクラスメイトと話さない。
そういったことから、今回の誕生日パーティーに参加していないことに誰も気付かなかったのだ。
「あんなことをすれば益々綾小路君から不評を買うと思うのですが……」
「段々注目が集まっています。綾小路君どころか、いろんな人に見られていますよ」
「うう……、これは共感性羞恥なのでしょうか。こっちが居たたまれない気持ちになってきました」
私たちが何とも言えない気持ちで、事の成り行きを見守っていると、新たな展開があった。
瀬荷城さんが雇った護衛たちの前に、二人の女子が立ちはだかったのだ。




