214
私はレイちゃんと顔を見合わせた後、会場の様子を窺う。
入場した人は綾小路君の前に並び、順番にお祝いの挨拶をしているようだった。
私たちもそれに倣い、列に並ぶ。そして、何食わぬ顔で綾小路君にお祝いの挨拶をする。
彼の方も、半ば流れ作業で挨拶を返しているだけなので、こちらに違和感を覚えることはなかった。
挨拶を終えた私たちは、自然な動きで離脱。
周囲の様子を窺いながら、少しずつ中心部から離れていく。
――このパーティー、かなり規模が大きい。
多分、招待客が友人や知り合いだけではないのだろう。
親の知り合いなど、綾小路君の把握していない招待客も多数いるとみた。
お陰で、怪しまれることなく雑踏に紛れることができる。
会場は広く、立食パーティーの形式となっていた。
私たちは飲み物を取ると、壁際に移動。全体を見渡す。
そして、今回のイベントを思い出す。
マンガの展開では、ヒロインはライバルキャラと会場入り。
が、会場が広いせいで、ライバルキャラとはぐれてしまう。
その時、迷子の男子を発見。
男子を小学生と思いこみ、心細いだろうからと同行者を一緒に探すヒロイン。
その過程で迷子男子と仲良くなっていく。
そこに悪役令嬢たちが登場。
いつものパターンでヒロインをいびり、この場に相応しくないと退場を促す。
どうしてもヒロインを追い出したい悪役令嬢は、周囲を巻き込んで事を大きくしていく。
だが、そこで迷子男子が割り込み、阻止。
一人で悪役令嬢に反論していく。
すると、ここでヒーローの幼馴染みが登場。なんと迷子男子は幼馴染みキャラの弟だった。
弟から事情を聞いた幼馴染キャラが悪役令嬢を詰めていく。
騒ぎが大きくなったことで、ライバルキャラも合流。追い詰められる悪役令嬢。
そして、とどめに騒ぎを聞きつけたヒーローが登場。
悪役令嬢に対し、退場するのはお前だ、宣言をする。
その後は、ヒロインがヒーローに手作りクッキーのプレゼントを渡し、喜ばれる。
そして、弟キャラが中学生であることを知る。その弟キャラから告白されるも、友情的なものと勘違いし、自分も好きだと返すヒロイン。
その場を皆が目撃し、ヒロイン以外が誤解に気づくと言ったオチで幕を閉じる。
――とまあ、全体としては、そんな流れだ。
だけど、この状況では、同じような展開になりようがない。
まず、幼馴染キャラの弟である雪沢智仁の弟が登場しないだろう。
マンガでは、アキラ君の誕生日なので、雪沢弟が招待されているのも頷ける。
が、今回は綾小路君の誕生日パーティー。雪沢弟がこの場にいる理由がない。
次に、悪役令嬢が登場できないということ。
実は今回、瀬荷城宝子は招待されていない。
マンガでは、クラス内で悪役令嬢を筆頭に多数の生徒が、ヒロインに辛く当たっていた。
そのため、悪役令嬢の過剰な行為が他生徒の行いに紛れて目くらましの様になっていた。
だから、ギリギリお目こぼしを受けて、誕生日パーティーにも招待されていた。
しかし、現実の展開は違う。
日高さんに対して攻撃的なのは瀬荷城宝子と、その取り巻きだけ。
他のクラスメイトは、どちらかというと日高さん寄りだ。
なぜそうなったかというと、クラス内に雲上院派の生徒がそれなりに在籍しているためである。
雲上院のサロンに所属している者は善性が高い。
瀬荷城宝子の振る舞いに嫌悪感を抱くのは当然の事。
そういった生徒がクラス内に一定数いるため、全体の空気もマンガとは全く違ったものになっているのである。
結果、マンガとは違って瀬荷城宝子たちがクラス内で浮きに浮いている。
そのせいで、誕生日パーティーにも招待されなかったのだ。
というわけで、このイベントがどういう展開になるのか予想がつかない。
マンガでは大きなイベントだったので、何か起きるかもしれない……。
特に、雪沢弟の代わりとなる人物が登場するのであれば、把握しておきたい。
そんな事を考えながら様子を窺っていると、日高さんと古畑君が会場入りした。
そして、混雑に巻き込まれて離れ離れになってしまう二人。
――ここまではマンガと同じ展開だ。
この後は、雪沢弟のポジションとなる人物と出会うはず。
そう思って見守っていると、なんと雪沢弟本人と遭遇していた。
名前は確か、雪沢俊也。
雪沢俊也と会ったことはないが、外見がマンガと瓜二つなので、本人と見て間違いないだろう。
「あら、あれは雪沢俊也君ではないでしょうか」
と、レイちゃんも雪沢俊也の登場に驚いている様子。
「雪沢俊也君?」
私は一応知らないふりをして、レイちゃんに聞き返す。
「智仁君の弟君ですわ」
「そうなんだ。雪沢家と綾小路君の家って知り合いなのかな」
「どうでしょう……。全てを把握しているわけではないので、何とも言えませんね。単純に雪沢俊也君のみが招待されただけかもしれませんよ」
まあ、雪沢俊也君も中学生だし、招待されるルートは複数あるだろう。
そうなると、兄と一緒に来たわけではなく、個人か友人たちと来ているのかもしれないということだ。
「それもそうだね。智仁君も出席してるのかな。それとも俊也君だけかな」
そう言いながら、智仁君を探してみる。
もし智仁君もいるなら、イベントが発生した場合、展開の収束はマンガと似た感じになると思うんだけど……。
と、見回すも、それらしき人物はいない。というか、人が多すぎて分からない。
「見当たりませんね。探査術を使って探してみますか?」
「目立つからやめておこう。もし来ているなら、そのうち見かけるよ」
今回の目的は、事の成り行きを見守ること。
派手に動く必要はない。
ストーリー通りにイベントが展開されなくても、結果が同じ状態に収束されるならそれでいい。
ただし、日高さんに不利な状況になるようであれば、介入するつもりではある。
そう考えながら、瀬荷城宝子が来ていないか探す。
事前に調べた感じだと招待されていなかったが、どうだろう。
この場に瀬荷城宝子が居なければ、他の誰かが日高さんを糾弾して追い出そうとする展開になるんだと思う。
が、クラス内で瀬荷城宝子以外に日高さんを敵視している人物はいない。
もしかしたら、表には出していないけど、綾小路君と日高さんの関係を快く思っていないクラスメイトもいるかもしれない。
だけど、招待客に選ばれるような人物が、誕生日パーティーという場で空気も読まずに暴れまわるようなことはしないと思うんだよね。
となると、ヒロインが追い出されるシーンがカットされ、全員が合流して雪沢弟が告白するシーンだけ再現されるのだろうか。
そんなことを考え込んでいると、レイちゃんが出入り口の方を見た。
「何やら、会場の外が騒がしいようですが……」
そう言われ、耳を澄ます。
私たちは壁際にいたため、会場内の音より出入り口の音の方が聞こえるのだ。
どうやら、外で何か揉めているような……。
誰かが叫ぶ声が、分厚い扉越しに薄っすら聞こえてくる。
と、思った次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。
そして、係員の制止を振り切って中へ入ってくる人が見えた。




