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◆九白真緒
盗撮騒動の後も、小イベントは散発的に起きた。
例えば、黒板のラクガキだろうか。
ある日、瀬荷城宝子たちが早朝に登校。
黒板に日高さんの誹謗中傷を書いたのだ。
彼女たちは、教室に残っていると疑われると判断し、もう一度登校しなおそうと出て行った。
私は、そのタイミングで教室に侵入。ラクガキを消しておいた。
二度目の登校で瀬荷城宝子たちは、黒板のラクガキが消えていたことに驚いていた。
それから、私と瀬荷城宝子たちとの攻防が数日続いた。
そして向こうの根負けで、私の勝利となった。
というのが、それなりに時間を要したものだろうか。
それ以外は、大したことは起きていない。
そして、そろそろ次にチェックしたい大型イベントが近づいて来た。
次に起こるのはヒーローの誕生日パーティーイベントとなる。
調べてみると、アキラ君のパーティー開催日は未定。
どうやら、綾小路君の誕生日パーティーが先に開催されるようだ。
しかし、ここで問題が発生する。
私は、綾小路君の誕生日パーティーに招待されていない。
レイちゃんも、ナナちゃんもだ。
なんせ、クラスが違って、今まで一切接点がない。
その上、綾小路君は今年になって東京に引っ越してきたばかり。
招待されるはずがないのである。
調べてみると、綾小路君の誕生日パーティーに招待されているのは、クラスメイトと地元の友人たち。
残念ながら、私たちは綾小路君に招待されるほど、親密な関係になることはなかった。
むしろ、原作に近いストーリー進行になるように、接触をさけていた。
招待されないのは当然なのだ。
さらに言えば、私の側にはレイちゃんがいるので、余計に声をかけづらいというのもある。
もし、ある程度親密になっていたとしても、間接的に雲上院家とお近づきになろうとしていると誤解されるのを避けるため、招待しなかった可能性もありえるのだ。
「というわけで侵入してくる」
「どういうわけ?」
私の言葉に、秒で聞き返してくるナナちゃん。
「え、今説明したんだけど」
綾小路君の誕生日パーティーに出席したかったけど、招待されなかったから侵入してくる、と端的かつ分かり易く話したつもりだったのだけど、難しかっただろうか。
「いや、そこまでして出席したい理由が分からなかったんだけど……」
と、続きを言いかけて段々声が小さくなっていき――
「――まあ、よく考えたら、マオちゃんだからだなって自己完結したから、もういいよ」
――と、納得してくれるナナちゃん。
「うん、ありがとう」
これぞ以心伝心。持つべきものは友だね。
「でも、どうやって侵入するの?」
「偽造招待状を使って、変装した状態で正面から入るよ」
「そうですか……」
私の返答を聞いたナナちゃんが、何とも言えない目でこちらを見てくる。
するとレイちゃんが、キリッとした顔で言った。
「わたくしは同行させてもらいますね」
「え?」
レイちゃんの参加宣言に驚いた私は、思わず声を上げてしまった。
それと同時にナナちゃんがクワッと目を見開き、声を上げる。
「駄目だよ! そんなキモいことを一緒にしたら、性格に影響が出るじゃん!」
「ナナちゃん?」
私が名前を読んで問いかけると、そっぽを向いて口笛を吹き始めた。
……ちょっと、後で問い詰めようかな。
とうのレイちゃんは行く気満々のようで、こちらの会話を聞いていない。
「わたくしも訓練を積み、変装技術は習得済み。足手まといになることはありませんわ!」
「……でも」
無法の限りを尽くしての侵入だし、あまり賛同できない……。
そんな風に考えていると、レイちゃんがグイと近づく。
「問題ありませんわ!」
「それでもやっぱり……」
父親の昭一郎さんにバレると、問題がありそうなんだけど……。
そんな風に考えていると、レイちゃんがズズイと近づいてくる。
「行きますわ!」
「はい……」
私は、レイちゃんの圧力に押し切られて頷いた。
というわけで、レイちゃんの同行が決まった。
――そして、誕生日パーティー当日。
変装用メイクを終えた私とレイちゃんは、互いに向き合っていた。
「素晴らしいですわ。全く別人に見えますの」
と、レイちゃんが、私の変装を見て絶賛する。
そういうレイちゃんの変装も、なかなかのものとなっていた。
「レイちゃんも完璧だね。まさか、ここまでやるとは思ってなかったよ」
お互い顔を見合わせ、「フフフ」と笑う。
「あんたたち、どこを目指してるのよ……」
変装した私たちを見て、ナナちゃんが呆れたように半眼で呟く。
「じゃあ、準備も出来たし出発しますか」
「承知しましたわ!」
「へいへい、いってらっしゃい」
私たちはナナちゃんに見送られ、意気揚々と会場へ向かった。
綾小路君の誕生日パーティーは、ホテルの宴会場で行われる。
会場前には受付が出来ており、そこで招待状を確認して入場する手順となっていた。
ちなみに紹介状の宛名は、八代真帆子と霧条礼子という偽名となっている。
私たちは、何食わぬ顔で列に並ぶ。そして、順番が回ってくると、偽造した招待状を提出。
しかし、偽造なのでチェックリストには名前がない。
係の人が、確認するので待ってほしいと言った。
私たちは、すかさずプレゼントを差し出す。
そして、「他の方の入場の妨げになってしまうので、辞退します。せめてプレゼントだけでも、お届けください」と立ち去る素振りを見せた。
今回私たちは、全身を最上位の高級ドレスで固めている。
主賓より目立つような華美な装飾は避け、大人しい雰囲気の物を選択してはいるが、ひと目でお高いと分かる服装だ。
そんな如何にもな恰好をした二人が、招待状を持参し控えめな態度で辞退しようとしている。
ひたすら殊勝な態度に努め、こちらは何もやっていませんよ、という空気感を出していく。
名付けて、招待サイドのミスだと誤認させてしまえ、作戦である。
作戦は成功し、受付の人たちに、この招待客を帰すと後々まずいことになりそうじゃね、という雰囲気が形成されていく。
結果、「どうやら手違いがあったようです。どうぞお通りください」と、入場を許可された。
会場に入ったところで、レイちゃんが「やりましたね」と小声で喜ぶ。
「うん。後は、綾小路君にお祝いコメントを言って、離れたところで様子を見守ろう」
「了解ですわ」
私はレイちゃんと顔を見合わせた後、会場の様子を窺う。




