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 私は、雲上院礼香の様子を観察してみる事にした。


 あまりに手がつけられない感じであれば、通学を控える必要がある。


 久々の学校生活だけど、背に腹は代えられない。


 色々母に仕込まれた私だが、悪役令嬢を善良令嬢に更生させるテクニックは教わらなかったよ。


 ついさっきも高圧的な態度で接してきたし、悪役令嬢として順調に成長しているのは間違いないだろう。


 ――と、思ったら全然違った。


 彼女は現在、舞鶴さんという子のグループに所属していた。


 だけど、うまくかみあっていないというか、孤立している?


 舞鶴さんと張り合っているようだけど、グループのメンバーは舞鶴さん寄り。


 特に舞鶴さんは、雲上院礼香に対して強い対抗意識があるようだ。


 逆にグループのメンバーは、雲上院礼香にも配慮しているような雰囲気があった。


 雲上院礼香の物言いは結構腹立つ感じなのに、グループのメンバーはやんわりと流している。


 見た感じ、彼女の家柄を気にして、言いたいことが言えないという雰囲気ではない。


 何というか、気遣いのようなものがチラチラと窺えるのだ。


 偉く複雑なグループだな。


 そもそも雲上院礼香のコミュ力が低い。


 あのままだと、高圧的な振舞いに呆れられて、ボッチになるんじゃなかろうか。


 まあ、マンガだと結構図太い性格だし、大丈夫なのかな。


「雲上院さんのことが気になるの?」


 と、後ろの席の子が話しかけてきた。


「うん、さっき話しかけられたからね」


 肯定の意を示す私。


 じっと見ていたことを、気付かれてしまった。


「先生から聞いてるかもしれないけど、雲上院さんは最近クラスに復帰したばかりなの。だから、ちょっと言葉遣いが変かもしれないけど、気にしないであげて」


 多分、悪気はないと思うの、と言われる。


 そういえば、先生が私と同じで長期間休んでいる生徒がいるって言ってたっけ。


 それが雲上院礼香だったとは……。


 あれ? もしかして…………。ん、ピンときた。


 何というか、記憶の歯車がカチッとかみあった感じ。


 私は今の会話で、とある事を思い出した。それはマンガのワンシーン。


 学校襲撃とは別のお話である。


 確か、主人公を含めた数人が拉致されるシーンだ。


 ラブコメマンガなのに数人が拉致されるシーンってどういうこと、って思った貴方、正常です。


 だからこそのラブコメ? マンガなんだよねぇ……。

 

 きら☆スタの登場人物は、主人公以外は大体お金持ち。


 リッチな服をまとい、リッチな物を食し、リッチエリアで生活している方々だ。


 だが、そんなことを感じさせないほど、作中の治安は悪い。


 犯罪者が、どこからともなく無尽蔵に転移してきていると説明された方が納得するくらいだ。


 っと、話が逸れた。マンガで拉致されるシーンの話だ。 


 その時、雲上院礼香は「わたくしは幼い頃に誘拐されたことがありますの。だから、この程度、全く動じませんわ!」と、高らかに宣言し、オーッホッホッホ的な笑い方をしていた。


 その背後で四谷真理と九白真緒が「さすが礼香お嬢様、すばらしいですわ!」みたいな、合いの手を入れていたっけ。


 雲上院礼香は悪役令嬢だ。作品の主人公ではなく、敵役のポジション。


 だから、過去エピソードがあまり挿入されない。


 そのため、誘拐されたという話も、このセリフのみ。回想シーンなどはなかった。


 ちょっとしたワンシーンのセリフだから、詳細は分からない。


 ただ、キャラクターを印象付ける強烈なシーンだったため、直接ストーリーとは関係ないのに覚えている。


 誘拐自慢ってなんだよ、と心の中でツッコミを入れたものだ。


 ――長期間の休養とマンガのワンシーン。


 その二つを結び付けて予想すると、長期間休んでた理由って、誘拐の被害に遭ったからではないだろうか。


「雲上院さんって、どのくらい休んでたの?」


「私も詳しくは分からないけど、四年生の時はずっと保健室登校だったみたいだよ。クラスに復帰したのは、五年生になってから」


「そうなんだ。元気そうに見えるけど、色々あるんだね」


「なんていうか、雲上院さんを見てるとハラハラするんだよね。まだ新学期が始まって一月だから、次第に慣れてくるかもしれないけど……」


 という後ろの子の言葉を聞きながら、雲上院礼香の様子をもう一度見る。


 聞き耳を立てると、グループ内で水族館に行った話をしているようだった。


 どうやら、舞鶴さん達(雲上院礼香を除いた全員)は四年生の時も同じクラスだったようで、春休みに皆で水族館に行ったらしい。


 その話で盛り上がるメンバー、置いてきぼりの雲上院礼香、という構図が出来ていた。


「ジンベイザメが大きくて驚きましたわ。世界にはあんな大きな魚もいるのですね」

「ペンギンが、とっても可愛かったです。行進するところをもう一度見たいです」

「私はラッコが可愛かったかな。見ていて飽きないのよね」


「わたくしも行ってみたいですわ! 是非、皆さんで行きませんか?」


「ごめんなさい。今度のお休みは皆で映画に行く予定なんです」


「え……、わたくしは聞いていないですわ」


 と、驚いた様子の雲上院礼香。


 彼女は皆が“はい、行きましょう”と答える未来しか想定していなかったようだ。


 予想外の展開なのか、二の句が継げず、オロオロし始める。


 むぅ、なんともハラハラするな。


 私は後ろの席の子へ視線を移し、話しかけた。


「ねえ、言葉遣いが変って言ってたけど、いつもあんな感じなの?」


「あぁ……、うん。舞鶴さんも対抗意識があるみたいでさ。あ、でも、うまくいってる時もあるんだよ! まあ……、その……、とても少ないけど……」


 彼女も、雲上院礼香の様子を窺っていたようだ。


「舞鶴さんたち以外は誰も話さないの?」


「それはほら、雲上院さんって凄い家だから……。気さくに話しかけられないっていうか、なんていうか……、ね?」


 なるほど、家柄が邪魔している感じなんだね。


 などと思いを巡らせながら、雲上院礼香の方へ視線を戻す。


「ごめんなさい。雲上院さんは、お稽古なんかでお忙しいかと思って」


「確か、生け花にお茶、それにダンスと舞踊でしたっけ?」


「大変そうですよね。うちは日曜は全てお休みなんですよ」


「だ、大丈夫ですわ! 今度の日曜は偶然予定がないですの!」


「ごめんなさい。もうチケットの予約を取ってしまったんです。今から予約したら一人だけ席が離れてしまいますし……ねえ?」


「ええ、残念ですけど、またの機会に」


「そ、そうですか……。まあ、我が家にはシアタールームがありますし、問題ありませんわ!」


「そうですか。それなら大丈夫ですね」


「きっと、雲上院さんのお家なら、とても立派なシアタールームなのでしょうね」


「ええ! とても広いんですのよ!」


「それでは私たちは映画を見に行く日の予定を話し合いますので」


「ご一緒しない雲上院さんには退屈でしょうから、失礼しますね」


「ええ、問題なくてよ……」


 と、取り残される雲上院礼香。


 ぽつんと一人でいる後ろ姿から、しょんぼり感が伝わってくる。


 ――えぇ……、かわいそうが過ぎるだろ。


 いっつもあんな感じなの? と視線で後ろの席の子に問いかける。


 すると、そうだよ、と言った感じで頷きが返って来た。


 まじかー……。


 見ていられなくなった私は、無意識に席を立っていた。


 向かう先は決まっている。


 ここは、借りを返さないといけないよね。ん、借りって何のことだろ?


 自分で思っていてわけがわからない。そんなことを考えている間に彼女の前に来ていた。


 おっと、早く話しかけないと。


「ねえ、今度の日曜日は暇なんだよね? なら私と水族館に行かない?」


 と、雲上院礼香の手を取って話しかけた。


「……っ! え、っと、あの……?」


 ついさっきまでしょんぼりと脱力していたのに、電気が走ったかのようにピンとなる雲上院礼香。


 突然の出来事に、戸惑いを隠せない様子だ。


 完全にフリーズしてしまって、言葉が出てこないままアワアワしている。


 動揺して不自然な挙動になっているのに、所作が上品なせいか、とても可愛い。


 しかし、いつまで経っても返事が返って来ない。


 これは……、返答し易いように言い方を変えた方がいいかな。


 考えろ、私。脳をフル回転させるんだ。


「え〜……っと、私って水族館に行った事ないんだ。でも、一人で行くのは心細いし……。雲上院さんが一緒に行ってくれるなら安心なんだけど、お願いできないかな?」


「しょ……、しょうがないですわね! わたくしも、たまたまその日は予定が空いていますし、貴方のために行ってあげてもよろしいですわ!」


 途端、今までの調子を取り戻し、誘いを受けてくれる。やったぜ。


「ありがとう、助かる〜。じゃあ、その日の予定を話し合おっか」


「よ、よろしくてよ!」


 と、雲上院礼香が頷いた瞬間、クラス全体がホッとした雰囲気に包まれた。


 これで一件落着って感じ?


「さすが九白さん、演技派だね! 凄くかっこよかったよ!」


 と、後ろの席の子。


 何がさすがで、どうして演技派?


 彼女の中の私のイメージは、どうなっているんだろう。


 さて、帰ったら両親に説明しないと……。


 今まで興味も示さなかったのに、急に水族館に行きたいなんて言ったら、驚かれるかもしれないしね。





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