第5話
魔術を用いて旅行するためには、数多くの条件が必要となる。そのため、一般的には飛行機で旅行することとなる。ペクーニアとハイデの二人組も、その例に漏れずにラングマン大公国内にある唯一の国際空港を経由して、アマーダンへと向かった。
国際空港に到着すると、出迎えが待っていた。どうやらハイデの旧知の仲であるらしい。握手を交わし、それからペクーニアを彼へと紹介する。
「一応は紹介をしておいておこう。我が旧友であるミッデジアン・フォン・アルバート・イルネス。イルネス家ミッデジアン伯爵の現当主だ」
「初めてお会いしましょう。ミッデジアン伯爵です。今後ともどうぞよろしく」
手を差し出したが、ペクーニアはどうすればいいのかわからないようで、ハイデを見上げた。
「ああ、彼はいいんだ。それで、連絡はいっていたと思うが、見つかったか」
「当然だ、僕をだれだと思っているんだ。あのパーソライトの真の持ち主は、このアマーダン領内にある村に住んでいることが分かった。今もそこにいるぞ、会いに行くか」
「何のために、ここまで来たと思うんだ。そのためだからね」
さあこちらへ、とミッデジアンはハイデ、次いでペクーニアを、空港の車寄せに置いていた自動車へと案内した。
しばらく車を走らせると、30分ほどで市街地から抜け、さらに田園地帯へと入る。
「この周辺は丘陵部となっていて、点在している住宅はほとんどが高齢者世帯となっているんだ。だが、こんなのどかな雰囲気を楽しみたいということで、それでも入居待ちが出るほどの大人気地域となっている」
「昔とは打って変わって、そんなことになっているとはな」
若人はすでに都市へと流れ、しかし溜まっている水は、昔の栄光を忘れることはない。その栄光こそが今の若者を育てているのだから。そして都市の人間となった者らも、その栄光を思い出すがために、今もなおこの地へと戻ってくる。まるで魚が自らの生まれ故郷へと戻るがごとく、世界はそうして回っていた。
「このパーソライトも、生まれたところへと戻らねば」
特殊な仕掛けが為された布でできた袋を懐にあることを確認し、ハイデはつぶやいた。それが誰かの返事を受けることはなかったが、言わずにはいれなかったのだろう。