第3話
乱暴に部屋のドアが叩かれるのと、怒号、それに合わせて響く銃声が聞こえてくるのは、そう時間がかからなかった。ガンガンガンと何かを引きずるような音は、それだけで何かしらの武装をしていることを意味している。ハイデはその中でも優雅にサイドテーブルの飲み物を一口飲んだ。
「おやおや皆様、お揃いですね。来ることは分かっていました。しかし、ノックをしたのはいいとして、あれほどの乱暴さには辟易してしまいますね」
「うるせぇジジイ。こちとら、こいつに用があるんだ。すっこんでな」
にこやかな笑みを絶やさなかったハイデだが、その言葉ぶりにはイラっと来ることがあったのだろう。飲み物をテーブルに置き、指を組んで安楽椅子に深く腰掛ける。前後へとゆっくりとゆれているそれは、ある単調なリズムを刻んでいた。
「少年、一つ聞きたい。そのパーソライト、私が描いとると言ったら、売るかい」
「……いくらだ」
「今手持ちの現金は乏しいのだがね、後払いでもいいというのであれば、ざっと100万ユーロ」
「売ったっ」
すでに銃を突き付けられ、脅迫をされているペクーニアが金額を聞いたとたんに答えた。100万ユーロといえば、日本円でいうところの1億6千万円くらいになる。それをポンとだすことができるとなると、かなりの金持ちであることは間違いがないだろう。
「よろしい、ならばそれは譲ってもらわねばなるまいな」
「まずは俺らの方が先に持っていたんだ。ジジイに奪われてたまるかよ」
「いや、君らには指一本触らせない。買ったものは大切にせねばなるまいて」
ハイデは再び彼らへと笑いかける。
「2度とその汚いツラを見せるでないぞ」
ツイっと、右手を空中に差し出し、人差し指を使って空中をなぞっていく。彼らはそのなぞりの線が触れると同時に消え去り、そしてまた一人と失われる。
最後の一人も消えた後、残っていたのは汚れ散らかった床と、口をぱくぱくさせているペクーニアと、再び飲み物に口をつけるハイデだけだった。
「さて、何の話をしていたのだったかね。ああそうだ。ともかくその懐のパーソライトをこちらへと渡してもらわないといけないね」
今度は右手の人差し指と中指を揃えて、ペクーニアの懐にある膨らんでいるところを指す。とたん急にその場所は震えだし、服を破ると同時に宝石が飛び出してきた。敗れた服はそのまま何事もなかったかのように元へと戻り、代わりに飛んでいった先にはハイデの手のひらがあった。
「おっと」
そのままパシッと受け取ると、ジッと中身を見る。
「見ただけでわかるのかよ」
「ん?ああ、当然だ。そういう魔術を使っているからな」
確認が終わると、それを懐へと戻す。そうしてからハイデは本へと再び目を落としつつも、ペクーニアへと尋ねた。
「ペクーニア、どうして彼らに追われていたんだ。彼らはアマーダンに巣食うマフィア集団だ。名前を確か、アインオウルと呼んでいたかな。彼らが人間を超える存在になりたいというのはその名からも把握できる通りであるが、彼らからこれを盗ったのか」
「……ああそうだよ」
言いながらも、居心地が悪そうに少し身じろぎをしていた。