第1話
ばしゃばしゃと、路地裏の汚いぬかるんだ道を走る。息遣いも荒く、ただ懸命に駆けていく小さな影。後ろからはもっと大柄の男たちが、路地裏をただただ小さな影を追いかけていく。手には銃のようなものを持ち、あきらかに捕まえようとして躍起になっている。
角を曲がり、さらに曲がり、右へ左へと。ぬかるみは大人たちの足を掬い、少年を救う。しかし、体力差は歴然としており、どんどんとその差は縮んでいた。
「やべっ」
子供は小さな声を出す。あきらかに高い壁、周りはドアの類も見えない。
「やっと追い詰めたぞ、こんガキめ」
銃を構え、それはさながら銃殺の命令を待つ者のごとく。
「まずはアレを渡してもらおうか。返してもらえるのならば、命は助けてやろう」
「へっ」
だがその提案は一笑に付される。
「誰が返すものか。これはみんな狙っているんだろ。だったら俺が持っている方が安全だってぇの」
そういって、懐から何かの紙きれを一枚取り出した。
「護符、発動。どこでもいいから俺を連れて行ってくれっ」
「待てっ」
できるだけ使いたくなかったようだが、この時ばかりは使うしかなかったようだ。グルンと一蹴する地面と、すべてが少年を取り巻いては、パチンと弾けた。