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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離
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8話 飴色と金色、悶える踊り場




「ふんふーん♪ ふふーんふー♪」


 ロイズはゴキゲンに研究室を出て、夕食のために学食に向かっていた。


 ―― ユラリスがいれば、例の研究もぐいぐい進む気がする~。引き受けてくれて助かったな


 あの後、ユアは用があるとかで、研究室を出て行ってしまった。本当は研究内容を紹介したり、色々話をしたかったロイズであるが、日を改めること。


 今日は五学年初日であったし、生徒同士でパーティーでも開くのかなぁ、なんて呑気に思っていた。


 ―― 明日早速、学園長にユラリスの助手申請を出して、手続きしとこーっと♪ そしたら、来週くらいから正式にお手伝いお願いできるし


 やたらめったらゴキゲンなロイズであった。



 そうして、東側校舎の階段を降りていると、目の前にヒラリと紙が落ちてきた。前方にいた生徒が落としたのだろう。ロイズは階段の踊り場に落ちたそれを拾って、落とし主に声をかけた。


「おーい、そこの金髪男子生徒ー。手紙を落としたよ」


 前方にいた男子生徒は、すぐに自分のことだと気付いたのだろう。ポケットを上から探りながら振り返った。


「あ、やべ。ありがとうございまーす」

「なんだ、出席番号3番のフライスじゃん~」


 フレイル・フライス。ユアが魔力切れを起こしかけたときに、パンを提供してくれた友人その一のフレイルである。

 彼は顔こそ普通であったが、透き通るような美しい金髪と珍しい金色の瞳という、稀有な色彩を持つ男子生徒であった。


「へぇ、もう生徒の名前を覚えたんすか? 初日なのに」

「まぁ大体ね~。ゴールデンって感じで目立って覚えやすいし」

「それはどーも」


 フレイルは、気取った風な感じでそう言いながら、ロイズから落とし物の手紙を受け取った。可愛らしい魔法紙で書かれた手紙だ。ロイズはやたらとニヤニヤしながら「ラブレター?」と聞いてみた。


「あー、まぁ、そんなとこ」

「くーっ! 青春だねぇ。モテる男も大変だね~」


 ロイズが腕組みをしながらそう言うと、ソレ(・・)に気付いたフレイルが、反撃とばかりにニヤニヤしながら、一つ近付いた。


「先生こそ、上の研究室で何やってたんすかぁ? やーらしー」

「は? なにって?」

「ここ、付いてますよ」 


 フレイルが胸あたりを指でトントンと弾いてみせると、ロイズは首を傾げながら白衣に視線を落とした。


 ―― あれ、なんか付いて……げ、口紅!?


 瞬間、ロイズは鳥肌が立った。


 ―― いつだ? また寝込み襲われた? いや、侵入禁止の魔法を厳重にかけてるから無理だ。研究室には入れない。じゃあ、誰がどうやって……あ


 ロイズは、小さく息を吐いて、ニコリと笑った。


「あー、これは、さっき実験で汚しただけだから」

「ふーん? まぁ、そういう事にしておいてあげますよ」


 フレイルは、その口紅に目掛けて、小さな魔法陣を描き上げる。そして、指先だけで魔力を込めると、口紅がふわりと浮いて消えて無くなった。白衣は綺麗な真っ白に。


「お~、浄化魔法の強化版? オリジナルの魔法陣、しかも短縮化してるね。うーん、便利でいいね~」

「手紙を拾ってくれたお礼ってことで。ヤラシイ先生、ありがとうございまーす」


 そう言ってフレイルは、ニヤニヤしながら去っていった。ロイズは、にこやかに手を振りながら、内心は悲鳴を上げていた。


 ―― ぇえええ? ユラリスの口紅ってことだよね? どういうこと? ぶつかったりしたっけ、いやいや絶対にしてない。なんの拍子に付いた?


 そのとき、ロイズは思い出した。先程、転移の状況を知ろうと、彼女を質問攻めにしたときに『転移してきた位置は?』という質問にだけ、ユアの答えに間があったことを。


 そして、一つの結論に至った。


 ―― 寝てる俺の上に、転移してきたのか


 瞬間、顔がグワッと熱くなった。忘れてはならない事実として、転移の設定はロイズがやったのだ。だから解釈によっては『ロイズが彼女を上に乗せた』ということになる。ベッドで寝ている自分の上に、彼女を呼び寄せたのだ。


 ―― うわぁぁあ! 誰か俺を殺してくれぇええ!!


 思いも寄らない事実に、ロイズは誰もいない階段の踊り場で悶えた。真っ赤な顔を隠すように両手で顔を覆って、声にならない声を出してバタバタと悶えた。


 しばらく悶えた後、ふーっと一息吐いたところで、ハッとした。


 ―― 待てよ。教え子相手にこういうのって、どうなの? セクハラ?


 瞬間、顔がサーッと冷たくなった。なんということをしてしまったのだろうか。


 十九歳の女子生徒に対して、二十三歳の男性教師が転移で無理やり自分の上に乗せておきながら、謝ることもせずに『お前の秘密を教えろ』とほざいたのだ。事実を並べてみると、事件性がありすぎて引く。


 ―― ぁぁあああ! 誰か俺を殴り飛ばしてくれぇえええ!!


 ロイズは、頭を抱えてしゃがみこんで、また悶えた。学食に行くまでの道のりに、何分かけるつもりだ。


 そして、しばらくバタバタと悶え苦しんだ後に、『あのとき、転移の位置ズレが起きたという話をしておいて良かった』と、心底思った。そうでなければ、故意だと思われて、セクハラ一発アウトの無職ホールインワンだった可能性も。


 ―― 訴えられなくて良かった……ユラリス、嘘までついて、真実(セクハラ)を隠そうとしてくれたのか。めっちゃ良い子……


 ロイズは感激していたが、真実は異なる。寝ているロイズを堪能していたことを隠匿するための嘘だ。嘘までついて、(逆)セクハラを隠そうとしたわけだから、ある意味正しい。めっちゃ悪い子……。





 そんなこんなで顔を赤くしたり青くしたりしながら、やっとこさ着いた学食。ロイズは、ものすごーく遠目からユアを一瞬で見つけていた。やたら広い大食堂なのに、一発で見つけた。目が良い。


 ―― いる! 夕食時だから当たり前だけど、いる! ……軽い感じで謝ってみる?


 軽いということは、『俺の上に乗せちゃってごめんね、てへ! 乗り心地どうだった?』みたいな感じだろうか。


 ―― ダメダメダメ。違う。ここは、しっかりと誠意を持って謝ろう


 誠意があるということは、『俺の上に乗せる形になってしまったこと、大変申し訳なく思ってます土下座』みたいな感じだろうか。


 ―― 無理無理無理。まず、『俺の上』というワードが強すぎる。そんなの言葉にした時点で、一発アウト無職ホールインワンだ……!


 ロイズはA定食を食べながら、かなり遠目からユアを観察した。友達数人と楽しそうに、朗らかに食事をしていた。怒るとか悲しむとか負の感情は、無さそうだった。


 ―― うん。元気そうだから、この件は一旦寝かせておこう!


 女性恐怖症を拗らせた魔法バカは、そっと口紅の件を闇に葬り去った。また必要になったら取り出せるような浅い闇に、そっと置いた。オブジェみたいな感じで、そっと。



 ―― それにしても、転移の時間と位置ズレの件、ちょっと研究してみたいよなぁ


 転移の不具合。魔力相性が良すぎることが原因だろうと推測をしていた。

 ロイズの研究の一つに、魔力相性の判断方法を確立するというものがあった。ちなみに、試験管などを使って色とりどりの液体をどうこうしていたのが、この研究である。


 以下、ロイズの研究結果の一部である。


 相性が良いということは、お互いの魔力同士が仲良し過ぎるということだ。

 例えば、ロイズが、ユアとリグトに同じ力で攻撃魔法を放った場合、ユアへの攻撃力はリグトへの攻撃力よりも低くなる。逆に、治癒魔法をかけたなら、ユアへの効果はリグトへの効果よりも高くなる。


 簡単に言えば、自分の魔力が相手を大事にするように、勝手に作用してしまうのだ。


 もちろん、これは良い面もある。例えば、ロイズとユアが共闘して攻撃魔法を放った場合は、足し合わせたもの以上の効力を発揮する。倍々ドンだ。活用できる場面も多い。


 ただ、ロイズ自身も、ここまで()()()相性が良い魔法使いと接するのは、初めてのことだった。まさか、転移魔法にまで干渉してしまうとは思わなかったのだ。


 ―― 今度、実験に付き合ってもらおーっと


 闇に葬り去ったことで、ロイズはいつもの調子を取り戻していた。やはり安定して魔法バカであった。


 


 


 

 

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