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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第三章 魔法使いと人間の距離
50/104

50話 君が好きだから、こうしたい



 魔法都市のカフェ。今日は金曜日の午後である。


「というわけで、ユラリスはすでに知ってると思うけど、こちらがザッカス・ザックね。で、こちらが話をしてたユア・ユラリスだよ~」


()()()()()。ユア・ユラリスです。お忙しいところ、お時間頂きまして感謝いたします」

「どうも、ザッカス・ザックです。こちらこそ、会えて嬉しいです……?」


 ユアとザッカスは、握手の代わりにニコッと微笑み合って、向かい合わせに座っていた。いや、座らされていた。


 ザッカスは『不可思議だ』と思っていたし、ユアは『不可思議だわ』と思っていた。さすが魔力相性が良いだけのことはある。二人とも同じ事を思っていた。

 そして二人とも同時にチラリとロイズを見て、呑気に「いやぁ、念願叶って良かったね」とか「肩の荷がおりたよ~」とか言ってる様子を見て、また首を傾げた。


 三人で談笑すること10分程度。ロイズが突然「おっと!」とか言いながら時計を見た。


「ワスレテタぁ! 用事があったんダッター!」


 子供の劇かなと思えるほどのワザとらしさに、ユアもザッカスもきょとん顔だ。きょっとーん。


「ユラリス。夕方にまた迎えにくるから、えーっと、後はお若い二人で……?」


 ロイズがシドロモドロに言ってから、ユアに対してサムズアップで『俺、気をきかせたよ!』みたいにドヤるものだから、ユアは目が点のまま口元だけ笑っておいた。

 そして、転移でサッサといなくなったロイズの淡い光を見て、ユアはガックリとテーブルに突っ伏した。後ろ髪くらい引かれて欲しかった。


「…くっ……ぶはっ!」


 その様子を見ていたザッカスは、思わず笑ってしまった。


「くっ、ごめん、あはは! いやー、ちょっと面白すぎるな、アイツ」


 ザッカスは笑いをかみ殺しながら、目が点になったままのユアに「大変だね」と声をかけて労った。


「まぁ、せっかくなんで、こんなことになっちゃった経緯でも聞いてみようかな」

「えーっと……?」

「ユアちゃんは、ロイズが好きなんだろ? なのに何故か男を紹介されて、二人きりにされて、もう訳わかんないって顔してる」


 ユアは「うっ」と押し黙った。そして、全部お見通しのザッカスに少し敬服しつつ、安堵した。もし万が一、無いとは思うけれど、ザッカス側がノリノリの乗り気であったなら、拗れて面倒なことになるかもと思っていたからだ。


 実際には、胸の大きさをロイズに確認させたり、割とノリノリなところもあったザッカスであったが、彼はやたら顔が良い関係上、女に困らない人種であった。ユアと恋仲になっても不都合はないが、誰かさんと違ってユアに()()()()()()は、生憎持ち合わせていなかったのだ。


「何故だか分からないんですが、ロイズ先生は私がザッカスさんに好意を持っていると勘違いしていて……」

「理由はわかんないんだ?」

「はい。先生と初めて会話したときには、既にそういう事になっていました」


 これに関しては、マナマ・マナルドのやらかしである。


「ふーん。いつからロイズのこと好きなの?」

「えーっと、私が入学した初日に、その、ステキだなぁとオモイマシタ」


 ユアが恥ずかしそうに言うと、ザッカスは「え!」と驚いた。


「今、五学年だよね。じゃあ丸四年も!?」

「ハ、ハイ。すみません……」

「それはまた年季が入っているというか。念願叶ってロイズの助手になれたわけだ?」

「まあ、そうなります」


 ザッカスは、小さく拍手を送った。


「すごいじゃん。よくロイズに近付けたね、相当苦労したんじゃない?」

「??? 年季が入ってるだけで、苦労はあまりしてないです」

「そうなの?」

「先生と魔力相性がとても良いという理由があって、五学年になってすぐに助手申請して頂きました。幸運でした」


 ユアは元人間というところを伏せて上手く理由を伝えると、ザッカスは目を丸くして「まじ?」と言った。


「すぐに助手申請? 破格だねー」

「そうでしょうか」

「それでアイツの家にも出入りしてるんだって?」

「え!?!」


 ユアはキョロキョロと周囲を警戒してザッカスに少し近付きつつ、「知ってらっしゃるんですか!?」と小声で問い質した。

 ザッカスは『誘い文句をロイズに丸暗記させた』という事実を思い出し、少し苦笑いで頷いた。


「自宅の研究部屋に来て欲しいって誘ったのに断られたって、すごーく悩んでた」


 ザッカスがそう言うと、ユアの顔がパァっと輝いた。嬉しそうにしながらも、アイスレモンティーを少し飲んで誤魔化しているように見えた。


「あ、嬉しいんだ?」


 ザッカスが茶化すと、ユアは少し俯いて「はい」と小さく肯定した。

 ザッカスは『ユラリスは素直で良い子で可愛らしい』と言っていたロイズに同意した。そして、ゼア・ユラリス師団長が溺愛しているというのも、何となく頷けた。


「ロイズにとっては初めての助手だし、家に他人を入れるのもたぶん初めてだろうし、女の子に自分から触れてるところも初めて見た。類を見ないほどに破格だと思うよ」


 ザッカスは、ロイズとユアの二人が転移で待ち合わせにやってきたときの一幕を思い出していた。

 一幕とは、強い風が吹いてユアの髪に葉っぱがついてしまい、それをロイズが「付いてるよ」とサラリと取ってあげていた、というシーンだ。

 それを見たザッカスは、かなり驚いた。そして、今日、何故ユアを紹介されているのか、より一層不可思議になった。


 このザッカスの一言に、ユアはガタッと大きな音を立てて、思わず立ち上がってしまった。


「ま、まってください。今なんと?」

「助手も、家に他人を入れるのも、女の子に触ってるのを見たのも、全部初めてだと言ったけど」

「え!!? ロイズ先生って、女性関係が派手で、ルーズで、とんでもない男なんですよね?」

「……は?」

「研究室に女性を連れ込み放題で、女性の趣味はセクシー系一択で、恋人はいらないし、結婚もせずに一生遊びたい人で、誰とでもそういうことをする男、ですよね?」


 小声ではあるもののまくし立てるように超早口でズラズラと並べられた言葉の数々が、あまりにもロイズ本人とかけ離れていたものだから、ザッカスは「ぶはっ!!」とまたもや噴き出した。そして、お腹を抱えて笑い出したではないか。


「ははははっ! ちょっと待って、それ誰!?」

「??? ロイズ先生のことですが」

「ちょ、お腹痛いんだけど!」


 笑うザッカスを見ながら、真面目な優等生のユアは考えを巡らせた。そしてハッとした後に、ため息交じりにドヤ顔で「なるほど」と言った。


「理解しました。自分からは女性には触らないけど、相手から触って貰うタイプということですね。想定の上をいくチャラさですね」

「ぶはっ! なにそれ、どんなタイプだよ。全然違う、かすってもいないw」


 ユアの心根の馬鹿さが露呈した。


「ぇえ!? では、どういう……?」


 ザッカスは笑いすぎて少し涙を浮かべながら、「はーぁ、久々に笑った」と、アイスティーを飲み干した。このザッカスをここまで笑わせるなんて、さすがの相性の良さだ。


「まぁ、理由はプライバシーの侵害だから省くけど、ロイズは女の子が得意じゃないんだよ。本人もそれを隠してないし、聞いてみたら?」

「え!!?」

「だから、さっきユアちゃんがズラズラ並べてたことは全部間違い。何がどうしてそんな勘違いしちゃったんだ?」


 ユアは驚きすぎて息が吸えていなかった。そして、ゆっくり記憶の紐を解きつつ、ガチガチに固まっていたロイズのイメージも解いていった。


「初めは……あ! フレイルだわ。そうよ、あいつが研究室に女性を連れ込んでいるのを見たって言ってて!」

「フレイル……」


 ザッカスは『あぁ、あのショートメッセージ魔法陣のフレイル・フライスか』と思い起こしていた。ユアのことを好きならば、それくらいの嘘は付くかもしれないと。

 事実はフレイルの嘘ではなく、言葉足らずの行き違いであるが。


「それから、先生に恋人の有無や結婚願望を聞いたときも、恋人はいらないし、生涯独身だと仰っていたので」

「それは女の子が苦手だから、恋人はいらないってことだろうね」

「がーーーーん!! なるほどです!!」

「セクシー系一択、の情報源は?」

「そのフレイルという友達が、マナマ先生に聞いたって言ってました」

「あー、マナマね。あいつは、ロイズがセクシー系の女が大嫌いって知ってるはずだけどなぁ(=フレイルのせいだろう)」

「ぇえ!? 大嫌い!? うそぉ……」


 ユアはガクッとうなだれた。セクシー系が大嫌いなロイズに対し、胸の開いたワンピースを着てみたり、水着でドキッと作戦を実行するために勇気を出して露出度の高い水着を用意してみたり、間違った攻め方をしていたかと思うと、本当にもう、穴があったら入りたいほどにダメージを受けた。


「ははは! 穴でも掘ってあげようか? 入りたそうな顔してる」

「ご明察でございます……ツラい」

「お色気作戦でもやっちゃってた?」

「……くっ!! 胸の開いたワンピースを着たり、攻めた水着を用意してみたり、色々と……ツラい」


 口が裂けても言えないが、他にも毎日毎日抱きついてみたり、ぎゅっとしてほしいだなんて甘えてみたり、女嫌いの相手に対して好き放題していたかと思うと、『もういっそ誰か殺して!』と思わずにいられなかった。


「胸の開いたワンピース……あぁ、そういうことだったのか」

「なんですか?」

「いーや、何でも。ってかさ、そんなダメ男って思ってても、ロイズのことイヤにならなかったんだ?」


 ザッカスのもっともな疑問に、ユアは「イヤになりませんでした」と即答した。


「初めはショックでしたけど、むしろギャップ萌え的な感じでイケました」

「間口が広い」

「あと、最終的に私を選んでくれるなら、ダメ男でもいいと思ってました」

「ほう、最終的に自分が選ばれる自信があった?」

「まさか! 自信なんてなかったです。私なんて恋愛もよく分からないですし、何ならデートもしたことないですし。ロイズ先生のこともずっと見ていただけで、何の努力もして来なかったから……あぁ、凹んできました。で、でも!」

「でも?」


 ユアは少し恥じらうようにアイスレモンティーのストローをクルクルと回しながら、「最近はちょっといい感じかな、と思ってました」と。


「みんなには内緒にしてるロイズ先生の過去の話を教えてくれたり、そのうち両親に紹介したいって言ってくれたり、あとはその……」


 ロイズがぎゅっとしてくれたことを思い出して、顔を真っ赤にしながら全力でにまにましてしまった。

 ザッカスは『若いな……』と19歳の初々しさに当てられていた。そして、無自覚に結婚一直線の状況がずんずん進行している様子に、やはり困惑をした。


「それなのに、今日はザッカスさんを紹介して頂くことになり、一体全体、どういうことやら……」

「それについては俺もわかんない。全く以て、謎」


 そういうと、ザッカスは「とりあえず」と言って立ち上がった。


「行こっか」

「はい? 行くとは??」

「今日はロイズの学生時代の話を()()にして、若くて可愛い子とデートできるって思ってたんだけど」

「デデデート!?」

「人生初のデートを俺みたいな男にかっさらわれて(ロイズもフライスも)可哀想だとは思うけど、まぁ練習だと思って。ね?」

「!? 滅相もございません!!」


 ウインク一つでユアを立ち上がらせた手練れのダークホース男・ザッカス。魔力相性の良い二人はニコッと笑い合って、街に繰り出した。



ーーーーーーーーーーー


 一方その頃、魔力相性だけはバリ高のロイズ・ロビンは、と言えば。用事もなかったので即行で家に帰っていた。無趣味の魔法バカだから、普段から用事など殆どない。


「ユラリス、今頃楽しんでるかな~」 


 そして、やっと研究助手の見返りを渡せたことに、ひどく安堵していた。さらに、魔法バカらしくユアの赤紫色を眺めて考え事もしていた。


「うーん、4歳の夏に何があったか……たぶん俺に行き着くんだろうな~」


 ユアの血液が4歳から赤紫色になった、そのキッカケのことを考えていた。

 検証のために、ザッカスにはユアに治癒魔法を掛けてもらうつもりでいる。そして、その後の血液の色を確認する予定だ。

 しかし、ザッカスでは、彼女の血液の色を変化させることは難しいと予想している。魔力相性がかなり良い()()で、血液の色に変化があるならば、ユアのような元人間の魔法使いはもっとそこら中にいても良いはずだからだ。


「魔力相性が()()()良い者同士でなければ、人間から魔法使いに変化させることは難しい……はず」


 となると、4歳のときのユアに出会っているはずだ。でも、


「全然思い出せないっ!!」


 当時、ロイズは8歳。頑張れば思い出せるかもと思ったが、全く思い出せなかった。 


「でも、ユラリスのおじいちゃん家と俺の実家が近いことを考えると、会ってたんだろうなぁ。おチビのユラリスが転んだか何かで、たまたま居合わせた俺が治癒魔法をかけて、赤色から赤紫色に変化した。これしかない」


 そこでロイズは、ふわりと浮遊魔法で身体を浮かせ、研究部屋の空中で浮いたままゴロゴロし出した。ベッドもソファも床も無くても、どこでもゴロゴロできるのが魔法使いの良いところ。


「うーん、そうなると、全ての人間を魔法使いにすることは難しいのかな~」


 ユアとロイズは、たまたま異常な魔力相性を叩き出したが、全ての人間に異常値を叩き出すパートナーがいるかは分からなかった。

 そして、仮に全ての人間にパートナーがいたとしても。

 

「皆が皆、()()()()感じになるとしたら、受け入れ難い人が続出だよね~。前途多難~」


 こういう感じ。即ち、相手に特別な感情を持つ感じだ。先日、ユアをぎゅっと抱きしめたときに、ロイズはユアへの好意を明確に自覚した。



 ストレートに言えば、気付けばどうしようもない程に、彼女を好きになっていた。



 自覚したのは最近だったものだから、この感情の始まりがいつからだったのかは分からない。魔力相性が分かってしまうロイズにとって、ユアは初対面から『特別』だったから。

 運命みたいに生まれたときから決まっていたのかもしれないし、初めて彼女を認識した初講義のときだったかもしれない。あるいは、抱き締めたときにスルッと落ちたのかも。

 


 この感情を自覚したとき、()()()本当の恋()()()だ、とロイズは思った。

 寝ても覚めても彼女のことを考えてしまう。どうしても目で追ってしまう。目が合うと嬉しくて溶けそうになる。そうすると、あの柔らかさと美味しそうな香りが忘れられなくて、また抱きしめたくなる。そして、もっと欲しくなる。


 でも、これを恋と呼べるだろうか。


「魔力相性が異常に良いだけ。それ以上でもそれ以下でもない」


 彼女を抱きしめてから、ロイズは何度も自分に言い聞かせてきた言葉をぽつりと呟いた。


 自分が好きなのは彼女自身ではなく、彼女の身体に流れる血と心拍だ。それに惑わされて彼女自身を欲するような愚かな真似は出来やしない。

 教師であることすらも盾にして、この魔力(血液)に惑わされないように律する。


「ユラリスには、本当に好きな相手と幸せになってほしいな~」


 そう呟いて、ロイズはプカプカと宙に浮かび続けた。きっと一生、根を生やすことはない感情と共に、ふわりふわりと。





 


 

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