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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離
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2話 ユア・ユラリスは、秘めやかに



「ぜぇぜぇぜぇ……死ぬ…」


 にこやかに壁に穴を開けた女子生徒、ユア・ユラリスは死にそうになっていた。


「全力出しすぎだろ、馬鹿かよ」

「うけるぅ、ユアの顔青い~、ぷるぷる震えてるぅ♪」


 ユアは友人二人に抱えられて、どうにか講義室に戻ることが出来た。魔力切れギリギリのところであった。


 魔法練習場では、気合いでギリッギリ微笑みを浮かべていたが、その実、魂をお空に浮かべそうだった。調子の外れた終鈴と共に、ほんの少ーしだけあの世を見た。

 そして、ロイズが転移で去って行った瞬間。ユアは、青白い顔で地面に膝を着いていた。少し多めにあの世を見た。戻れて良かった。


「魔力補充をぉ、誰か……食べ物をぉ」

「お菓子あるよ~!」

「仕方ねぇな、パンやるよ」

「有り難し。もぐもぐ……!」

「咀嚼が速ぇな」


 魔法使いが魔力切れを起こすと、意識を無くして倒れてしまう。魔力を補充するためには、他の魔法使いから魔力を流し込んでもらうのが手っ取り早い。

 しかし、魔力には『合う』『合わない』と言った相性がある。そのため、闇雲に魔力を共有することは、危険視されているのだ。


 よって、魔力を補充するためには、よく寝てよく食べる。それが一番であった。



「いくらあの(・・)ロイズ・ロビンの初講義だからって、魔力切れギリギリまでやるかぁ? 相変わらず気が触れてんなぁ?」


 呆れたように冷ややかな目で見てくる、五学年の友人フレイル・フライス。ユアは、口の中のお菓子をゴクリと飲み込んで、ギロリと睨んだ。


「あのね、ロイズ先生が『壁に穴を開けたら学食を奢ってあげる』って言ったのよ、ちゃんと聞いてた?」

「確かに言ってたな」

「それ即ち、ロイズ先生とランチタイムを過ごせるということではなくて?」


 その自慢気な物言いに、フレイルは大きく首を傾げている。


「奢ってくれるだけで、一緒には食べないんじゃね?」

「その発想はなかった! がーーん!」

「ユアの口大きい~♪」


 顎が外れるんじゃないかというほどに、口を開けるユア。同じく、友人のカリラ・カリストンは、ユアの大きな口にポイポイとパンを詰め込みはじめる。ユアは負けじと、もぐもぐ食べていた。咀嚼が速い。


 咀嚼して飲み込む毎に、視界と頭が正常に働くのを実感しつつ、ユアはフレイルの言葉をパンと共に噛み砕いた。


「フレイル、確かに貴方の言う通りね……でも、私は負けないわ。絶対にロイズ先生とランチをご一緒してみせる!」

「何の戦いだよ」



 ぱんぴろりん♪ ぱんぴろりん♪ ぱん♪



 そこで、二限目の始まりを告げる本鈴が鳴り響いた。示し合わせたかのように、ガラガラガラ、とドアの音をかぶせて入ってくるロイズに、ユアは熱っぽい視線を向ける。


「はい、じゃあ二限目の講義に入るね~」


 ロイズは、そんなユアの視線に気付くわけもなく、やたらニコニコとしていた。


「二限目は、初めての獣討伐実習だよ~」

「え!?」


 五学年の生徒たちは、目玉が飛び出て天地がひっくり返るほどに驚いた。獣討伐と言えば、獣と戦って討伐するやつだ。


「先生、何の準備もなく、いきなり獣討伐ですか!?」

「そうだよ~。五学年って、そういう感じなんだよね」

「新年度初日ですけどー!?」

「あはは! 分かる、驚くよね~」

「初耳です!」

「初めて言ったよ~」


 五学年の講義室が、シーンと静まり返る。勿論、ユアも静かだった。


 ―― これから獣討伐実習!? え、さっき魔力切れギリギリまで、魔力使ったんですけどー!?


 静かに死を覚悟した。思わず、二つ後ろの席を見ると、フレイルがグッドラックと親指を立てていた。良い笑顔だ。


「じゃあ、準備はいい~?『五学年講義室の全員、獣討伐実習場、転移』」


 準備が良いわけもなく。ふわり、ストン。





 ピチチチチ……ヒュオォオ、キエーー、ガサガサ……。


「はい、というわけで、ここが魔法学園所有の獣討伐実習場です~」


 各々、五学年の生徒が見渡すと、緑豊か……というと聞こえが良いが、深い緑がやたら豊富な、茂みだらけの森の中であった。なんかよく分からん獣の鳴き声とか、謎のガサガサ音とか聞こえる感じの森だ。


「森だわ」

「森だな」


 ザワザワと「森だ」という言葉が囁かれる。ぴゅーっと風が吹いて、森がザワザワと返事をしてくれた。


「まぁ、ここにいる獣たちは、そんなに凶暴ではないから大丈夫だよ~。簡単な攻撃魔法を当てることが出来れば、コロリと倒せるレベルしかいないから。安心してね!」


 空気の読めない魔法教師は、ニコニコ淡々と説明を始める。一方で、優秀である上級魔法学園の生徒たちは、頭と気持ちを切り替えて、ロイズの説明に聞き入った。


「あと、安全管理のために、もし怪我をしたら、先生が自動転移されるような魔法が掛けられるからね。危なくなったら俺が助けに行くので、悪しからず~」

 

 その言葉に、幾らかホッとする生徒たち。


 でも、ユアだけは違った。


 ―― 怪我をしたら……ロイズ先生が来る……? うそでしょ!?


 血の気が引いた。


 ユアには秘密がある。彼女にとって、その身に抱えるには大きすぎる秘密だ。

 もしも秘密が露見してしまったら……と想像すると、足が竦んで心拍数が早まる。ふーっと大きく息をして、息を吸って、心臓の早鐘を幾らか収める。


 大丈夫、怪我をしなければ良い。そうやって自分に言い聞かせ、気持ちをストンと落ち着かせた。今までだって、切り抜けてきたんだから。


「おい、ユア」

「げふっ」


 深呼吸をしていると、背中に軽めのグーパンチが入れられた。振り返ると、案の定、リグトが睨んでいた。

 

 リグト・リグオール。先ほどの初講義で、岩壁に火の槍をビヨーンと突き刺した黒髪男子である。ガメツい美男子だ。


「しくじるなよ?」


 他の誰にも聞こえないような小声で、リグトはユアに釘をさす。


「わかってるわよ」

「言い方を変えよう。俺に迷惑をかけるなよ?」

「わかってるってば」

「ならば良し。もし迷惑をかけた場合は、学食奢りだからな?」

「相変わらず、ガメツい」

「お互い様」


 明け透けに飛び交う言葉たち。


 リグトとユアは幼なじみだった。お互いに恋愛感情はまっさらに皆無。フラグも立ちそうにない、このサバサバとした雰囲気。

 でも、いくらドライな関係であったとしても、生まれたときから一緒にいるのだ。リグトは、ユアの秘密を知っていた。


「怪我、するなよ?」

「心配無用よ」


 リグトとユアが睨み合うように視線をぶつけると同時に、ロイズが開始の合図を送った。


「じゃあ、獣討伐実習。始め~」


 ロイズの間延びした掛け声と共に、実習スタート。ユアは気合い十分、森の茂みに入っていった。






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