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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離
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1話 ロイズ・ロビンと、その距離接近中



 時は四月。ここは上級魔法学園。

 その五学年の講義室の扉が開くと同時に、初講義の本鈴が鳴った。

 

 ぱんぴろりん♪ ぱんぴろりん♪ ぱん♪


 オルゴールのような可愛らしい本鈴。とても小さく囁かな音ではあるが、全員の耳元で定刻に鳴り響く。ちょっと間の抜けたメロディーが、この魔法学園を象徴しているようだと、生徒に評判の鐘の音だ。



「全員そろってる~?」


 時間ぴったり。扉から入ってきた魔法教師は、高さ二十センチの教壇に立ち、全員の顔を眺めた。


「五学年の担任教師の」


 魔法教師は、ニコッと笑った。


「ロイズ・ロビンです、よろしく~」


 ロイズがそう言うと、生徒がクスクスと笑い出した。今年で五学年を受け持つのは四年目。毎年のことだ。


「せんせー! とても教師にはみえませーん」

「強い魔法使いって話は、本当ですかー?」


 ―― うわぁ、今年もかぁ~


 学生に有りがちな、こんな明け透けな物言い。もう四度目ともなると、ロイズにとっては風物詩。


 とは言え、確かにその通り、二十三歳の男性にしては、よく寝ているのか肌はつやつや。可愛いらしい飴色の瞳に……どちらかと言うと、うん、とっても童顔な顔立ちだ。

 五学年の生徒は全員十九歳であるが、同い年か少し年下に見える。


「毎年のことながら、みんな見た目だけで判断するよね~」


 口を尖らせながらそう言ってから、次に『いっひひ~』と歯を見せてイタズラに笑った。


「さぁて、準備はいいかな?」


 これは警告だ。きょとんとする生徒たちを余所に、ロイズは一言呟いた。


「五学年講義室の全員、魔法練習場、転移」


 ふわり、ストン。


「えーーーー!?」


 五学年の生徒たちは驚いていた。

 ふわりと浮いた心地がしたかと思ったら、ストンと魔法練習場に移動していたからだ。座っていた椅子が急に無くなった為、ほとんどの生徒は地面に転がっていた。

 噂には聞いたことがあるけれど、本当に魔法陣もなしに魔法を発動させた。しかも、転移魔法をいとも簡単に。驚きである。


 しかし、ロイズ・ロビンにとっては、そんな生徒たちの驚きも毎年のこと。気にする素振りも見せずに、今度は白衣のポケットに手を入れたまま「岩の壁」と呟いた。


 すると、メリメリドドドと地面から音が鳴り響き、せり上がる様に岩の壁が現れた。


「おーーー!」


 掴みはオッケー。この時点で、生徒たちはロイズの魔法の虜だ。やはり何事も幕開けが一番大事ということだ。


「さて、サクサクやろうね。この壁をこんな感じで壊してみて。火、水、風、土の四大魔法なら何でもいいよ~」


 ロイズは、腕組みをしたまま「水、バーン!」と一言。すると、巨大な水鉄砲が現れ、物凄い勢いで岩壁にぶち当たる。


 ドドドガーンガラガラガラ……と音を立て、岩壁に穴が空いた。今度は誰も、何も、一言も、発しなかった。


 穴の向こう側には、よく晴れた青空が広がっている。遠くの白い雲が、潔く空いた穴からユルリと顔を出して、嘲笑うようにもくもくと通り過ぎていく。やたら天気がいい。


「はい。チャンスは一人一回までね。『岩壁チャレンジ』挑戦する人~? あ、壁に穴が開いたら学食を奢ってあげる」


 ロイズは「浮遊」と呟くだけでふわりと飛んでみせ、壁の上に立ちながらそう言った。生徒たちは目配せで『これはちょっと……』と怖じ気づいている。


 しかし、そんな中でも挑戦者はいるものだ。


「学食奢り……? はい、やります」

「お、黒髪の男子生徒くん! いいねぇ! 名前と出席番号を教えてちょーだいな」

「リグト・リグオール、出席番号2番です」


 生徒たちからどよめきが上がる。魔法学園では出席番号は成績順だ。上級(・・)である、この魔法学園の五学年の出席番号2番。即ち、この国で二番目に優れた学生ということだ。


「よし、リグオールね。俺は、壁の上で皆を守る役目をしてるから、全力でど~ぞ~♪」


 リグトはこくりと頷いて、空中に赤く光る魔法陣を描いた。さすがだ、超高速かつ繊細でうっとりするような魔法陣。そして、うっとりするような美男子だ。


 皆が見惚れるようなリグトが美しい魔法陣を描き上げ、それに手をかざして魔力を込める。


「火の槍!」


 魔法陣から飛び出してきたのは、空気を焼くほどの熱を持った巨大な赤い槍。

 炎の熱風が、ロイズの柔らかい飴色の髪をふわっと舞い上がらせる。彼の満足そうなキラキラとした瞳が、火の光に照らされて一層キラリと光った。が、しかし。


 ビヨヨヨーン、シュゥ……。火の槍は、岩壁に刺さったもののビヨーンとしなって名残惜しくも消えていった。リグトは、ガックリと頭を垂らしながら「学食……」と呟いていた。


「へー! 魔法陣描くの早くて上手いね~! 槍じゃなかったらいけたかも。残念だったかな」

「くっ……学食……!」


 魔力量の消費が少ない槍を選択してしまったのが悪かった。やたらと悔しがるリグトを見て、ロイズがふっと小さく笑った、その瞬間。


「風のハンマー」


 可愛らしい声が、練習場に響いた。いつの間にか描かれていた青く光る魔法陣から突風……いや、風の塊が現れた。それは豪快に岩壁にぶち当たり、全く勢いを殺さずに岩の中を粉砕しながら突き進む。


 そして、ガラガラガラ……崩れ落ちる岩の音と共に、穴が空いた。ヒューと爽やかな風が通り抜ける。


 ロイズは壁の上に立ったまま、飴色の瞳をキラキラと輝かせて、足下の壁を覗き込んだ。思わずにんまりと笑ってしまうくらいに、美しい円を形取った穴が空いている。


 ―― お! 今年は違ったな~


 ロイズが壁の穴から視線を移すと、魔法を放った跡の消えゆく魔法陣の先に、小柄な女の子が立っていた。 


「強烈! へぇ……すごいね……君、名前は?」


「出席番号1番、ユア・ユラリスです」


 ユアは、人懐っこい笑顔でふわりと笑って、ロイズを真っ直ぐに見上げた。真っ白な制服のスカートの裾をちょこんとつまんで、ぺこりとご挨拶。


「ロイズ先生、ご馳走さまです」



 強烈な魔法が『初めまして』の挨拶代わり。


 でも、これは魔法使いの恋の御話。

 焦れったくも甘い、恋の物語である。



 岩壁の上にいる彼と、()()に風穴を空けた彼女。


 その距離、ただいま接近中。






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マシュマロ

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