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次の日、漓闇王一家と玉兎王一家は謁見の間でいた。
帰る前に瑞加女王に挨拶にきたのだ。
前日、故郷から帰ってきたマツリも玉兎王と一緒に帰るためにこの場でいた。
ユキも正装で、女王の横に並び立つ。
まともにライの顔が見れず、ひたすら真っ直ぐを見ていた。
「瑞加女王、この度は長らくの逗留をありがとうございました」
美しい、闇色の髪を垂らし漓闇王は礼を述べた。
「何もない所、ゆっくりできたのならよかったのですが、至らぬところもあったでしょう、申し訳ありませんでした」
女王の紡ぐ言葉が竪琴のように響く。
「次に会うことはないかもしれません。皆様ご自愛のほどを」
女王がそう言った時、華黒が前に進み出た。膝を折り女王に一礼する。
「このような時にお願いがあります」
「なあに?」
「立会人になっていただきたいのです」
華黒は振り向き二人の王に言った。
「玉兎王、凛華姫をいただきたい。凛華、わたしの妃になっていただけますか?」
凛華の顔が花を抱いたようにほころぶ。
「はい、喜んで」
凛華は嬉しさのあまり、華黒の胸に飛び込んだ。力の限り受け止める。
周りは彼らにわからぬように肩の力を抜いた。
二人の世界を見ながら、ユキは小さな声で女王に囁いた。
「うまくいきましたね」
「ええ。昨日のライ殿を見て、焦ったみたいね。いい影響だわ」
この母親はどこまで見ていたのだろう。侮れない。
顔が赤くなるのを隠しながら、二人を祝福した。
その後は早かった。漓闇王たちはアトラス国によって月闇帝国に帰ることになったため、両国とも、急ぐようにして去ることになったのだ。
「ユキ、約束だからね」
遠くになる馬車の窓からライが身を乗り出し、手を振った。
少年の心地よい声が響いた。
誰もいなくなった城の中は静寂に包まれた。
こんなにも寒かったのかと、ユキは身を抱えた。
「どうかしたの?」
瑞加が近づいてくる。
今、城内にいるのは母と娘だけ。客人がいなくなって、円卓メンバーやその夫人たちは早々に村に帰る支度を始めている。騎士や侍女たちも必要な人数を残して家に帰るのだ。
ユキは知らず知らず、涙をながしていた。
「胸が・・・胸が痛い、の。なんで、だろ?なんで、こんな思いするんだろう・・・?」
ほろほろと流れる涙。
溢れて止まらない。
瑞加はユキを抱きしめた。
「それが、恋、よ」
三百年生きて知る、初めての恋だった。