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北の果ての女王の恋物語  作者: 彩華
一章 北の果ての出会い
7/12

7

数日して、ユキの部屋に元気になったライが現れた。

手にはこの時期には手に入らない小さな花を持っていた。城内にある温室から瑞加女王の許可を得て、手折ってきたのだ。


ライはユキの処置と漓闇王のおかげで二日休んだだけで元気になった。まだ、背中の傷が痛いものの動けないほどではない。


「ユキ・・・大丈夫?」


ライは熱が続くユキの白い手をとった。


「ごめん・・・。ごめんなさい・・・」


うなされるように幾度となく繰り返す。


「僕は、大丈夫だよ。ユキのおかげで、ほら、ね」

「傷、が・・・」


ほろほろと涙が止まる事を知らないかの、流れ落ちる。


「もう、ユキ。僕は男だよ。傷があってもこんなの気にならないよ」


少年は笑った。

再び眠る少女の顔をじっと眺めていた。


流してしまった自分が悔しかった。何もできなかった自分が不甲斐なかった。助けられた自分が情けなかった。


ライは出来る限りの時間、ユキの部屋を訪ね、話をした。

少しづつ、笑顔が戻ってきたことがライは嬉しかった。


だが、まだ解けない包帯が気を重くさせた。


部屋に戻ったライは仕事をしている玉兎王の前に立った。


「父上、僕強くなれるかな・・・」


ポツリと呟く。

玉兎王は破顔した。





ユキは部屋の外を歩けるようになった。

魔力の使いすぎと、傷の大きさ、治療の為の魔力の不適合で治りが遅く、やっと松葉杖をつきながら散歩に行けるようになったのだ。

向かいの廊下に華黒と凛華の姿を見た。

仲睦まじくお茶をしている。


「ユキ様、もうよろしいのですか?」


ユキの姿に気づき凛華が駆け寄ってくる。柔らかな金の髪がふわふわと動くのが可愛らしい。


「今、華黒様とお茶をしていますの。ユキ様もいかがですか?」


ここ数日、ライは玉兎王とともに騎士団の練習に行っているので会えていない。寂しく思っていたのと、まだあまり歩けないこともあって、華黒がいるのにも関わらず二つ返事を返したのだった。

話が合った。華黒そっちのけで二人で話を咲かす。お互いの趣味から好きな食べ物。服に美容のこと、女の子らしい話をしていく。


「そうですわ、ユキ様に渡したいものがありますの。お待ちになっててくださいませ」


そう言って凛華は立ち上がり、その場を後にした。


「どう言うつもりだ」


ムスッとした声にユキは声の主を振り返った。


「そう言うところが子供ね」


やっと、真正面から華黒を見つめることができた。


「見た目が子供のあなたに言われたくないですね」

「そう言うところが、女心のわからない子供なのよ」

「女心?()()でないあなたに分かるとでも言うのですか?いい加減、大人になった方がいいのではないですか?」


いつもなら、聞きたくもない言葉だが、今は肩の荷がとれたようにどうでもいい事に聞こえてきた。


「本当に()()ね。まだ、知らないのね・・・」

「何をですっ?」



ユキは自分を前にすると子供のようになる華黒が可愛らしく思えた。意地を張り自分を大きさ見せようとしている姿が羨ましく思った。

自分がなぜ子供のままなのか。自分では理解している。・・・、そう、怖いから。

彼は知らない。知らないならば言ってはならないのだ。

時が来ればわかる。それまで見守るしかない。



「凛華様、可愛いよね・・・。言わないの?明日帰るのよね」


わざと話を変えた。そうしなければ平行線をたどる。

凛華の名を口にすれば華黒は言葉を詰まらせた。


つまりそう言う事だ。


今回の訪問は二人のお見合いの場にされていたのだ。この雪に閉ざされた世界での二人の出会いは運命的であったであろう。

そうなる時間はいくらでもあった。後は、この二人次第。


何も知らなかったのは、この二人と子供たち。

お膳立てした、大人たち・・・。


「話してみたけど、明るくて、素直・・・。そばにいて落ち着くよね・・・。いい子よね」


追い討ちをかける。


「これで別れたら・・・、もう会うことはないよね。アトラス国も月闇帝国も遠いものね・・・」


華黒の顔色がどんどん変わっていくのを楽しそうに見やった。そんな顔を見れて嬉しくなる。

いつまでも言わしてなるものか、そんな思いで口にした。


「嫌なやつだ」

「お互い様でしょう」


お互いの漆黒の眼差しがぶつかり、睨み合う。


「お待たせしましたわ」


凛華が帰ってきた。二人の様子に首を傾げたが、ユキはなんでもないと答えた。

凛華はユキに青い石のついたネックレスを渡した。


「綺麗・・・」

「浜辺で、取れます石です。良ければ、お友達の証としてもらっていただけますか?」

「喜んで」


ユキは笑った。

これ以上、華黒の邪魔も悪いと思い席を立ち、その場を退出する。

コツコツと松葉杖をつきながらありき始めた時、向こうからライが走ってきた。息を切らし、腰には訓練用の模擬刀を携えていた。走ってきたライの顔は紅潮している。


ユキの元に来ると白い手を握る。


「ユキ、歩いて大丈夫なの?」

「ええ、少しづつ慣らしていかないとダメだから。・・・訓練してたの?」


だいぶ訓練していたのか。握ってきた小さな手に豆ができているのがわかった。


「うん。僕、強くなりたい」


真っ直ぐにユキを見据える。

王子としての自覚がでてきたのであろう。

ユキは嬉しく思う反面、悲しく思った。

誰もが成長する姿を見るたびに喜びとともに取り残されたような気持ちになる。自分で決めたこととはいえ、この感情には慣れない。


「僕、ユキより強くなる。君を守れるような男になる」

「えっ?」

「僕、ユキを守れるくらい強くなって、ユキに会いに来るから、その時は僕のお嫁さんになって」


そう言って、手を引いた。バランスを崩してそれを支えるように抱きしめると、ライはユキに口づけをしたのだった。


「約束ね」


ゆっくりと身体を離し立たせると、少年は颯爽と立ち去って行ったのだった。


ユキは力が抜けたのか、その場に座り込み真っ赤な顔でライを見送ったのだった。




この一連のできごとを見るものはみていた。

華黒など歯軋りさせんばかりの顔になり、横にいた凛華は弟の大胆さにびっくりしていた。ライを追ってきた玉兎王さえ口を大きく開けて呆然としている。


そして、瑞加女王も遠巻きながらに見ていた。すぐ横に白髪に金の瞳を持つマツリが立っていた。


「マツリ様。どう思いになりますか?」

「今はなんとも。運命に任せましょう」


瑞加女王は頷いて、その様子を見つめていた。



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