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北の果ての女王の恋物語  作者: 彩華
一章 北の果ての出会い
6/12

6

「どうでしたか?」


 帰って来た円卓メンバーと騎士達を迎え28歳で円卓メンバーの総括を任された遠野に瑞加女王は報告を聞いていた。


「はい、密猟者は既にいませんでしたが、様子を見て被害はないようです。痕跡を残しておりましたので追跡はしております。雪熊は『宝生』が壊されておりました」

「あの子が?」

「はい、魔力の痕跡から、その可能性が高いと」


『宝生』とは氷瑠国独特の生き物の生命を司る石のことである。それを壊せばその動物を倒すことができる。ただ、それがあるところが胸元だったり、額だったりと種類によって異なる。特に雪熊は喉元にあるため倒すのにはそう簡単ではなかった。


「ライ殿は?」

「処置が的確だったおかげで生命に別状はないそうです。傷痕がのこると、言われました」

「姫さまは?」


 その問いに女王の顔が曇る。


「今治療中です。漓闇王が力を分けてくれてはいますが、身体が弱っているので、完治には時間がかかるとのことです」


 誰もがざわめく。今まで何があっても怪我まで一つしたことのない少女に一体何があったというのか。


「ライ殿を抱えていたため服が血で染まっていて、気づくのが遅くなったの。腕と足も折れていたわ。あと・・・あの子の左肩にも爪痕があって残るそうよ」


 どんなことをしたのだろうか。小さな身体であの巨体の雪熊を倒すとは。なにがあそこまであの少女を動かしたのだろう。


 この日の業務を終えた足で、瑞加はユキの部屋へ訪れた。

 いつもなら飾り気のない殺風景な部屋の机には、今までなかった沢山の小物が無造作に置かれていた。何気ない石やお菓子の包み紙。

 娘の変化が見て取れ、瑞加は目を細めた。


 奥の寝台に横たわる幼い娘の元へ近づく。

 長いまつ毛が震える、黒曜石のような瞳がゆっくり開いた。


「お、かあ、さま?」


 そっと額に手をやる。


「ラ・・・イ、は?」

「もう、大丈夫ですよ。あなたの処置が良くて、今はよく眠っています。ただ、傷は残るそうよ・・・」


 その言葉に大粒の涙が流れて落ちる。

 嗚咽がこぼれた。


 自分がもっと早く動けなら、ライは怪我をしなかったのにと後悔が溢れる。


「わた、し・・・、わたっ、・・・し・・・」

「もういいの。わたくしがいい過ぎました。あなたはよくやったわ。だから責めないの。今はゆっくり眠りなさい。大丈夫だから・・・」


 優しく流れる髪をすいてあげた。




 落ち着き安心したのか、再び寝入ったユキを確認して部屋を出ると、そこには玉兎王が壁に寄り掛かるようにして立ってた。


「あら、盗み聞きかしら?」

「いえ・・・」


 姿勢を正し女王に向き合う。


「申し訳なかったわ」


 そう言って頭を下げたのは女王だった。


 玉兎王は面食らった。一国の女王が頭を下げるなど思っていなかったのだから。謝らせる為に会いに来たのではなかったのだから。


 初めに聞いた時は驚きと不安だった。息子の様子を見て、確かに怒りを感じたのも事実。

 だが、ユキのことも聞いて、居ても立っても居られず、こうして来てしまったのだ。


「いや、えっと・・・」


 女王はそっと笑った。

 そして応接室に案内した。


「お怒りになるのは当然の事です」


 自ら入れた紅茶を差し出しながら言った。


「娘の愚かな行為としかいいようがありません」

「・・・ですが・・・」


 玉兎王の向かいに座り、紅茶を口にする。


「いいえ、考えが浅はかとしかいいようがないのです。あの子の乗っていたソリは幌が張れるのです」


 玉兎王には何が言いたいのかわからなかった。

 女王がいうにはこうだった。


 ソリには幌が張れるよう一式の道具が揃っていると言う。つまり、簡単な薬や非常用食料、武器も揃っていたのだ。それを使えば自分も無茶することもなく、止血の道具さえも簡単に手に入ったということだ。それにより体温を奪われることも少なくできたということだった。


「慌てていて、それさえも忘れていたようです。何があの子をそうさせたのか・・・。あなたやライ殿には申し訳ありませんが、わたくしは嬉しいのです。今まで人としてあまり感情を出さなかったあの子が他人に対して涙を流しました。いい方向にむいているならば・・・」


 最後の言葉は聞き取れなかった。

 女王がなにを思って言ったのか、彼には分からなかった。

 ただ一つ言えるとしたならば、女王でしてはなく、一人の母親として存在していることだけは理解したのだった。



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