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北の果ての女王の恋物語  作者: 彩華
一章 北の果ての出会い
5/12

5

 次の日から、二人は城の中を探索すると、街に出て買い物や街の子供達と遊んだ。

 それはライにとって新鮮なものだった。

 護衛もつけずに街に下りて子供達と遊んだ事も初めてな上、雪合戦やカマクラに作ることも、雪が降らないアトラス国では経験できないことを幾つもした。

 そして、何より、ユキが皆から慕われ愛されていることに、驚いた。王女と言う身分でありながらユキ自身が幼い子供達のお守りをし、彼らのトイレや食事の世話までしているのだから。


「年上の役目だもの」


 そう言って微笑む。


 それでも、大人、老人までユキを見ていた。会えば必ず言葉を交わす。


 ここの国のあり方をライは幼心でも感じることができた。自分の国とは違う。将来、自分が国王になった時、できるのか?将来の事など、今まで一度も考えな事などなかったが、ほんの少しだけ頭をよぎった。王子として生まれた自分の立場をこの時、初めて考えたののだった。




 この日、二人は城の郊外にある森に来ていた。温かい毛皮のコートを着込み、白狼にソリをひかした。

 数日前に話に出た雪鹿を探しに来たのだ。いつものように街に下りて子供達と遊んでいる時に、滅多に見ることのできない雪鹿を北の森で見かけたと言う噂を耳にした。真っ白な体に大きな角。駆ける姿は優雅でまるで踊っているように見えると言う。

 それを見たいと言うライの願いを叶えるため見に来たのだ。


 雪鹿を見かけると言う、城の北側にある森へ入って行く。

 しばらく行くと白狼を近くの木につないだ。


「ここ?」


 寒くて紡ぐ言葉が震える。


「もう少し先かな。あの子たち、警戒心が強いから少し歩いて行こう。遠くから見てみよう」


 ユキがライの手を取り手袋の上からかじかんでいる手を揉んで温める。

 そんな時、辺りに騒音が響いた。

 ユキの顔に緊張が走る。


「なに?どうしたの?」

「密猟者だわ。ライ、ここにいて」


 そういい残し、音を立てずに密猟者を見つけ近づいた。

 この国の王女として生まれたからには役目を果す義務があった。


 彼らは3人いた。この国のものではない。

 彼らは猟銃を構えて周りを伺いながら歩いているのが見えた。

 息を殺し、足音を立てず一歩づつ、足を進めて行く。

 男たちが立ち止まり何かに気づいて悲鳴を上げた。

 ユキも彼らの見ている方角を見て青ざめた。


 そこには大人の三倍はあろうかという、巨大な雪熊がいたのだ。

 しかも、ライがいるはずの近くに・・・。

 ライは・・・気づいていない。


 密猟者の声にライは驚き悲鳴をあげる。雪熊はライに向かって走り出し、腕を大きく振りかぶった。


 ユキは密猟者のことも忘れてライの元へ走ったが、それでも間に合わなかった。

 ライの背に雪熊の一撃が入ったのだ。


 ユキは髪に挿している簪を引き抜くと口の中で呪文を唱えた。彼女だけの魔法の杖となり、震える手で構える。と言っても、一人で雪熊を相手に使える技はそう多くない。いつもなら幾人かのグループになって雪熊を退治することを、今自分一人しかいないことが恐ろしかった。それでもやらなくてはならないのだ。


 倒れているライを視界の端で捉える。

 出血が多い。

 早く止血しないとー。

 だが、目を逸らせば一貫の終わり。

 はやる気持ちを抑え雪熊に立ち向かった。



 ユキは急いだ。膝の中で動かないライを気にしながらソリを走らせる。一足先に魔力で使いは送ってはいる。

 止血をし、体温を下げないように自分のコートで包み魔力の限り生命維持を図る。

 真っ青な唇を噛み締めた。



 連絡を受けた瑞加女王の行動は素早かった。

 部屋を整え、医師を呼び待機させ、7人いる円卓メンバーの一人、遠野にほかのメンバーと騎士達を集めさせ密猟者の追跡するように指示をする。

 ユキが帰ってくるなり、ライを医師に託した。


 氷のような眼差しでユキを見つめ、平手打ちをした。

 容赦ない音が辺りに響く。


「わかっていますね」


 次代の国王候補の少年に傷を負わせたのだ。しかも命の危機である。重大な過失としかいいようはない。


「はい。・・・私が、愚かでした」


 消え入りそうな声。


「わかっているならいいわ。血で汚れた服を着替えてきなさい」


 側で控えていた不香に後を託すと、女王は様子を見にライの元へと足を向けた。


「姫さま。女王陛下は()()はおっしゃっていますが、姫さまのことを心配なさっておいででした。姫さま?」


 一言も漏らさない少女を不審そうに見やる。

 その顔はあまりに青白く、唇さえも色をなくしていた。


「姫さま!」


 ゆっくりと身体が傾き崩れて落ちた。

 不香が慌てて抱き抱えると、少女の肩が真っ赤に彩られていたのだった。


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