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北の果ての女王の恋物語  作者: 彩華
一章 北の果ての出会い
4/12

4

 そのよる、歓迎会が催された。と言っても、舞踏会ではない。

 氷瑠国には貴族と言う身分がないらしく、パーティーと言われるものはないと言うのだ。そのため、皆と一緒に会食というのがつねらしかった。

 騎士や女王の側近たちも末席とはいえ、同じ席について、同じ料理を食べて入る。

 凛夏もライもその事にびっくりした。

 そして、そのほとんどの料理が女王自らのお手製なのだから、驚きを隠せなかった。プロの料理人並みの腕前に舌をまく。


「ライ、口にソースついてるわよ」


 玉兎王の妃と次男は別の部屋で食事をとっているため、凛夏が母親の代わりにライの口元を拭いてやる。

 ふとっ、視線を感じ見やると、真正面に座る華黒と目が合う。優しい眼差しに恥ずかしくなり目をそらした。


「姉上?」

「な、なんでもないわ」


 そう言って、乱暴にライの口元をもう一度拭った。


 食事も中頃にさしかかったころ、扉が開き、一人の少女が入ってきた。うつむき表情が窺い知れない。


「遅くなりました」

「早くお座りなさい」


 少女は静かに席についた。



「父上。あの子が僕にコートを貸して、部屋まで送ってくるたんです」


 ライは先ほどの出来事を語った。


「そうか。あのかたがこの国の王太子、ユキ様だ」

「あの方が?わたくしより幼いですわ」


 驚き、父王の顔を凝視する。

 20年前に出会った時と変わらないいでたち。だがあの時のような明るさがないのに玉兎王は気になり眉を寄せた。

 食事が終わると、この花が少女のようなはしゃぎようでユキを抱きしめた。

 誰もが呆気にとられる。


「この花」

「わかっていますわよ。お母様。でも久しぶりですもの」

「この花お姉様・・・」

「一つも変わったないなんて。昔を思い出しますわ」


 黒髪を幾度も撫ぜる。

 片や白銀の髪の女性、もう片方は黒髪の少女。一見姉妹とは思えない。従姉妹というのにも無理があるほどかけ離れた二人だった。


「お久しぶりです。叔母上」


 後ろを振り向くと華黒が立っていた。

 この二人の方が歳の離れた兄妹のように見える。


 ユキの顔が一層曇る。


()()()()()()()()()()()()


 整った顔が冷たく感じる。側でいた漓闇王の眉がわずかに寄せられた。


「そろそろ()()になるべきではありませんか?」


 ユキはいい返すことも出来ずにうつむいた。唇を噛み締める。

 それを見かねるたのか、漓闇王が口を開こうとした時、華黒が短い悲鳴と共に膝を抱えてうずくまった。

 見ると、ライが息を切らして仁王立ちしていた。華黒の膝裏を蹴ったのだ。

 誰もが唖然とする。


「ユキを虐めるな」

「ライっ!」


 玉兎王と凛夏が慌ててやってくるのが見えた。


「ガキが、強気だな」


 子供のようにライを睨む華黒。


「大人のくせに弱いものいじめするのか?」


 華黒にすればユキは子供ではないのだが、ライにはわからなかった。だか、ユキを暗い顔をさせる相手だけはどうしても許せなかった。


「ライ!」


 玉兎王が戒めようとさたが、その前にライは動いていた。


 むにっ


 ユキのふっくらとした頬を優しくつねったのだ。


「ユキ、顔を上げて笑って。その方が可愛いよ」


 にかっと笑いながら言った。

 その様子に誰もが言葉を失った。

 ユキは顔を真っ赤にしてライを見つめた。

 今まで、300年以上生きてきたユキだが、面と向かって『可愛い』と言われたことなどなかった。お世辞や建前などではあっても・・・。そして、誰もが気を遣い必要以上に年上として扱う。

 だからこそ、年下の男の子に飾り気もなく可愛いと言われると赤面せずにはいられなかった。


「わ、わたし・・・」


 ユキは逃げるようにしてその場を去って行った。


「ユキ?」


 瑞加女王に遮られ、追いかけることが出来なかった。


「今はそっとしてあげて」


 不思議そうに女王を見上げた。

 キラキラと輝く白銀の髪と水色の瞳に幼い少年でさえドギマギしてしまう。


「華黒、いい加減にしなさい。この子の方が紳士ですよ」


 静かな声に、言われた本人は不服そうに横を向いた。


「ユキ、怒ったの?」


 女王はライを見てふふっと笑った。長い髪が顔にかかる。


「いいえ、違うわ。初めて女の子扱いされてどうしたらいいのかわからないだけよ」

「何がどう違うのですか?」


 少し苛立ちを見せながら華黒はライを見た。この少年と何が違うのか?


「さあ、考えてみなさい。丁度いいお年頃のお嬢さんもいるのですもの、いろいろと話をしてみなさい」


 女王は氷のような瞳で華黒を一瞥すると、ライと目線を合わせるために膝をついた。


「ライ殿、ここにいる間ユキを宜しくお願いしますわ」


 紅い唇が少年の頬に落とされた。




  ***


 女王はユキの部屋に入った。

 何の飾り気のない殺風景な部屋。

 暗い部屋を迷うことなく歩き寝台に近づくと、膨らんだ布団に手を置いた。


「どうしたの?」

「お母さま。わたし変なの。今までだってあんなこと言われたことあるのに、何でこんなにドキドキするの?わからないの」


 布団を跳ね除け瑞加を見つめた。

 瑞加はそっと抱きしめた。こんな話をするとは思わなかったため、ユキに見えないように意地悪そうに微笑んだ。


「なんでかしらね。ゆっくり考えればいいわ」


 黒い光沢のある髪をすいてあげる。


「丁度いいわ。あなたにお願いする事にしましょう。ライ殿のことはあなたに任せます。わたくしは漓闇王や玉兎王と政治的な話をします。あなたにも会合に出てもらおうと思っていましたが、この際、仕事をお休みにしますから、ライ殿と昼間は遊んできない」

「ですが・・・」

「女王命令です。凛夏王女は華黒に任せますので、あなたは久しぶりに子供に戻りなさい」


 見ると、にんまりと意地悪そうに笑う母親に嫌な感じを抱きながらも頷く。瑞加は満足そうに頷くと部屋を出ていった。




「そろそろ、()()になってくれるかしら。ライ殿、期待してるわ」


 女王は楽しそうに微笑んだ。


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