2、
6歳のライはもの珍しく見回っていた。
群青色の大きな瞳が忙しなく動く。
「父上。全部が真っ白だよ。外は寒いのに部屋の中は暖かいね」
まず初めに雪の多さに驚いた。そして、一面真っ白な世界に感嘆した。
玉兎は息子の笑顔に苦笑しつつ、疲れ切っている妻を労った。
ここは、北の最果てにあるため、来るだけで三ヶ月以上かかったのだ。疲れが出ても仕方ない。
女王の行為で温かい部屋着やコートなどが贈られている。
「ゆっくり休め」
軽くて温かい布団をかけてやると侍女に後を託し、やんちゃなフォルを乳母に預けた。
床には厚い絨毯がひいてあるため、幼い次男がコロコロと転がっているのを面白そうに見やった後、ライを連れて部屋を出た。
「お父様。ここまで来た理由はあるのですか?」
片付けをしていた凛夏が手を止め聞いてきた。
「ここは私の出発点でな。マツリにはここが故郷というのもあって、来たんだ。丁度、華黒もくるし、調度よいしな」
もう一人の同行者であった、マツリは先にこの国に入り故郷に帰っているはずだ。
昔から父親の若い頃の話を凛夏はよく聞いていた。まるで夢見心地のおとぎ話のように感じていた国が、実際にここにあるのが不思議に思えた。
「確か、華黒様はお父様と旅をされたのでしたよね。それにしてもお若い方ですわね」
華黒の顔を思い出し呟く。
長く美しい黒髪に深い闇の瞳を思い出すと心が揺すぶられた。
「氷瑠国ー光の一族も月闇帝国ー闇の一族も我らと同じ守人なのだが、この二つは特に寿命が長い。あの華黒でさえ百の歳は超えているがまだ青年期のはずだ。だからこそ漓闇王が王座についておられる」
「そうですの」
凛夏が呟く。
「確か、瑞加女王は玉座について300年立っているはずだ。瑞加女王には漓闇王の正妃、この花様の他もうひとかた王女がおられる。あの方は華黒より年上だが、今もなお子供の姿のままでいらっしゃる」
「どうしてです?」
「さあ・・・。その理由がわかれば、瑞加女王も安心なさるだろうに・・・」
静かに呟いた。
「てなわけで、ライ。王女様に会っても失礼のないようにな。ライ・・・ライ?」
息子に忠告するために振り返ったものの、そこには息子の姿はなかった。扉が開かれたのか、わずかな隙間が開いていた。
「ライィ!!」
玉兎王の絶叫がこだました。