12.
舞踏会は華やかなものだった。五百人はくだらない人数。色とりどりのドレスをご婦人方。給仕たちも忙しそうに駆け回っているのが見える。
「キョロキョロしないでくださいよ」
小さな声で遠野は言った。慣れているだけあり彼は堂々としている。
「遠野。はっきり言って、緊張してるわ。自信がないから、宜しく頼むわよ」
表面は普通でも胸のうちは、緊張で心臓の鼓動が早くなっている。聞こえないはずないのに、ドキドキと耳元で聞こえている気がした。
遠野が目を細めシワを深めながら笑う。
一緒に仕事を始めてから約、20年。こんなわたしを見るのが初めてだから、笑っているのだろう。
ひどくないかしら。
わたしの名を呼ばれ広間に入ると周りはざわめきだった。
「氷瑠国?あの?」
「白銀色ではなく、真っ黒・・・」
誰しもの興味を引いた。
アトラス国には金の髪を持った者が多い。この国において黒や白銀の色は特に珍しいのだ。
しばらくすると国王夫婦が入られた。
わたしは玉兎王の前に進みでた。
20年経ち、彼はシワも増えそれなりの威厳がでてきていた。
「玉兎王、お久しぶりでございます。今回は無理を聞いていただきありがとうございます。母、瑞加女王より贈り物と手紙を預かっておりますので、後ほど持っていかせます」
「ユキ、いや、六花殿。ひさしぶりだな。いや、お美しくなられましたな」
玉兎王はわたしの姿を見て、驚いた。
「環境が違うので戸惑うことも多いだろうが、気楽に過ごしてくれ。数日後には華黒もくる」
そう言うと、彼は立ち上がり、手を打ち鳴らした。
騒がしかったのが、一瞬にして鎮まりかえる。
「この度は、客人が数名いる」
その言葉に二人の女性と三人の青年が、前に出てきた。
「ラシャール皇国第一皇女、ミシェル姫」
先程出会った女性。優雅なカーテシーを披露する。彼女自身の魅力を引き出す水色の上品なドレス。まるで、絵本に出てくるお姫様を具現化したかのようだった。
「次いで、バーランド国、第二王女、ロゼ姫」
こちらは真紅のバラの様なイメージを持つ女性。胸元が大きく開き、たわわな胸が今にも溢れ落ちそうな真っ赤なドレスを着ていた。濃い茶色の髪を一つにまとめ上げ真紅のバラを挿している。後れ毛と右目の下にある涙黒子が妖艶さを醸し出し、翡翠の瞳は強い意志が感じられた。
「こちらは氷瑠国、王太子、六花姫」
「あの?」
ざわめきの広がる広間でカーテシーをした。
「そして、隣国レガンシー国の第二王子アルフリード殿だ。しばらくアトラス国に滞在することになるので、皆のもの、無礼のない様頼む。彼らの接客には、第一王子玖琉と第二王子琉斗に頼む。二人とも失礼のないようにな」
金と銀をふんだんに使った青い衣装に身を包んでいる二人。
やはり、ライだった。
ほっとする。
彼らは玉兎王のたかわらにたち、それぞれがお辞儀をした。
「あと、六花殿。貴女が帰られる時にアトラスこくの王太子を決めようと思っている。数日後には宵闇帝国からくる華黒にも、頼むつもりだが、その立会人になってもらいたいのだか、よいか?」
今まで不在だった王太子の座。
息子である二人は驚きの表情で玉兎王をみていた。
わたしは一歩前にでると玉兎王のに向かって手を胸にあて目を伏せて言った。
「喜んでその願いを叶えましょう」と。