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北の果ての女王の恋物語  作者: 彩華
一章 北の果ての出会い
1/12

1

 北の果ての大地。

 この地は一年の半分以上雪の降る極寒の国。氷の国ー氷瑠国(ひょうるこく)。この国の王は孤高の王。

 今、この国を治めるのは女王ー瑞加(みずか)。氷を具現化したような、透き通った白い肌に白銀の髪。そして、水色の瞳に魅惑の紅い唇。

 誰もが一目見ると忘れる事がない氷の女王だった。

 彼女はこの国を300年以上治めていた。






 その女王がこの日、少女のような面持ちで、客人の到着を待っていた。

 薄雲に隠れた白い太陽が山の真上に来た頃、二組の客人が到着した。

 普通の馬では雪国を走れないため、彼らは途中で馬より遥かに大きい白くツノの生えた雪馬に乗り換えてやってきたのだ。

 雪馬の馬車から初めに出て来たのは、氷の女王とよく似た白銀の髪の女性だった。彼女は出てくるなり、女王にだきついた。


「お久しぶりですわ。お母様」


 彼女の名前は()()()。300年ほど前に南の果てにある月闇帝国(つきやみていこく)漓闇王(りあんおう)の妃として嫁いだ。これは、嫁い以来初めてとなる里帰りだった。

 あとから、馬車から出て来たのは彼女の夫、闇を支配するかのような漆黒の色を纏う漓闇王は、その様子を静かに見守った。


「この花、漓闇王が呆れてらっしゃるわ」


 いつまでも子供のような娘を諭す。


「300年ぶりですのに・・・」


 口を尖らせつつ離れた。

 改めて彼女は自分の立場を思い出したのかのように、夫の一歩後ろに立ち直し、一礼をとった。


「瑞加女王、お招きありがとうございます」


 落ち着いた静かな声で漓闇王は礼を言った。


「お母様、ご無沙汰しておりました。手紙の一つも出さずの不幸をお詫びいたします」

「何を言ってるの。はるか南の果ての国へ嫁いだのです。便りがないのが幸せの証ですよ」


 女王は改めて娘を抱きしめた。


「おばあさま、お久しぶりです」


 そう口にしたのは、彼らの一人息子の華黒(かこく)だった。父王に似た闇色を持った美しい青年だった。ただ一つ彼の父王にはない人懐こさを持っている。


「華黒、20年ぶりね。元気そうで何よりだわ」


 彼は、そっと女王に抱擁した。


玉兎(ぎょくと)、貴方にも会えて嬉しいわ」


 彼らの側で待っていた、もう一組の客人に向けた。

 華黒も嬉しそうに笑っている。


「瑞加様、お久しぶりです。この度はお招きありがとうございます」

「玉兎、久しぶりだな」


 華黒とハイタッチを交わす。


「華黒、一国の王に対して失礼だぞ」


 漓闇王の静かな忠告に首をすくめた。


 玉兎王は、海に面する国、アトラス国の王だった。20年前、王太子時代に華黒と共に世界中を旅したのだ。その際、この氷瑠国にも足を運び、貴重な体験をしたのである。


 武人のような無駄の無い筋肉、優しい金の髪と青海の瞳は見る者の安心感をさそう、魅力的な容貌をしていた。

 今の彼には妻と3人の子供がいた。16歳の娘、凛夏(りんか)。6歳の長男、ライと次男で2歳のフォルだった。皆、父親そっくりの髪と目の色だか、ライだけが群青の瞳をしていた。


「初めてまして、梓紗(あずさ)様。長旅で申し訳ありませんでした。雪国のため何もありませんが、ゆっくりなさってください」


 顔色の優れない玉兎王の妻は緊張の眼差しで氷の女王を見ていた。


不香(ふきょう)、部屋にお通しして」


 女王の側で控えていた白銀のの美しい女性が一礼し、梓紗たちを案内する。


「おばあさま、叔母上がいませんが、いかがされましたか?」


 華黒は美しい花のような笑顔を向けた。

 女王の形の良い眉がわずかに歪む。


「相変わらずです。華黒に会いたくないのでしょうね」


 ため息が、でる。

 側でいるこの花の表情が嬉しそうに輝く。


「いじめられるのが嫌なのよ。もう、いつまでも子供のなんだから」

「あなたもいじめないでよ」


 いたずらっ子のようにこの花は「はあ〜い」と返事した。

 娘と客人を見送った後、再び女王はため息をついた。


「本当にあの娘はどこに行ったのかしら・・・」


 彼らが来ると教えた頃から挙動不審になり、今日は朝から姿を見せないもう一人の我が子。

 理由はわかっている。姉と甥っ子のせいだ。


 20年前に華黒に会ったとき、あの二人の相性は最悪なものだった。それを考えても会いたくないのだろう。しかも、今回は実の姉である、この花もいる。

 逃げた、に違いない。


 女王は天を見上げた。


 城にはこの国の独自の()()からわずかな人数しかいない。来客のため、()()メンバーやその夫人達に手伝いにきてもらっている。それでも手は足りていない。猫の手も欲しいぐらいなのだ。

 今回のように多数の来客さえ珍しいのに。

 娘がいないからといって構っていられないのだ。


 既に子供ではないのだから、大丈夫だろうと思い、女王は次の準備に取り掛かったのだった。


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