第99話 乗車!メルタブル
エレがパスを持ってる理由、それは魔力研究所の研究員だからだと彼女は言った。
魔力研究所とは、マジックコンバータの生みの親、サンデが設立した魔力を研究する施設であり、現在はワムドワルド国家直営の研究機関となっている。そのため、そこで研究に勤しむ研究員たちは国から手厚い待遇を受けているのだといい、プラッチナムパスもその待遇の1つなのだという。
しかし、だからと言って、プラッチナムパスが研究員全員に支給されているわけではない。プラッチナムパスは研究員の中でもごく僅か、ワムドワルド国王が認めた特別な研究員である国家特任研究員のみに支給される物だと彼女は付け加えて言った。
「てことは、つまり、エレはその特別な研究員のひとりってことなんだね?」
「はい! 私、国家特任研究員のひとりなのです!」
「それは凄いね!」
エレは照れ臭くさそうにエヘヘと笑った。
「だから私と一緒なら、アオイもアルスもワムドワルドに行けるです」
「あの、エレ」
「はい?」
「実は、僕たち他にも仲間がいるんだ。あと4人」
エレは、ほぅと口を細め首を小さく縦に振った後、プラッチナムパスをまた、僕たちの前に掲げた。
「大丈夫です! このパスと私が一緒なら何人でもメルタブルに乗れるです!」
「何人でも⁉︎ ほんと、凄いね!」
感心する僕の顔を見たエレは、また照れ臭くさそうにエヘヘと笑った。
「おし! そんなら切符が無くても問題ねぇな。そんじゃ、皆んなんとこに戻ろうぜ」
僕とエレはうなづくとルヴィスたちの待つ場所へ向かった。
「2人とも、お帰り!」
皆んなのところに戻るとルヴィスが真っ先に声をかけてきた。その後ろではクラニとジェナが手を振り、ムイがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「ただいま」
「おう! 戻ったぜ」
「ん? ねぇアオイ、後ろに隠れてる娘、誰?」
エレは恥ずかしいのか、それとも緊張しているのか、僕の後ろに隠れながら、チラリとルヴィスたちを覗き込んでいた。
「彼女はエレ。ワムドワルドの凄い研究員さんだよ」
「研究員さん? その凄い研究員さんが、何でアオイたちと一緒にいるの?」
僕は切符売り場での出来事をルヴィスに話した。
「まったく。まだ居たのね、その3人組。でも2人とも、いいえ、3人が無事でよかったわ。けどそんな状況で切符は買えたの?」
「ううん。買えなかった」
「そうよね。なら今日はもう諦めて、明日また出直すことにでもする?」
ルヴィスの言葉を聞いたエレが僕の後ろから出てきて言う。
「それは、大丈夫です!」
「あら、出てきた」
「は、初めましてです。私はエレ・クトロ・ニクスというです……エレって呼んでくれ!」
エレはギュッと目をつむり、顔と耳を真っ赤にしながら上を向いた。
「ど、どうしたの急に?」
「あーこれはよ。俺の自己紹介をマネてんだ」
「自己紹介?」
「ああ。自己紹介だ。俺がエレに名乗った時によ、『アルスって呼んでくれ!』つったのを聞いてからこんななんだ」
ルヴィスは何かを察したようで、深くうなづいた。
「私はルヴィス。エレ、よろしくね」
「はい! よろしくです!」
「そういえばさっき、それは大丈夫って言ってたけど、それはどういうことなの?」
エレはルヴィスの前にプラッチナムパスをかざした。
「これがあれば切符は必要ないのです!」
「これは?」
エレは、僕たちにしてくれたように、ルヴィスにもプラッチナムパスの事、自分がワムドワルドの国家特任研究員である説明をした。
「へぇ、エレって凄いのね」
「エヘヘ。なので、みんなメルタブルに乗れるです! 行きましょう!」
僕たちはエレの案内のもと、メルタブル乗り場へ向かった。
「切符を拝見……これはエレ様! どうぞご乗車下さい!」
暇そうに、あくびをしながらメルタブルの乗車口に立っていたメルタブルの職員と思われる青年はエレを見るやいなやビシッと敬礼をした。
「お勤め、ご苦労様です!」
青年はやはりメルタブルの職員だったようで、エレの労いの言葉に敬礼で返した。
エレがメルタブルに乗り込み、僕たちがその後に続こうとした時、
「切符を拝見いたします。ご提示願います」
職員の青年が僕たちを止めた。すると先に乗り込んでいたエレが慌てて僕たちに駆け寄ると青年に言う。
「この方々は私の知り合いです! ですから私とプラッチナムパスに免じて全員乗車するです!」
「これは失礼いたしました! エレ様のお知り合いでしたら、切符が無くてもまったく問題ございません! どうぞ皆様、ご乗車下さい!」
止められた時はどうなるかと動揺してしまったけれど、エレのおかげでなんとか乗車する事ができてホッとした。
車内の席はボックスシートになっており、1シートに2人、対面で4人となる席には当然、全員は座れないため、僕たちは2組に分かれることにした。一方は僕とルヴィスとクラニとエレが。通路を挟んだ反対側にはアルスとジェナとムイが席に着いた。
僕たちが席に着いたことを確認した職員の青年は乗車口のドアを閉めると、運転手に合図を送った。するとメルタブルはヴォフォン! と一回、動物の鳴き声のような低音を轟かせ、ゆっくりと動き始めた。




