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第97話 再びの子供騙し

「皆さん、すみません。まだ切符が買えていません」


 クラニは戻ってくるなり、僕たちに深々と頭を下げた。


「クラニは何も悪くねぇよ。悪ぃとしたら俺だ。切符買う前に無理矢理連れて帰ってきちまったんだからな」

「そんな事ありません! アルス様は何も悪くなんてありません!」


 クラニは事の次第を僕たちに説明してくれた。


「なら、どっちも悪くなんてないじゃない。むしろ最初から悪いなんてことなかったんじゃない?」


 ルヴィスの言う通りだ。初めから誰も悪くなんてない。悪いのはあくまでクラニに絡んだ3人のドワーフ族の男たちだ。


「何にしてもよ。メルタブルに乗るには切符ってもんが必要なんだろ? そんなら、今度は俺らが行ってくるぜ。これ以上レディたちを危険な目に合わせるわけにはいかねぇからよ。なぁアオイ」

「え⁉︎ あ、うん。そうだね。僕らで行ってくるから皆んなは、ここに居て」


 大丈夫? と言わんばかりに不安そうな顔で僕を見つめるルヴィスたち。その視線を追ったアルスが言う。


「なぁ、ちょっといいか? なんかよ。誰も俺を心配してねぇように見えんだけどよ」


 アルスの言葉にハッとした表情を見せるクラニ。


「き、気のせいですよ。アルス様のことも当然心配しておりますよ」

「そうか?」

「そうですよ。ねぇ? 皆さん」


 動揺を隠せないでいるクラニはルヴィスやジェナ、ムイに同意を求める視線を送った。


 ジェナとムイはすかさず、うんうんと首を縦に振り同意を示したが、ルヴィスだけは反応が違った。


「私はアオイのことしか心配してないわよ」


 サラッといつものように、冷めた言葉をアルスに浴びせるルヴィス。当然アルスはその扱いに体をプルプルと小刻みに震わせながら喜びに打ちひしがれた。


「ルヴィスちゃんは、相変わらず俺に冷たいねぇ」

「何言ってるのよ。私が心配しないのはアルス、あんたはアオイより十分に強いからよ。わかってる?」


 グサッとキター。

 そりゃね。わかってますよ。ちゃんと自分が弱いことは自覚しています。いやしているつもりです。

 けどね、ルヴィスの口から、それも直接、アルスの方が僕より十分に強いだなんて言われたら流石に傷つくわー。

 なんてことを思っていても事実なだけに僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「おお! ルヴィスちゃん! それは俺のことを認めてくれたってことでいいんだよな? んじゃ、今度2人でお茶でもしようぜ!」


 いやいやアルス、それはないない……ない、よね?

 一抹の不安を抱いてしまった僕はチラッとルヴィスの顔を覗いた。


 するとルヴィスは、はぁっと深くため息をつきアルスに向かって言う。


「あんたね。そういうことじゃないわよ」


 だよね! 安心したと同時に、ルヴィスに対して少しでも不安を抱いてしまったことを、僕は胸の内で反省した。


「ハハ。わかってるって。冗談だよ。冗談。ま、そのうち振り向かせてやんけどな。そんじゃアオイ、行こうぜ!」


 アルスは僕の背中を平手で叩くと切符売り場に向かって歩き始めた。


「2人とも、気をつけてよね」

「おうよ!」

「うん。気をつけるよ」


 僕はアルスを追いかけるとわざと横に並び歩いた。

 それは、アルスの後ろを歩くわけにはいかないという僕なりの精一杯の意地だった。


 切符売り場に近づくとアルスは一旦その足を止め柱の影に隠れた。


「チッ。アイツら、まだウロウロしてやがるぜ」

「どうする?」

「どうするって言われてもなぁ。正直よ、アイツらをぶっ倒しちまうのは簡単な話しだ。けどな、騒ぎになっちまうのはいただけねぇ。ここはなんだかんだいっても軍港だかんな」


 たしかにアルスの言うとおりだ。アルスの剣技をもってすればいくら体格差があるとはいえアイツらを捻ることなど容易いこと。しかし、ここで騒ぎを起こしては、メルタブルに乗ることはおろか、下手したら軍が動きかねない。


「なら、アイツらが居なくなるのを待つしかないかな」

「だな。もうちっと待ってりゃ、居なくなんだろ」


 僕たちは柱に隠れ、あのドワーフ3人組が居なくなるのを待った。しかし、奴らがその場を離れることはなく、時間だけが過ぎて行く。

 と僕たちの前を、1人の少女が本を読みながら通り過ぎていった。待つこと以外にやる事のない僕たちは、自然とその少女を目で追った。するとあろうことかその少女はあの3人組に向かって一直線に進んで行くではないか。


「アルス、あの娘、ヤバくない?」

「ヤバいな。あんなに下向いてたんじゃ、きっとアイツらに気づかねぇままぶつかっちまうぞ。そんな事になったら大変だ」


 そうこうしているうちにも彼女は3人組にまったく気づく事なくどんどんその距離を縮めていく。


「くそ! もう見てらんねぇ! 行くぞ! アオイ!」


 そう言うとアルスは柱の影から勢いよく飛び出し少女の元へかけていった。僕もすぐにアルスの後を追った。しかし、いま一歩間に合わなかった。


 本に夢中になっていた少女は、見事に3人組の1人にぶつかり、その勢いで床に転げてしまった。


「アイタタ。ご、ごめんなさい」

「痛えーー! 何しやがんだこのやろう!」


 たいして痛くもなかったはずなのに大袈裟に大声を上げる男。するとすかさずもう1人が畳み掛ける。


「嬢ちゃん、やってくれたな。こりゃそれなりに償ってもらわねぇとだな」


 すると3人目の男がニタニタと下卑な笑みを浮かべ言う。


「そういうわけだからよ。俺たちといいとこ、行こうぜ」


 少女は3人に囲まれ、恐怖で声も出なくなり、その場にへたり込んでしまった。


「おい! てめぇら。いい加減にしろ!」

「あん? 誰かと思ったら、さっきの兄ちゃんじゃねぇか。へへ。探す手間が省けたぜ。さてと、しっかり落とし前つけてもらおうか!」


 するとアルスはまた、先程のように天井を指差し大声で叫ぶ。


「何だあれ⁉︎」

「……バカかお前。そんな子供騙しに何度も引っかかるわけねぇだろが!」

「いや、間違えた! あそこだ! あそこに全裸の女がこっちに向かって手振ってやがる!」

「おいおい兄ちゃん。頭おかしくなっちまったか? さすがにそんなことあるわけねぇだろ!」

「だからだよ! そんな事ありえねぇってことが起きてっから驚いてんだよ! うっわー。すっげースタイル! 騙されたと思って見てみろって」


 ドワーフ族の3人組は、そんな事ありえないだろうという疑心の表情を見せながらも後ろを振り返った。


「……やっぱりそんな女いねぇじゃねぇか! ってアイツもいねぇ。クソ野郎! なんて逃げ足が速ぇやつだ!」


 3人組が地団駄を踏んだ時には既にアルスも僕も、そして少女の姿もそこにはなかった。


「ククク、アッハハハ! まんまと騙されやがったな! あいつら本当に単純だぜ」

「上手くいって良かったよ。けど、切符、買えなかったね」

「あ……」

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