第96話 メルタブル
「ここが、馬車乗り場?」
馬車乗り場に到着した僕たちの目の前には、これまでの野ざらしな馬車乗り場とは異なる、まるで鉄道の駅かのような立派な建物が建っていた。
「はい。ここが馬車乗り場です。正確には鉄牛乗り場ですが」
「メルタブル?」
当然、メルタブルという言葉を初めて聞く僕は首を傾げた。
「ご説明しますね」
ルヴィスもそうだがクラニも僕が知らないことにはもう慣れた様子で、サラッとメルタブルについて説明を始めた。
メルタブルは魔法を使う事ができないドワーフ族が生み出した世紀の大発明、魔力変換器、通称マジコンによって動く乗り物の1つで、荒々しい牛の魔獣を型だった金属製の動力車が動力源を持たない箱型の客車を引く乗り物であるという。
(それって、もしかして……きっと鉄道みたいな乗り物だよね!)
僕は胸の高鳴りを抑えきれず、珍しく先頭を切って駅らしき建物に駆け込んだ。
「うおぉぉ! すっげー!」
そこに停車するメルタブルを見た僕は、思わず声を上げた。
頭からは2本の巨大な曲がった角が突き出し、真っ黒な金属板が規則正しく接合されたボディは、艶かしく黒光りし、今にも突進してきそうな荒々しい形相とフォルムをより一層際立たせていた。
その姿に僕の頭にはカッコイイの一言しか思い浮かばなかった。
「アオイがそこまで興奮するなんて珍しいわね」
ルヴィスが少し驚いた顔で言った。
僕は鉄道マニアというわけではない。乗り物、というよりは機械もの全般が好きなのだ。ましてや魔法を動力源に動く異世界の乗り物となれば興奮しないわけがない。
「はぁ〜これはけったいなもんやな」
ムイはメルタブルを見上げ言った。
「こんな物、聞いたことも見たこともありませんわ」
ムイの横に並び同じ様にそれを見上げたジェナが言った。
「これに乗るにはどうしたら良いんですか?」
「メルタブルに乗るには切符を買わなければなりません」
(あ、やっぱりメルタブルって鉄道に似た乗り物なんだ)
そう思った僕はひとりこっそりとニヤついた。
「それでは私が切符を買って参りますので皆さんはここで待っていて下さい」
クラニは僕たちにそう告げると足速に切符売り場へ向かった。
クラニが切符売り場に向かって2、3分経ったか経たないかくらいで、キャー! という叫び声が構内に響き渡った。
「今のって、クラニじゃない⁉︎」
「おう。間違いねぇ。今のはクラニの声だ! 俺は先に行くぜ!」
僕たちが返事を返す間もなくアルスはクラニの叫び声が聞こえた切符売り場の方へと走っていった。
ーー時は少し前に戻るーー
「へへ。姉ちゃん、美人さんだねぇ」
「ちっさいわりに、スタイルもいいしな」
「なぁなぁ、俺たちとよ、いいとこ行って楽しいことしようぜ」
クラニは切符売り場に向かう途中で3人のドワーフ族の男に絡まれてしまっていた。
「やめて下さい。私はアナタ方と遊ぶつもりはありません。それ以上近づくと痛い目に合いますよ!」
「ヘッヘ。威勢のいい姉ちゃんだ。けどよ。俺たちはドワーフ族なんだぜ? 姉ちゃんがどんだけ強ぇか分からねぇけど、俺たちにはかなわねぇと思うぜ?」
そう言いながらクラニに詰め寄る3人。
「近づかないで下さい! 本当に痛い目に合いますよ! キャー!」
「お前ら、それくらいにしとけ!」
「アルス様!」
グッドタイミング! 変態とはいえ、さすがは王子様だ。こういう生まれ持っての才というべきところは同じ男として本当に羨ましく思う。
「あぁ? なんだお前ぇ」
「俺たち、これからいいとこなんだからよ。邪魔すんなよ」
「誰? この娘の知り合い?」
3人のドワーフがアルスに詰め寄る。
「おう。俺はコイツの連れだ。文句あんなら本当に痛い目に合わせてやんぜ!」
「笑わせんな。人間族ごときが俺らドワーフ族に勝てるとでも思ってんのか?」
アルスはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、
「あ! アレはなんだ⁉︎」
「あん?」
アルスが勢いよく天井を指さすと、3人の男たちは一斉にその指の先を見上げた。
「ああん? 何だ? ん? 何もねぇじゃねぇか! っておい! アイツどこ行きやがった⁉︎ って姉ちゃんもいねぇ」
3人の男たちが頭を下げた時にはもう、そこにアルスとクラニの姿はなかった。
「はぁ。はぁ。はぁ」
猛ダッシュであの場を走り去ったアルスとクラニ。2人は太い柱の影に身を潜め体を休めていた。
「ふぅ。クラニ、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。アルス様」
「礼なんていらねぇよ。にしてもよ、単純なヤツらでよかったぜ」
アルスはハハっと笑い、深呼吸をした。
「そんじゃ、皆んなんとこ、戻ろうぜ」
「でもアルス様、切符がまだ買えていません」
「そりゃそうだけどよ。あそこに戻っちまったらまたアイツらに絡まれるかもしれねぇぜ?」
たしかにアルスのいう通りだ。なにせ、切符売り場にはまだ、あの3人の男たちがキョロキョロと辺りを見回しながら、うろついていたからだ。
「ひとまず皆んなんとこ戻ってよ、皆んなで何かいい方法、考えようぜ」
「はい! 皆さんと考えた方がきっと何か良い案がでますね!」
「おうよ!」
アルスとクラニは控えめにハイタッチをすると僕たちのところへ戻ってきた。




