第95話 クエンダーナ
海から空に向かって垂直にそびえ立つ真っ白な城壁。
壁にはいくつもの四角い穴が空いており、よく見ればその穴の奥には大砲らしきものが見えた。
そんな物々しい城壁に囲まれたそこは、港街というよりも要塞と呼んだ方が例えが良い。
「なんか、パムラムとはずいぶんと雰囲気の違う港街だな」
そんな僕の呟きを拾ったクラニが、クエンダーナはワムドワルドの軍港であると教えてくれた。
「軍港ですか。なるほど。それはたしかにパムラムとは毛色が違うわけですね」
「はい。でも軍の施設と街は区分されていますので街の中に入ればパムラムとそう変わらないと思いますよ」
「そうなんですね。それは良かった」
軍なんていうからてっきり厳戒態勢ガッチガチの街を思い浮かべ、ビクビクしてしまったけれどパムラムとさほど変わらないという話しを聞いて安心することができた。
船は速度を落としゆっくりと城壁の隙間を抜けると、クエンダーナへ入港する。船が城壁の内側に入ると、その隙間は城壁の両側からスライドしてきた重々しい金属製の巨大な扉で閉じられた。
「あれ? 軍港なんていうからてっきり軍艦が何艘も停泊していると思ったけど……ないね」
「アオイさん、それは街が軍の施設と区別されているように軍港と一般の港もまた別れているのですよ」
「あー。なるほど。それはそうですよね」
船着場に到着した僕たちは、船を降りると、出入口であるトンネルをくぐりクエンダーナの街へ抜けた。
「へぇ〜ここがクエンダーナ。この賑やかさはパムラムというよりはルッカに近い感じだね」
「そうですね。ルッカの大通りに似ていると思います」
クラニはニッコリと微笑み言った。
「それにしてもクエンダーナって大きい人が多いなぁ」
街行く人々は、老若男女問わず背が高く、体格もがっしりとした者が多く、僕たちの中で1番背の高いアルスでさえも小さく見えるほどだった。
「ここクエンダーナは、ドワーフ族が多く住む街ですからね」
「ドワーフ族? あの大きな人たちが?」
「はい。ドワーフ族ですよ。あの、もしかしてアオイさん、ドワーフ族をご存知ないのですか?」
「え? あーいや、知らないというわけではないけど……やっぱり知らないかな」
結果、ドワーフ族を知らないと答えた僕だったが、正しくはこの世界のドワーフ族を知らない、ということであってドワーフ族そのものを知らないというわけではなかった。
僕の知るドワーフ族といえば、体格は真逆で小柄、全体的に丸いというか、コロッとした感じの体つきに髭、バイキングの兜のようなツノ付きの兜を被り、手にはハンマーをもっている。そんなイメージだった。
しかし、こちらの世界のドワーフ族はどうもそうではないようだ。
クラニの話しによれば、こちらの世界のドワーフ族は体が大きく力強い、それでいて賢くその大柄な体からは考えられないほど手先が器用な種族なのだという。
そしてクエンダーナは、ドワーフ族が治る国、ワムドワルドの直轄領であるため住民の大半がドワーフ族なのだと説明してくれた。
「ねぇアオイ。さっきから、何かいい匂いがしない?」
「うん。何か香ばしい、いい匂いがしてるね」
「でしょ? この匂い嗅いでたら、ちょっと小腹が空いてきちゃった。この匂いの正体、探しに行かない?」
僕たちは匂いに誘われるまま足を運ぶと一軒の屋台の前でその足を止めた。
「いらっしゃい! おや、お兄ちゃんたち、ここら辺の人じゃないね。観光かい? だったら、クエンダーナ名物、六角もちを食べなきゃ損だよ」
店主であろう中年女性は半ば強制的に僕たちの手に六角もちなるものを持たせた。
それは棒に刺した六角形の餅を甘辛い醤油の様なタレで炭火焼きにした焼き餅のような食べ物だった。
「はいはい。1本30ルク、全部で6本だから180ルクになります」
「ですってアルス」
「へぇへぇ。ルヴィスちゃんの言う通り俺が払いますよ」
悪態をついているように見せかけても喜んでいる事が滲み出てしまうアルス。
僕のルヴィスに……かぁ〜自分で言っておきながら照れるね。
気を取り直して。僕のルヴィスに色目を使うアルスにいい気はしないが、いつもルヴィスに良い様に利用されてしまう姿にはちょっと同情する。とは言え、まぁ本人が喜んでいるのだから良しとする他ない。
それはさておき、目指すはワムドワルド。まずはワムドワルドへの行き方を見つけなければならない。
「ワムドワルドへはどうやって行ったらいいのかな?」
「それならやはり馬車ですね。ここはワムドワルド直轄領ですからワムドワルドへの直行便があったはずです。馬車乗り場はたしか、こっちです」
そう言うとクラニは僕たちを先導し馬車乗り場へ向かって歩き始めた。
「クラニさんはここにも来た事があるんですか?」
「はい。何度かファルマン様と買い付けに来た事があります」
「だから道をよく知ってるんですね」
「全部ではありませんが主要な道は覚えております」
「それは凄いですね」
「いえいえ。凄い事なんて何もありませんよ。職業柄ですから。では参りましょう」
僕たちは六角もちを口に頬張りながらクラニの後について馬車乗り場へ向かった。




