第94話 大陸へ
「ごちそうさまでした!」
食事を終えた僕たちは港へ向かった。
港に着くとそこには既に数隻の船が停泊しておりそれぞれの船の船員達が忙しそうに荷物を船内へ運び込む姿が見えた。
「うわー数日前はまったく活気がなかった港が凄く賑やかになってる! これは大陸行きの定期便再開も期待できそうだ」
「アオイ、私あの人に聞いてくる!」
ルヴィスはそう言うと桟橋に立つ1人の中年男性の元へ駆けていった。
なんか、以前にも見たことあるなこの光景。
そうだよ。あの時はあそこにウォッカさんが居たんだよな。もしかしたら今あそこに立っている人、ウォッカさんだったりして。
そう思った僕は目を凝らしその中年男性を見たがウォッカではなかった。
(ウォッカさん、ぜんぜん姿を見ないけど、どうしたんだろ? まぁでも、ウォッカさんはあの大ホテルのオーナーだもんね。何かと忙しいんだろうな)
「アオイ〜! 大陸行きの定期便、向こうに見えるあの船ですって!」
「良かった〜。定期便ちゃんと再開したんだね〜」
ルヴィスは小走りで戻ってくるなり僕の腕を引き大陸行きの船が停泊する桟橋へ向かった。
「けっこう大きいわね」
「そうだね」
大陸行きの定期便はいかにも貿易船といった造りの帆船だった。
「わっ! マジか! 英雄さんたちじゃないですか! 握手してもらってもいいですか?」
そう言って駆け寄ってきたのはこの船の船員らしき1人の青年だった。
「え、ええ。どうぞ」
「くぁ〜感動! ありがとうございます!」
僕たち全員と握手をして回った青年は小躍りをしながら持ち場へ戻っていった。するとその様子を見ていた周りの人たちがどんどん集まりだし僕たちはいつの間にか大勢の人々に囲まれ握手やらサインやらを求められていた。
「なんか、有名人になったみたいだね」
「ほんとね」
僕とルヴィスが少々浮かれる後ろでクラニが冷静な口調で言う。
「アオイさん、ルヴィスさん、あまり浮き足立ってはいけませんよ。有名になった事は良い事ですが、逆に目立つことで変な輩が集まりやすくなってしまったとも言えます。ですからこういう時こそ気を引き締めなければならないと私は思います。いつ何時誰に足をすくわれるかわかりませんので」
「たしかにクラニの言う通りだわ。気をつけないとね」
「本当だね。ってあの2人はすでに舞い上がってるみたいだけど……」
まだまだ大勢の人だかりに慣れていないジェナは僕とルヴィスの後ろに身を潜めているがアルスとムイは大いにテンションを上げ意気揚々と握手会を始めていた。
「はいはい。皆さんここに1列で並んでや。ほら、そこのおっちゃん! 横入りはダメやで。ズルしたらあかん! はいはい、そこ列はみ出んといてな」
ムイは手際よく人だかりを1列に並べるとアルスの元へ誘導し始めた。
「どうもな。ありがとな。お! 姉ちゃん美人だね〜」
「あ、握手、ありがとうございます!」
アルスと握手をした若い女性は「キャー! 英雄と握手しちゃったー!」などと叫びながら嬉しそうに走り去っていった。その後も次々と握手をこなすアルスだったが僕はふとある事に気がついた。
(あんなに嬉しそうにしかも調子に乗って握手してるけど、アルスはそもそもクラゲ倒してなくない?)
まぁとは言えアルスが単身バジリスクの穴蔵に乗り込み石になってくれたおかげでムイちゃんに出会えバジリスクを、最終的にはあのクラーゲンジェリーフィッシュを攻略できたのだからあれくらいのことは大目に見てもいいのかもしれない。
「クエンダーナ行き、まもなく出港の時間となります! お乗りの方はお急ぎ乗船下さい!」
船の前に立つ船員がメガホンのような筒を手にそう叫んだ。
「皆さん急ぎましょう。クエンダーナ行きが出るそうです」
クラニは僕たちにそう告げた後、アルスとムイのところまで駆け寄り船が出る事を伝えると2人と一緒に戻ってきた。
「悪ぃ悪ぃ。さ、船に乗ろうぜ」
アルスは僕の肩をぽんぽんと軽く叩くと1番に船へと乗り込んだ。
「では私たちも乗り込みましょう」
僕たちはクラニに続き船に乗り込んだ。
「クエンダーナ行き! 出港!」
クエンダーナ。それは大陸の玄関口と呼ばれる港街。ワムドワルドに向かうにはまずこのクエンダーナを経由しなければならないのだ。
僕たちが乗り込むとすぐにイカリが上がり帆が張られ船はパムラムの港をゆっくりと離れていった。
クラゲのいなくなった海は実に穏やかで天候にも恵まれた甲斐あって航海は快適そのものだった。しばらくして船が沖に到着すると僕たちは見覚えのある建造物に出くわした。そうセントエレナ号だ。
あらためて見るセントエレナ号にはあの美しかった面影はもはやなく船体のあちこちにクラゲの爪痕が残りボロボロに崩れていた。そして船体の後ろ3分の1は既に海中に沈んでいた。
「このままだとあと数時間でセントエレナ号は海に沈んでしまいますね」
クラニは口元を手で押さえ声を押し殺しながら言った。
「名残惜しいけど、仕方がないわね」
そう言うとルヴィスはセントエレナ号に向かって頭を軽く下げ目をつむった。
「セントエレナ号。私たちを守ってくれて本当にありがとう」
僕たちはルヴィスに続き頭を下げ目をつむるとしばらくの間セントエレナ号に黙祷を捧げた。そして目を開けるとそこにはまたしても見覚えのある光景が目に飛び込んできた。
「見て見てクラニ! イルカーダの群れよ!」
「本当ですねルヴィスさん。あ〜可愛い〜」
それはクラゲと対峙する前にセントエレナ号と並走してくれたあのイルカーダの群れだった。
あの時はクラゲをいち早く察知し姿を消してしまったイルカーダたちだったが今回はかなり長い時間船との並走を続けてくれた。そんなイルカーダたちが姿を消した頃だった。船の向かう先に薄っすらと陸が見えてきた。
「お! 陸が見えてきたな!」
額に日差しをつくるような形で手を当てたアルスが言った。
「あれが大陸……いったいどんな事が待っているんだろう」
僕はまだ見ぬ新天地での冒険を想像しながら刻一刻と近づく大陸を眺めていた。




