第93話 ミスマッチ?
第3章スタート!
舞台は大陸へと移り冒険の旅はさらに深層へ突入していきます。乞うご期待!
まずは大陸へ向けての出発直前のお話しから。
(ん、んんー。ん? この匂い、どっかで)
僕は部屋に漂う覚えのある匂いに鼻をくすぐられ目を覚ました。
(リルエマさんが作ってくれたミーソスープと同じような匂いがする)
匂いに誘われ布団から起き上がると台所に立つ2人の人影が目に入った。ムイとクラニだ。
「おはようございます」
「ありゃ。起こしてもうたか。ごめんなアオイ兄ちゃん。うるさかったやろ?」
「おはようございます。アオイさん。申し訳ございません。起こしてしまいましたね」
ムイもクラニも眉を下げ上目遣いで僕の顔を覗き込んだ。
ヤバ! 2人ともめちゃくちゃ可愛い! 朝から得をした気分になった僕は思わずニヤけてしまった。
「ぜ、ぜんぜんうるさくなんてなかったよ。目が覚めたのはこのいい匂いに誘われたからだよ。これ、ミーソスープだよね?」
「お! さすがアオイ兄ちゃん、正解や。クラニ姉ちゃんに教えてもろて作ってるとこや」
「以前リルエマさんにミーソをご馳走になった時、少し分けて頂いていたんです。ミーソは保存食になるとお聞きしたものですから」
なるほど。さすがはクラニさん。抜け目ない。
「このミーソスープいうもんはリルエマ姉ちゃんっちゃう料理上手な女性の得意料理なんやてな。ウチもそのうち会うてみたいな」
「裁ち鋏と針が手に入れば一度リルエマさんのところに戻るからその時には必ず会えるよ」
「おお! それは楽しみやなぁ」
「ムイちゃん、あんまりよそ見してるとミーソが吹きこぼれちゃいますよ」
「ありゃ。堪忍。ほなアオイ兄ちゃん出来るまで向こうで待っててや」
僕は台所から部屋に移ると座布団に座り朝食ができるのを待った。すると僕と同じように匂いに誘われた人物が1人。部屋に入ってきた。
「すっげーいい匂いだな」
「おはようアルス」
「おう! アオイ。早ぇな。これ、ミーソの匂いだよな?」
「うん。ムイちゃんがクラニさんに教わって作ってくれてるんだ」
「おお! そついぁ楽しみだな」
そう言うとアルスは僕の向かいに座った。
すると台所からムイとクラニが朝食の乗った盆を抱え部屋に入ってきた。
「お! アルス兄ちゃんおはよ!」
「ムイちゃん、おはよ!」
「アルス様、おはようございます」
「おはよ! クラニ」
ムイとクラニは丸太のテーブルに盆を置くと朝食を並べはじめた。
まずはミーソスープから。次は焼き魚か。はたまた卵焼きか目玉焼きか。ゆで卵の可能性も捨てきれない。いやいやソーセージやベーコンかもしれないぞ。なんて次に置かれるおかずが何か想像を膨らませていた僕は目の前に置かれたそれに目が点になった。
「……あの、クラニさん、ムイちゃん、これって……パンケーキですよね?」
ミーソスープの匂いとは別に甘い香りがしていたことに何となく気づいてはいたがまさか本当にパンケーキが出てくるとは思ってもみなかった。
「はい。リルエマさんのものとは比べ物になりませんが一応、エントランスロックパンケーキのつもりです」
「これもリルエマ姉ちゃんの得意なもんなんやてな。ほんまリルエマ姉ちゃんは凄いお人やわ」
ーーその頃リルエマの家ではーー
くしゅん!
「リルエマ殿! 大丈夫でありますか? 風邪でもひかれたのではないですか? 無理はなりませんぞ。さ、お部屋でおやすみ下さい」
「ロックさぁん、大丈夫だよぉ。風邪なんてぇひいてないよぉ。きっとぉ誰かがぁウワサぁしたんだよぉ」
「ウワサですか。もしかするとアオイ殿たちかもしれませんな」
「そうねぇ。案外ぃ。そうかもぉ。うふふ」
「ワッハハ。きっとそうでしょうな。リルエマ殿が大丈夫であるなら私は外の見回りに行って参ります。お昼には戻りますのでご安心ください」
「はぁ〜い。いってらっしゃ〜い」
ーー時はムイの家に戻るーー
朝食がテーブルに並び終える頃にはルヴィスとジェナも起床し全員がテーブルを囲んでいた。
「ほな頂こか。いただきます!」
「いっただきまーす!」
ムイに続き声を重ねた僕たちは朝食を食べはじめた。
ってなんでみんなそんな違和感なく食べられるの?
僕は僕以外の全員が何の違和感もなくミーソスープとパンケーキを口にする姿に驚きを隠せなかった。
僕のいた世界でいうならホットケーキと味噌汁を一緒に食べているのと同じだ。人にはそれぞれ好みがあるわけでパンケーキと味噌汁の組み合わせが絶対悪いとは言わない。けれども少なくとも僕はこれまでこの組み合わせを体験した事はなかった。
「アオイ兄ちゃん、どないしたん? 何で食べへんの? 食欲あらへんのか?」
「え⁉︎ アオイ様! 体調がすぐれないのですか⁉︎ それなら私ジェナが全身全霊看病いたしますわ」
「ちょっとジェナ。看病なら私がするから」
「いいえ。私です。ルヴィスさんは引っ込んでいて下さい」
「あ、あの私はどちらにしてもお手伝いさせて頂きます」
ルヴィスとジェナは互いに一歩も譲らない姿勢。それに対しどちらにでもつける位置にいるクラニは頭の良い、言い方をかえればちゃっかりとした様はなんとも彼女らしかった。
「僕は別に体調悪くなんてないよ。ほら、この通り! ちょっと早起きだったからぼぉーっとしてしまっただけだから。いっただきまーす!」
このままではルヴィスとジェナの言い争いがヒートアップしてしまいそうだったので慌てて僕はパンケーキを頬張った。
「うん! 美味しい! リルエマさんにも負けないくらい美味しいです!」
「ああ良かった。お口に合いましたようで安心しました」
「へへ。ちっとがんばった甲斐あったな。ほれアオイ兄ちゃん、ミーソスープもいったってや」
(ムイちゃんの鬼!)
僕は心の内でそう呟きながら意を決してパンケーキの入った口にミーソスープを流し込んだ。
(ん? 思ったほど合わなくはない、か? いやでもやっぱりパンケーキと味噌汁は別の方が僕はいいな)
そんな事を思いながら僕はパンケーキと味噌汁をゴクリと飲み込んだ。




