第91話 アルス、復活!
トッドの店を後にした僕たちはフォルマンに別れを告げると早々にアルスの待つ岬の洞窟へ向かった。
洞窟に着いた頃には日は傾き辺りも洞窟も薄暗くなっていた。
「うぅ。石になっているとはいえやっぱりちょっと怖いですね。まさか動き出したりなんかしませんよね?」
石化したバジリスクを見たジェナが肩をすぼめ言った。きっとジェナは自分が石にされてしまったことを思い出してしまったのだろう。
「ハハ。ジェナ姉ちゃん、大丈夫やで」
「そ、それなら良いんですが……」
ジェナはムイの言葉を完全に信じているわけではなさそうだったがひとまず気持ちは落ち着いたようだった。
「ア〜ルス! お待たせ!」
ルヴィスは石像となったアルスの頭をポンポンっと軽く叩いた。
「それじゃクラニ、お願いね」
「はい。任せて下さい。アルス様、大変お待たせいたしました」
クラニは薬の入った小瓶のフタを抜くと液体状の薬をアルスの頭からかけた。するとみるみるうちに石化が解け完全に元の姿を取り戻したアルスは水中から上がってきた瞬間のように勢いよく息を吐き出し背伸びをした。
「ぷはぁー! んんー! やっと動けるぜ! みんなあんがとな! けどよ、ちぃとばかし遅かったんじゃねぇか?」
「そんな事言って。なんだかんだ放置プレイ楽しんでたんじゃないの?」
「そ、そんなこたぁねぇよ」
否定しながらもアルスはやはりどことなく嬉しそうな顔をしていた。
「お! 嬢ちゃんだな。バジリスクを石に変えてくれたんは」
「お! アルス兄ちゃん、石になっとってもちゃんと見えてたんやな」
「おうよ。不思議なもんでよ。石になっても動けねぇだけで目は見えるし耳も聞こえんだよ。だからよ、みんなの活躍はこの目にしっかりと焼きつけてあるぜ! それはそうとそのアルス兄ちゃんって……なんか良いな。罵倒、もとい。イジられるのはもちろんだが、兄ちゃんって呼ばれるのもなんか妙にくすぐったくて悪い気がしねぇ。ところで嬢ちゃん、名前は? おっといけねぇ。レディに名前を聞く前にはまず自分から名乗らねぇとだったな。またルヴィスちゃんにドヤされちまうところだったぜ」
そう言うとアルスはルヴィスをチラ見した。
「そうね。アルスにしては偉いじゃない。ちゃんと覚えてるなんて」
「くぅ〜。相変わらずゾクゾクするねぇ。アオイなんざさっさと捨てて毎日俺のこと四六時中罵倒、もといイジってくれねぇかな?」
「イヤよ」
「どストレートな全否定!」
ため息をつくルヴィスとは対照的にアルスは悶えるように体を震わせていた。
「アルス兄ちゃん、お楽しみのとこ悪いんやけど、ウチはアルス兄ちゃんの名前知っとるさかい名乗らんでええで。ちなみにウチの名前はムイ・テンセラス。みんなみたいにムイちゃんって呼んでくれたらええ」
なぜムイがアルスの名前を知っているのか。理由は単純だ。それはアルスがここエルトナイン王国の王子であるから。顔を知らない者はいても自国の王子の名前を知らない者は少ない。ムイもその1人だ。
「ムイちゃんか! 嬢ちゃんにピッタリの可愛い名前だ」
「ウチの名前、可愛いと言うてくれはるか。アルス兄ちゃんありがとな」
「礼なんていらねぇよ。俺は正直に感じた事を言ったまでだ。名前も可愛いがムイちゃん自身はもっと可愛いぜ」
「こんなイタイケな少女口説いてどないするつもりやねん! まったくアルス兄ちゃんは口がウマいな。モテるやろ?」
その質問に間髪入れず答えたのはルヴィスとクラニ、そしてジェナの3人だった。
「モテるわけないでしょ。このド変態王子が」
「普通にしていれば、なんですけど。ルヴィスさんの言う通り本性が表に出てしまうとなんとも、ですね」
「私は皆様が言うほど嫌煙しませんが好みは分かれるところでしょうね」
3人に好き放題言われたアルスは両手を広げ手のひらを天井に向け軽く上げるとフッと小さく笑った。
「おいおい、これはご褒美、いやちぃとばかし言い過ぎじゃねぇか? たしかに俺は女にイジられるとつい嬉しくなっちまうがそれを含めてモテるかモテねぇかって話しならハッキリ言って、モテるぜ!」
だろうね。だってイケメンだしちょっとチャラくてもそのノリが良いって女性はいるし、変態な1面はあるけど意外と律儀だし男気もある。それになにより本物の王子様だもんね。放っておいても言い寄ってくる人がいるのは当然だ。と僕は思ったのだが女性陣はその発言をはいはいと言わんばかりにサラッと流した。
「ところでよ、俺はどんくらい石になってたんだ? 洞窟ん中、1日中薄暗れぇし腹も空かねぇし眠くもならねぇからよ。どんくらい時間が経ったかわかんなくなっちまってたんだ」
「んーそうね。4、5日ってとこかしら」
「4、5日⁉︎ もうそんなに経ってんのか。石になってっとほんと時間の感覚がわからなくなっちまうもんだな。んで? その間、何か面白ぇこととか無かったか?」
「面白いどころか大変だったんだよ」
「大変? 何があったんだ?」
僕はクラーゲンジェリーフィッシュとのあの壮絶な戦いの一部始終をアルスに説明した。
「……マジか。信じらんねぇ。けど殺っちまったんだよな? あの化け物、クラーゲンジェリーフィッシュを」
僕たちはほぼ同時にうなづくと全員ドヤ顔で利き腕の親指をアルスに向かってグッと立てた。
「カァー。そんな面白ぇことが起きてたなんてよぉ! 悔しいぜ! 俺も参加したかったぜクラーゲンジェリーフィッシュ討伐によ! けどよ。お前ら本当にすげーな。世界中の誰しもが端っからできねぇと思ってたあの化け物の討伐を誰1人欠けることなくやって退けたんだもんな。お疲れさん」
洞窟を出るとすっかり日が暮れ空には満天の星空が広がっていた。
「すっかり暗くなっちゃったわね」
「そうだね。ひとまずパムラムに戻って宿探そうか」
「それならウチの家に泊まったらええやん。今から宿探すよりずっと早いで。ここからなら街よりウチの家ほうが近いしな」
「いいの? ムイちゃん」
「当たり前やないの。ほな行こか。あ! ちょっと待っててや。忘れもんした」
そう言うとムイは洞窟の中へと走って行きしばらくすると戻ってきた。それもビーストモードで。
「みんな下がれ! 巨大熊が現れたぞ!」
ムイの姿を見たアルスは驚き叫ぶと剣を抜いた。
「アルス、大丈夫だよ。あれはムイちゃんだから」
「へ? アレがあの可愛らしいムイちゃん?」
「ビーストモードっていって獣化してるだけだから」
「アルス兄ちゃん驚かせてしもたな。堪忍、堪忍」
「なんだ。そういう能力か。ちぃとばかしビビっちまったぜ」
「ムイちゃん、でもなんで今ビーストモードに?」
「へへん。これや」
ムイの背中にはなんと石化したあのバジリスクが乗っていた。
「バ、バジリスク⁉︎ なんでそんなものを⁉︎」
「家に飾るんや。貴重やさかいな。こんな洞窟に放ったらかしはもったいない。ほなあたらめて行こか」
僕たちはムイの好意に甘え彼女の家に泊まらせてもらうことにした。




