第9話 選定の女神 防具編(前編)
「着いたぜ。ここだ」
アルスに案内され到着したそこは西市の武器防具街の中でもひときわ立派で大きく高級感の漂う店だった。
「本当にここなの?」
「ああ。ここで間違いない。さ、中に入ってくれ」
アルスはそう言うと僕たちをエスコートするように店のドアを開けた。
「フォルマン武器防具店へようこそいらっしゃいました」
ローブを脱ぎ店の中に入った僕たちを出迎えたのはとても武器防具屋とは思えない白手袋に燕尾服姿のまるで執事のような格好をしたくるりと巻いたヒゲが印象的な細身の中年男性だった。
「久しぶりだなフォルマン」
後から入ってきたアルスが男に声をかけた。
「これはこれはアルス様ではございませんか。お久しぶりでございます」
「あなた本当に王子様だったのね」
「え!? マジで信じてなかったのかよ。それでよくついて来たもんだな」
「半信半疑ってやつよ。もし変な気を起こしたらその時は即魔法を使うつもりだったから」
「ハハなるほどね」
「お取り込み中申し訳ございません。アルス様本日はどのような御用で?」
「悪ぃ悪ぃ。紹介が遅れた。二人は俺の大切な友だちでルヴィスちゃんとアオイだ。今日は二人の武器と防具を一式揃えてもらいてぇんだ」
「ほう。ご友人の装備品一式でございますね。かしこまりました。ではこちらへ」
僕たち三人は店の奥の部屋、いわゆる貴賓室へ通された。
「そんじゃフォルマン頼んだぜ。俺はここで一眠りしてっから終わったら起こしてくれ」
そう言うとアルスはソファに寝転んだ。するとフォルマンはアルスの横にしゃがみ込み耳元に寄った。
「アルス様、お休み前に一つお聞かせ下さい。あのお二方はどこの国の方々なのですか?」
「ん? あ〜なんて言ったっけかな。まぁここらへんの国じゃねぇのは確かだ。ただ身元は俺が保証するから心配いらねぇよ」
「失礼いたしました。アルス様がそうおっしゃるならこれ以上の詮索は無用ですな」
「ああ。まぁそういうことだからよろしくな」
「かしこまりました。では早速商品を見ていただくといたしましょう」
立ち上がったフォルマンが手を叩くと一人のメイド服姿の女性が部屋に入ってきた。
「申し遅れました。私はここフォルマン武器防具店のオーナー、エドワード・フォルマンでございます。ルヴィス様とアオイ様、お二人方のこの度のご来店心より感謝いたします。これよりは当店の店員兼メイドであるクラニが選定のお手伝いをさせて頂きますのでなんなりとお申し付け下さいませ。さ、クラニよ。ルヴィス様とアオイ様を特別ショールームへ案内して差し上げなさい」
「はい。フォルマン様。ではご案内いたします。どうぞこちらへ」
僕とルヴィスはクラニの後について部屋を出ると地下へと続く螺旋階段を降りた。
「こちらが特別ショールームにございます。どうぞお入り下さいませ」
「うわ〜」
「これは凄いわね」
部屋に入るとそこには美術館のような空間が広がっていた。商品は美術品のように一つ一つショーケースや額に収められており値札の類いは見当たらない。おそらくここへ足を踏み入れる事ができる客に値段を気にする者はいないのだろう。
「ここは防具の階でございます。武器につきましてはさらに下の階となります。順に参りますのでまずは防具をお選び下さい」
選べと言われても数は多いしどれもこれも高級そうなものばかりで思わず目を伏せてしまいそうだ。いくらアルスが王子だからといっても正直気が引けてしまう。そんな僕とは対照的にルヴィスはまるでウインドショッピングを楽しむ女子のように一人で先へ行ってしまった。
「アオイ様、どうかなさいましたか?」
きっと僕が浮かない顔をしていたのだろう。クラニが心配そうに声をかけてきた。
「いや、その、これだけ色々なものがあると何を選んだら良いのか迷ってしまって。オススメがあれば教えて頂けませんか?」
「オススメでございますか……何かご要望はございますか?」
「そうですね。カッコイイのがいいです!」
「カッコイイもの、でございますね……アレが良いかもしれません。どうぞこちらへ」
案内されたショーケースには赤いマントのついた白銀のプレートアーマーが展示されていた。
「白鋼を用いることで高い防御力と王国騎士団にも引けをとらない美しいデザインを両立したこちらの鎧はいかがでしょうか?」
「おぉ〜! カッコイイですね!」
「試着なさいますか?」
「試着できるんですか!? ぜひ! お願いします!」
「かしこました。では簡易ではございますが試着室をご用意いたしますので少々お待ち下さい」
クラニはショーケースの下に備え付けられた引き出しから円形の何かを取り出した。それは金属製の輪に布がついたもので輪を引き上げ四本の支柱で固定するタイプの簡易試着室だった。
クラニは手際良くそれを組み立て終えるとカーテンを開けペコリと頭を下げた。
「どうぞこちらへ」
僕が試着室の中に入ると続けてクラニも中に入ってきた。
「え? クラニさんも一緒に入るんですか?」
「はい。ご試着のお手伝いをさせて頂きますので」
「な、なるほどですね。よろ、よろしくお願いします」
試着を手伝ってくれるだけのことなのだが狭い空間に女性と二人きりというのはやはり緊張する。
「それではお着替えを始めさせていただきます」
そう言うとクラニは何かを呟き両手を動かしはじめた。すると僕の着ていたジャケットが勝手にスルリと脱げ続けてネクタイ、ワイシャツ、ベルト、スラックスと脱げていった。どうやらクラニは魔法で僕の服を脱がしているようだ。
魔法って本当に便利だよなぁ。なんて事を考えているうちに僕はボクサーパンツ一丁になっていた。
「次はこちらをお召しいただきます」
そう言うとクラニは魔法で今度は絹の肌着を着せその上に鎖帷子を重ねた。
「それでは鎧をお持ちいたしますので少々お待ち下さい」
クラニは一度外に出るとあの白銀のプレートアーマーを宙に浮かせながら戻ってきた。
「アオイ様、少々お力添えをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。もちろんです」
「ありがとうございます。では両腕を横に広げ肩の辺りまで上げて下さい」
「こうですか?」
僕はアルファベットのTの形になったところで腕を止めた。
「はい。完璧でございます。お疲れになると思いますがしばらくそのままの姿勢でお願い致します」
クラニは魔法でアーマーを各パーツにばらすと僕のそれぞれの部位へ手際良く装着させていった。




