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第88話 パーティーのはじまり

 走り出した馬車の車窓から眺める景色は数日前に見たばかりだというのに今日はなんだかとても懐かしく思えた。それはこの景色をこうして生きてもう一度見れたからに他ならない。クラゲとの戦いはまさに死闘。無我夢中で戦いながらも頭の片隅には常に死を意識するそんな戦いだった。


(よかった。このきれいな景色をまたこうして誰1人かけることなく見ることができて……あ、アルス)


 あまりに色々な事がありすぎて正直なところアルスの事を忘れていた僕はようやく彼の存在を思い出した。アルスが石化してから既に4日が経過している。さすがにこれは可哀想なので石化を解く薬を調達して早いところ迎えに行ってやらなくては。


「クラニさん。石化を解くあの薬はファルマンさんのところに行けば手に入りますか?」

「はい。お店に戻ればすぐにでも。あ! アルス様、ですよね?」


 半開きの口で空に視線を移したあの表情、どうやらクラニもアルスの事を忘れていたようだ。


「そうアルス。そろそろ迎えに行ってあげないと可哀想かなって思ってね」

「ですね。きっと『お前らおせーよ』って怒られそうですね」

「いいえ。アルスの事だから今も放置プレイを1人で楽しんでるはずよ」

「たしかにルヴィス様の言う通りです。アルス様はドがつくほどの変態さんでいらっしゃいますものね」

「そうでしょ! ジェナもそう思うでしょ! クラニもそう思わない?」

「思います! そうですよね。それがアルス様ですよね!」

「でしょ〜。ま、そういう事だからもう少しそのままにしておいても大丈夫よ」


(散々な言われようだな)


 彼女たちの会話はもはや可哀想を通り越して気の毒に思えるレベルだがあながち間違いとは言い切れないところが少々悲しいところだった。


 いつの間にかアルスの変態話しで馬車の中は大いに盛り上がっていたがパムラムに到着するとそれまでの会話の内容が一気に吹き飛んでしまうほどの群衆の歓声が僕たちを飲み込んだ。


「なにこれ⁉︎ 凄い人の数なんだけど!」


 窓の外を見たルヴィスはメインストリートを埋め尽くす群衆に目を丸くして驚いた。


「皆々様ーー! お静かに願いますーー!」


 テキラは御者台に立つと群衆に向かって叫んだ。


 群衆は馬車を中心に波紋のように黙り静かになっていく。群衆が静まりかえったところでテキラが再び口を開いた。


「皆々様! ついに我らが英雄達がここパムラムへ戻って参りましたぞ! それでは皆様、民へその勇姿をお見せ下さい」


 テキラに促され馬車を降りた僕たちを待っていたのは怒涛の歓喜の声だった。


 ちょっと調子にのって群衆に向かって手を振るとその声はより一層大きなものへと変わり中には感動のあまり失神する者まで現れた。


「では皆様、今一度馬車にお乗り下さい」

「え? いえそれは申し訳ないです。街までこうして送って頂いただけで十分です。ここからは自分たちで歩いて行きますので」

「と申されましたもアオイ様方はどこへ向かわれるというのですか?」

「僕たちはルッカへ行きたいので馬車乗り場に向かいます」

「それは今すぐに、でしょうか? もしお時間を頂けるのであればぜひとも当ホテルで一席設けさせて頂きたいのですが」

「一席?」

「はい。英雄誕生を祝した記念パーティーにございます。いかがでしょうか?」

「パーティー⁉︎ いいじゃないアオイ! ぜひ開いてもらいましょうよ!」


 パーティーと聞いて目を輝かせるルヴィス。その隣りではクラニがどことなくソワソワとしジェナもパーティーに参加したそうな顔をしていた。ちなみにムイはまだ馬車の中で眠っている。この状況でいや結構です、とは言い難い。


「テキラさん、お言葉に甘えても良いんでしょうか?」

「もちろんにございます! さ、馬車にお乗り下さい」


 僕たちを乗せた馬車はゆっくりと群衆の間を進みパムラムハーバーホテルへと向かった。


「それでは会場へご案内いたします」


 テキラの後に続き大広間に通された僕たちはそのあまりに煌びやかな会場に一瞬言葉を失った。


 見上げた天井にはキラキラと輝く大きなシャンデリア。その真下には白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルが1つ。テーブルの上には美しい花のアレンジメントが飾られている。そして部屋の一角にはオーケストラのような楽団が控え、その反対側には使用人たちがずらりと並んでいる。


「す、凄いね。あのシャンデリア」

「うんうん。あんなに大きくてきれいなシャンデリアは初めて見たわ。クラニはある?」

「いえ。こんな立派なものは私も見たことがありません」

「ジェナは?」

「私はシャンデリア自体初めて目にいたしましたわ」

「ムイちゃんは? ってまだアオイの背中で寝てるのね」

「うん。この様子だとまだ当分起きそうにないかな」


 シャンデリアに夢中になる僕たちを温かい眼差しでしばらくの間黙って見守っていてくれたテキラがそろそろといったところで僕たちに声をかけてきた。


「アオイ様がおぶられておりますお嬢様はあちらのソファーへお連れいたしますのでどうぞお席にご着席下さいませ。皆様もどうぞご着席下さいませ」


 テキラに言われた通りムイを預けると僕たちは席に着いた。するとそれが合図となり楽団の演奏が始まり一列に並んでいた使用人たちが1人また1人と動き始めた。


「それでは皆様、ささやかではございますがどうぞパーティーをお楽しみ下さいませ」

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