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第85話 ボーイの逆襲

 カジノの壁に映し出される僕たちの一挙一動に客が歓声を上げる。クラゲとの攻防戦が始まると客のボルテージは更に上がりフロアは異様な熱気に包まれていった。


「おいおい。信じられん。クラーゲンジェリーフィッシュの攻撃をかわしているぞ!」

「船が飛び上がるだなんて初めて見ましたわ」


 奇跡とも呼べる光景に興奮し船体が飛び上がる度に歓声を上げる客たち。しかしクラゲが姿を変えた辺りから歓声に悲鳴が混じりはじめその触腕が船体に当たる回数が増えるにつれ歓声よりも悲鳴の数の方が増えていった。


 そして帆が破けるとフロアは一瞬静まりかえった後あちこちから落胆の声が上がった。


「もう無理だ」

「次の一手が最後だな」

「はぁ。今回ばかりは期待していたのですが残念ですわね」


 と次の瞬間、客たちが歓声を上げた。


 それはビーストモードを発動したムイがクラゲの触腕を弾き返した場面が映し出されたからだ。


「嘘だろ。あのクラーゲンジェリーフィッシュの腕を弾き返したぞ!」

「信じられませんわ。ちょっとそこのあなた。頬を叩かせて下さる?」


 バチーン! 痛ってぇーーーー‼︎ 婦人に頬をおもいっきり叩かれた貴族男性が目に涙を浮かべながら叫んだ。


「夢じゃないようですわね」

「そういうことは自分の頬をつねるかしてくださいよ。痛たた」


 とさらに次の瞬間、フロアは割れんばかりの歓声と歓喜の声に包まれた。


 壁には火薬の樽の爆発とイゼラトスの弓で起こした突風によって吹き飛ぶクラゲの姿が映し出されていた。


「ヴワァーーーー‼︎」

「奇跡だ! 奇跡だ!」

「神様ーーーー‼︎」


 にわかに信じ難い、しかし事実である目の前の光景に客たちは様々な反応をみせる。しかしそんな中ピクリとも笑わない1人の男がいた。そうウォッカである。


「どういうことだ‼︎ なぜ船底にあるはずの火薬樽を奴らが使っているのだ⁉︎」

「落ち着いて下さいウォッカ様。私どもは確かに船底に火薬樽を運び込みました」

「嘘をつくな! ではなぜ火薬樽があそこにあるのだ? なぜ奴らが使うことができたのだ? お前だろ! お前が奴らに教えたのだろ!」

「ですから私は教えたりなどしておりません。それはウォッカ様が1番おわかりのはず。私は何時もウォッカ様のお側にいたではありませんか」

「グヌゥ。たしかに、そうだな。ならどうやって奴らは火薬樽を見つけたのだ? どうやってあの重い樽を船底から運び上げたのだ?」

「おそらくはあの獣人族の仕業でしょう。獣人族は鼻が効く者が多いと聞きます。そしてあの獣人族の娘、あの姿からしてどうやら獣化ビーストモードが使える様子。であれば火薬樽を船底から運び上げるなど容易いことだと私は思うのですが」

「……なるほどな。しかしこれでは計画が丸潰れだ。どうにかして船を沈めんと大損どころの騒ぎではなくなるぞ! どうにかならんのか? いやどうにかしろ!」


 ボーイは深くため息をついた。


「キサマ! 主人の前で大きなため息をつくとは何事だ!」

「もうお止めになりませんか?」

「はぁ? お前今何と言った?」

「お止めになりませんか? と言いました」

「止める? 何をだ?」

「この賭けです」

「バカを言うな! 目の前に巨万の富があるのだぞ? それが私のモノになろというのになぜ今更止める必要がある?」

「ウォッカ様、何卒お考え直し下さい。1000年魔大戦の時代から何千年もの間我々を含む世界中の人々を苦しめてきたクラーゲンジェリーフィッシュが今まさに倒されようとしているのですよ? この歴史的瞬間を見たいとお思いになりませんか? これからはあの恐怖に怯えずに済むのですよ? 我々も世界中の人々も」


 ボーイの少々説教じみた言葉にウォッカがキレる。


「ふざけるな! クラーゲンジェリーフィッシュが倒される事などそんなことはどうでもいい! これからは恐怖に怯えずに済む? 世界中の人々が? ハッ笑わせるな! 私以外の者がどう恐怖し苦しもうが知ったこっちゃない!」

「……そうですか。あくまでも自分の利益が最優先ということですか。わかりました。では仕方ありませんね」

「な! お、おい。や、やめろ。バカなマネはよせ!」


 ボーイは鋭い目つきでウォッカに短剣ナイフを突きつけていた。


「だ、誰か! 誰か!」


 ウォッカが叫ぶと3人のボディーガードが駆け寄ってきた。


「裏切り者だ! コイツをひっ捕らえろ! ウグッ! お、お前たち何をする⁉︎ 離せ!」


 ボーイを捕らえるはずのボディーガードはなぜかウォッカを取り押さえた。


「ウォッカ様、いやウォッカ。もはやこのカジノにあなたの味方をする者はいない。大人しく私たちの言うことをきいてもらう。いいな?」

「ふ、ふざけるな! そんな脅しに誰がのるか! バカ者め! ガハッ!」


 ボーイはウォッカの言葉に眉間にシワを寄せると軽くウォッカの右腕をナイフで斬りつけた。


「私は脅しなどしていません。あなたには私たちの言うことを聞けと命令しているのですよ? あなたに断る権利はもはや無い。おわかりになりませんか? わからないと言うならこのナイフは今すぐあなたの心臓を貫く」

「ヒッ! わ、わかった。お、お前たちの言うことを何でも聞く! 聞きますから命だけはお助け下さい!」

「フッ。いい顔になってきたではありませんか。では1つ頼まれてもらいましょう」


 ボーイはそう言うとウォッカの耳元で何かを囁いた。


「わ、わかった」


 ウォッカはボーイの囁いた何かに納得し彼らに付き添われフロア中央の丸いお立ち台に上がった。

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