第83話 金の亡者
ムイの投げた2つ目の樽にジェナが矢を打ち込む。起爆した樽から発せられた爆風と矢から生み出された突風でクラゲは目視できるギリギリまで押し流されていた。
「ありゃ。ずいぶん奥まで吹き飛びよったな。これは早よ追っかけなあかんやつやな」
そうは言うもののこれだけ帆が損傷してしまっていては風を受けて進むなど無理な話しだ。何かいい方法は……考え込んだ僕の目にあるものが写った。
(アレだ!)
僕の目に写ったもの。それは脱出用の1艘の救命ボートだった。
「みんなアレ!」
「救命ボート。なるほどね。アオイやるじゃない」
ルヴィスは左手の親指を立てながら言った。
僕たちは早速救命ボートを下ろすとクラゲを追った。
――時は僕達がクラゲに遭遇したあたりに戻る――
その頃カジノでは壁に映し出されたセントエレナ号の映像に客が歓声を上げていた。
「やけにフロアが騒がしいな」
「ウォッカ様、ついにヤツが姿を現しました。只今アオイ様方とクラーゲンジェリーフィッシュが対峙しておられます」
「おお! 出たか! よしよし」
ウォッカは意気揚々とフロアのバルコニーへ顔を出すとお得意の喋りで客を煽る。
「皆々様! ついにクラーゲンジェリーフィッシュがその姿を現しました! いよいよ裏カジの始まりです! では早速皆々様に私から挑戦状を叩きつけようではありませんか! 今から30分間、クラーゲンジェリーフィッシュと対峙した彼らが見事生き残れたとしたら報酬を今の賭け金の2倍にいたしましょう! しかしもし残念な結果となってしまった場合には今の賭け金の1.5倍をお支払い頂きます。どうです? 私の挑戦、受けますか? それとも受けませんか?」
ざわつくフロア。そんな中貴族らしき1人の中年男性が声を上げた。
「私は受けて立ちますぞ!」
続けて今度は1人の貴婦人が声を上げた。
「私はそんな無謀な賭けには乗りませんわ。あの凶悪なクラーゲンジェリーフィッシュを相手に30分も生き残れだなんてあり得ませんことよ」
「皆々様。私からの挑戦を受ける受けないは自由にございます。しかしここはハイリスクハイリターンな裏カジ。この挑戦を受けないとなれば脱落とみなしここまでの賭け金は全て没収させて頂きます。では早速ジャッジタイムと参りましょう! 制限時間は10秒。挑戦を受けるという方は左へ。ここで降りるという方は右へご移動願いたい。それではジャッジターイム、スタート!」
ウォッカの合図で客が一斉に動き出す。
「……3、2、1、そこまで!」
移動を終えた客の状況をバルコニーから一望するウォッカがニヤリと笑う。
それもそのはず。客の9割がウォッカの挑戦を受けるという結果が出たからだ。
「それでは皆々様。一世一代の大勝負! どうぞ存分にお楽しみ下さい!」
ウォッカは控室に戻るとソファーにふんぞり返った。
「まったくバカな連中だ。あのクラーゲンジェリーフィッシュを相手に生き残るなど到底無理な話しだというのに成功すると思うヤツがあんなにも多いとはな」
「ウォッカ様、それはきっとお客様方はそうあってほしいと願っておられるのではないでしょうか?」
「お前は何をいっているのだ。そんなわけがあるはずないだろ。こんな馬鹿げた賭けにひょいひょいと集まる連中だぞ? 金が2倍になるという言葉に単純につられただけに決まっているだろ」
「本当にそうでしょうか」
「お前もしつこいやつだ。連中は金の亡者。それ以外の何者でもない! つまらん事を言ってないでさっさとフロアの様子を見てこい!」
「……失礼致します」
ウォッカにどやされたボーイはフロアへと戻っていった。




