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第81話 死闘の始まり

 前進をはじめた船の向きを舵を巧みに操りコントロールするクラニ。船はいったんクラゲから離れるように右前方へと進みその後はクラゲの背後を目指し半時計回りにゆっくりと旋回をはじめた。


 一応背後とは言ってみたがそもそも360度どこからみても同じフォルムをしているクラゲが今どの方向を向いているか定かではなかった。


 そしてその姿が船体左に見える位置まで進んだ時だった。


「ヤバい! 来るで!」


 ムイが切羽詰まった声を上げた。


 それまでユラユラと触手を揺らしながら不気味なほど静かに佇んでいたクラゲの様子が一変しどこに隠し持っていたのか2本の太い触腕がその姿を現していた。


「ジェナ! 帆に向かって矢を放って! みんなはどっか掴まって!」


 ムイに続きルヴィスも大声で叫んだ。


 クラゲが触腕をその頭上に構えたと同じタイミングでジェナが矢を帆に向かって放った。帆は放たれた矢から発生した突風を受けヴァサっと勢いよく開き船が前進する。


「ジェナ! もう一回!」

「え⁉︎ もう一回ですか⁉︎」

「そうよ! 早く!」

「は、はい!」


 ルヴィスに急かされジェナはもう1射、帆に向かって矢を放った。連続で突風を受けた帆は激しくきしみそのあまりの風の勢いに船体は浮き上がりまるで空を飛ぶ様に跳ね上がった。


 ザババババーン‼︎ 船が飛び出した直後、クラゲの触腕が海を裂いた。


「あ、危なかった。あとちょっと遅かったら船が真っ二つだ」


 後方に見えた光景に僕は青ざめた。


「もういっぺん来るで!」

「ジェナ!」

「はい!」


 ジェナは先程と同様矢を2回放ち襲いくる触腕をかわした。しかしクラゲの攻撃は止むことを知らず2本の触腕は再びその頭上に挙がる。


「また来るで!」

「いきます!」


 飛び上がる船体。海を裂く触腕。そんな攻防が5回続いた後だった。


「いつまでも逃げてはいられないわね。ジェナ、次にクラゲがあのバカでっかい腕を構えたら今度はクラゲに向かって弓を放って!」

「はい! いよいよですね!」

「ジェナ姉ちゃん! 今や!」

「くらえーーーー‼︎」


 ジェナは渾身の力で弓を引くとクラゲに向かって矢を放った。


 矢は回転しながらまっすぐに飛び回転を増す毎にそのスピードも上がっていった。そしてその矢を追うように突風が海を裂いていく。


 ドゥヴズズドゥズーーーーン! 矢はクラゲの体を貫通し突風はクラゲに直撃した。もろに突風を受けたクラゲの体は鈍い音を発しグニャグニャと歪みながら後方へと押し流された。


「ジェナ姉ちゃん! やったな! クラゲのやつ吹っ飛びよったで!」

「凄い! 本当に吹き飛ばすことができた! やりましたねジェナさん!」

「やりましたね〜ジェナさ〜ん!」

「はい! 私、出来ました! 皆様のおかげで出来ました!」

「やったわね。ジェナ。けどまだ喜ぶには早いみたいよ」


 そうジェナに告げたルヴィスの顔に笑顔はなく険しいままだった。


 海上に浮かぶクラゲは……ん? 浮かんでいない! 海上にユラユラと浮いていたはずのクラゲは自身の真下に氷を作り出しており無数の触手をその氷に突き刺し体を海上に固定していたのだ。クラゲは触手からさらに氷の粒と冷気を撒き散らし辺り一帯の海をみるみるうちに凍らせた。これではきっとクラゲを吹き飛ばすことは難しいだろう。


 すると今度はクラゲの体が白く変色しその形もクラゲから巨大なイカの姿へと変化した。それはまさにクラーゲン。2本の触腕もさらに太さと長さを増し先端には黒光りするトゲが生えてきた。


「なんやクラゲのやつ変身しよったで」


 クラーゲンジェリーフィッシュは触腕を頭上に振り上げるとそれをぐるぐると回しはじめた。


「なんかヤバそうなんだけど」

「そうね。ジェナ、いつでも回避できるよう弓を構えておいてね」

「はい」


 触腕は回転する度にブォンブォンと空を切る音が鳴り響く。そしてひとしきり回転がかかったところでついに触腕は僕たちめがけて放たれた。


「ジェナ!」

「はい!」


 バギッ! ザババババーン‼︎ 予想以上のスピードで飛んできた触腕は船体後方をかすめてから海を裂いた。


「くっ。避けきれなかったわね。どうやら変身して能力が上がったみたいね」

「ジェナ姉ちゃん! また来よるで!」

「任せて下さい!」


 飛んでくる触腕。飛び上がる度どこかしらを削られる船体。裂かれる海。そんな攻防は長くは続かず3回目にして連続で突風を受け続けた帆がついに限界を迎えビリビリに破けてしまった。それでもクラゲの攻撃はいっこうに止む気配がない。


「なんということでしょう⁉︎ これではもうクラゲの攻撃をかわすことができません」


 ジェナはショックのあまりその場にへたり込んでしまった。するとそこへムイが駆け寄りジェナの頭を撫でながら言う。


「ウチに任せとき! 本当なら使いとうなかったんやけどな。この際しゃーない!」


 ムイはクラゲと対面するように船体の端に立った。


「ムイちゃん! どうしたの? そんな端に立ったら危ないよ!」

「大丈夫やアオイ兄ちゃん! それよりもひとつ。お願いがあんねん」


 ムイのお願い。それはしばらくの間僕たち全員後ろを向きムイを見ないと約束してほしいというものだった。


 理由は教えてくれない。けれどもクラゲからの攻撃は自分が何とかするといい、反撃の準備が整った時点でジェナに合図を送るからイゼラトスの弓をぶっ放してほしいと言った。


「みんな約束してくれるか?」


 クラゲから逃げる手立てを失った僕たちにムイのお願いを断る理由は無かった。

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