第78話 オープン・ザ・裏カジ!
カジノには既に大勢の金持ちらしき客で溢れかえり異様な熱気に包まれていた。すると店内の明かりが一斉に消され2階部分に設置されたバルコニーにスポットライトが当てられた。
「皆々様、大変長らくお待たせ致しました!」
スポットライトを浴び意気揚々と饒舌に喋り出したのは他でもないあの男、ウォッカだった。
「裏カジノ、通称裏カジへようこそお集まり下さいました。これより皆々様にかけていただくのは……」
宙に浮くガラス玉のような球体からバッと店内の白い壁に映し出されのは少し遠目ではあるが僕たちの乗ったセントエレナ号だった。とその瞬間客の歓声がカジノを揺らした。
「皆々様よくご存知のこの船、そうセントエレナ号に乗船するは1人の青年と4人の美女、美少女。彼らの目的はなんと……あのクラーゲンジェリーフィッシュの討伐‼︎」
ウォッカがそう言い放つとしばらくの間会場は静まり帰った。そしてその後はヤジの嵐。それもそのはず。クラーゲンジェリーフィッシュを討伐するなど言語道断だからだ。
「静粛に! 皆々様よくよくお考え下さい! この私が、あのセントエレナ号を提供してまでも彼らを信じクラーゲンジェリーフィッシュ討伐が成功すると踏んだのです! それでもまだ文句があるとおっしゃるなら結構! どうぞ今すぐお引き取り願います!」
先程までとはまるで違う厳しいものの言い方でせまるウォッカに集まった客の口から文句が消えた。
「この大一番。皆々様ならどちらに賭けますかな? 見事クラーゲンジェリーフィッシュを討伐するという方か、はたまたやはり討伐は失敗するという方か」
「ウォッカさん! あなたならどちらに賭けますかな?」
1人の貴族らしき男性客がウォッカに言った。
「良い質問ですね。そもそも主催者である私は参加しませんが私ならもちろん、討伐成功に賭けますな。何せ私はあのセントエレナ号を貸し出してまでそれを信じておりますから」
「なるほど」
「それでは皆々様、ジャッジのお時間です。成功すると思う方は赤いカーペットへ、失敗すると思う方は青いカーペットへ、ドラマの音が止むまでにお集まり下さい。それでは〜ジャッジタ〜イム!」
ドラムロールが始まり客が足速に移動を開始する。そしてドラムロールが止みそれぞれの色のカーペットに客が集まった。結果は……ウォッカの熱弁の甲斐あってか赤のカーペット、つまりは討伐が成功するとふんだ客が大多数を占めた。
その会場の様子を見下ろすウォッカはニヤリと左の口角を上げるとさらに客を煽る。
「皆々様! さぁいよいよ始まりますぞ! 彼らの命懸けの攻防戦に一喜一憂して下さい! そしてこの大勝負を存分にお楽しみ下さい! それでは〜オープン・ザ・裏カジ〜!」
そう叫んだ後ウォッカはバルコニーから自分の控室に戻り一杯の酒を飲み干すとソファーににふんぞりかえった。
「ウォッカ様、本当にあれでよろしかったのでしょうか?」
「それはどういう意味だ?」
「先程の演説で私はウォッカ様が討伐が成功するとお考えであると確信いたしました。ゆえに成功するとふんだ客があんなにもいてはその……」
「なんだ? ハッキリと言え」
「大損なのでは?」
ワッハハハハ。ウォッカはボーイの発言に腹を抱えて笑った。
「まさかお前まで信じるとはな。自分の才が恐ろしくなるぞ」
「へ? と申しますと?」
「私はな、はなから討伐が成功するなどとは思っていない」
「ではなぜセントエレナ号を提供などしたのですか。正直もったいない話しではありませんか!」
ボーイの言葉にウォッカはため息をついた。
「お前は何年私といるのだ。まったくいつになったら損益が判るようになるのだ? いいか……」
呆れながらもウォッカが説明をはじめる。
ウォッカいわくこれも立派な儲け話なのだという。一見すると世界最高峰の船が高確率で沈む可能性があるのだから大損だと思うのは当然だ。しかしウォッカの考えは違うようだ。
「セントエレナ号はたしかに美しく豪華で機能面を見ても申し分の無い船だ。私があの船を大金叩いて競り落としたのは何のためだと思う?」
「当ホテルのシンボルにして観光の目玉として活躍してもらうためにございます」
「そうだ。そうやって金を稼いでもらうためだ。けれど最近ときたらどうだ? 船を公開した時に比べ客足は半分以下。入ってくる金も半分以下だ。けれども船は常に最高の状態でなければ客足は遠のく一方だ。そうなるとどうなる?」
「維持費がかさみます」
ウォッカはボーイの返事にうんうんとうなづく。
「わかっているではないか。あれだけの船だ。維持費はそこらの船とは比べものにならん。正直ここ最近の客足では維持どころかカジノの利益を食いかねん。だとすればもはやあの船はお払い箱という他はないだろう。だが再度競売にかけたところで私が叩いたような金にはならんし誰かの手に渡るというのはしゃくだ」
「……ウォッカ様、お言葉ではございますが聖女様の名を掲げたあの船を無下にはできないのではないでしょうか」
「だから今回の計画があるのではないか」
「……と申しますと?」
「まったくお前というヤツは」
またしてもウォッカはため息をついた。
「いいか。今回の本当のシナリオは彼らもろとも船が海に沈むことだ。クラーゲンジェリーフィッシュに挑んだ勇敢な若者が志半ばで敗れ船ごと海の底に沈む。悲しくも美しい話しだと思わないか? セントエレナ号最後の航海としてこれほどの美談はないだろう。そしてなによりも船が沈めば討伐成功にかけた客からがっぽりと金を巻き上げられる。不要となった船を処分できるうえに金もたんまり入る。どうだ? 最高の計画だろう?」
「……はい。ですがもし万が一にも討伐に成功したら」
「それはありえん話しだ。そのために念には念を入れたのだろう? ん?」
「船底に仕掛けた火薬、ですか」
「そうだ。もし万が一にも討伐に成功しそうになったとしてもあの火薬を爆発させ船を沈める。計画は必ず成功させる。そうだろう?」
「……はい」
ボーイは心のうちではクラーゲンジェリーフィッシュが討伐されればどんなに良いことかとそう思っていたが自分の私腹を肥やすことを最優先するウォッカの前でそれを口することは出来なかった。




