第74話 横柄な店主
――次の日の朝――
早々に目が覚めた僕は誰よりも早くロビーに下りみんなが集まるのを待った。
「おっはよ〜アオイ兄ちゃん! 早いね」
1番のりは黒と黄の縞模様にちょこんと飛び出した丸い耳の可愛らしい着ぐるみを着たムイだった。その着ぐるみはデフォルメされてはいるがあの縞模様からして虎に間違いないだろう。
「おはようムイちゃん。今日のそれは虎かな?」
「お! アオイ兄ちゃんわかっとるな。そうやこれは虎族を模して作ったんや。ガオー」
とそこへルヴィスたちが下りてきた。ムイを見るなりの3人は口々に可愛いを連呼しそのもふもふの毛を撫でまわした。
「ちょ、ちょ、そんなみんなで撫でくりまわしたらこそばいわ」
「それなら〜。こちょこちょこちょこちょ」
「キャハハハハ! やめてやめてルヴィス姉ちゃん。降参、降参や」
朝から楽しそうな4人の姿にほっこりする。というのもクラーゲンジェリーフィッシュのことを考えすぎてしまった僕は妙に緊張してしまっていたからだ。
「アオイ兄ちゃんどないしたん? ニコニコして。なんかええ事でもあったんか?」
「ううん。何でもないよ。けどありがとう」
僕は笑顔のまま首を横に振った。
「何やそれ。変なアオイ兄ちゃんやな」
「フフ。さ、みんな揃ったことだし街へ調達に行こうか」
「せやな」
僕たちはメインストリートから続く道具街にやってきた。
「えっと、まずは矢を調達しようか」
昨夜の作戦会議で必要な物をあげた中で筆頭に上がったのもの。それが矢だった。矢は1射に対して1本は必ず必要となる消耗品。クラーゲンジェリーフィッシュを相手にするのだからそれは持てるだけ持っておいた方が良い。というのが全員に共通した認識だった。
「武器屋ならあそこやな」
僕たちはムイの指差した店に入った。
「らっしゃい。ん? こりゃまた随分と可愛らしいお客がきたもんだ。あいにくだがうちにママごとナイフはねぇよ」
入店していきなりこの接客とは何て失礼な店なんだ。僕は一瞬にして不愉快になった。しかしこういった場面でもポーカーフェイスを貫く人物がいた。それはクラニだ。クラニはフォルマンの店で散々嫌な客の相手をしてきただけあって武器屋の親父の応対にまったく動じていなかった。
「店長さん。私たちはママごとナイフではなく矢がほしいんです。それもできるだけ沢山」
「あ? 姉ちゃんわかってねぇな。ハッキリ言うが俺は姉ちゃんらみてぇなチャラついた冒険者が1番嫌れぇなんだ。そうやって格好だけ一丁前に着飾りやがって」
「おい、親父」
言いたい放題な店主の親父にさすがの僕も堪忍袋の緒が切れそうになったがスッと出されたクラニの手によってその場はそれ以上何もする事ができなかった。するとクラニは
「これでも、ですか?」
と表情を変えることなくドンッとカウンターに硬貨の入った皮袋を置いた。
「あんだよこれは」
「店長さんの大好きな物だといったら?」
「あ? 俺の好きなもんだ?」
店主の親父は皮袋を開き中身を覗き込んだ。
「こ、こりゃ……ヘヘヘ。大変失礼しやした。矢ですよね? 矢が必要なんですよね? ありったけ持って参りやすのでちょっと待っていてくだせぇ」
皮袋の中には多数の金貨が入っておりそれを見た店主はそれまでの態度を180度変え足速にカウンター裏の倉庫へ入っていった。しばらくすると店主の親父は両手で抱え込んだ矢の束を持って戻ってきた。
「お待たせしやした。うちにある在庫全部持ってきやした」
クラニはその束のひとつひとつに目を通し言う。
「これは良いですがこれはダメですね。もっと他にないですか? 粗悪品を混ぜて儲けようとしても無駄ですよ。私にはわかりますから」
「ヒッ! す、すみませんでした。今すぐ取替えてきやす」
さすがはクラニだ。彼女の鑑定の前ではウソなどつくことはできない。
「お待たせしやした。いかがでございましょう?」
クラニは再び矢の束に目を通した。
「まあ良いでしょう。ちなみにおいくらになりますか?」
いつもとは違う鋭いその瞳に睨まれた店主はもはやウソなどつくことはできなかった。
「ご、50、いや40ルクにございます」
「そうですね。たしかにそれくらいになりますね。わかりました。では50ルクで売って下さい」
「え⁉︎ お、お嬢様よろしいのですか?」
「はい。ダメですか?」
「いえ! 決してそのようなことはございやせん! むしろ勿体ないくらい色つけて頂き頭があがりやせん!」
「なら、交渉成立ですね。ではこちらを。おつりはいりませんので」
「えぇぇぇぇ⁉︎ おつりはいらないだなんて本当によろいのですか? 私をからかっているのではないですか?」
クラニから1枚の金貨を受け取った店主の親父が発狂した。なぜなら金貨1枚で1000ルクの価値があるからだ。
「からかったりなんてしてませんよ。本当におつりはいりませんので。ではこの矢は頂いていきますね。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ! もう絶対にあんな失礼なことは言いません! お買い上げありがとうございました!」
店主の親父は90度のお辞儀を見せ僕たちを見送った。
「クラニさん。さすがです!」
「いえいえ。あれでも緊張していたんですよ。でもあの目を見たらすぐにわかりました。あの方が私たちがお金を持っていないと考えていることを。あんな悪態をついたのはそのせいです」
「だから金貨を見せたんですね」
はい。とクラニはニッコリと微笑んだ。
「私たちが想像以上にお金を持っているとわかればあのようなタイプの方はきっとあんな態度をとらなくなる、そう思ったんです」
「予想的中でしたね」
はい。とクラニは再びニッコリと微笑んだ。
「ひとまずこれで矢の確保はできたね。次は?」
「次はそうね……」
ルヴィスは左手の人差し指をあごに当てると首をかしげた。




