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第73話 作戦シー

「それはな……」


 このタメの長さといい視線を外さず凝視する仕草といいとあるクイズ番組の有名なフレーズが今にも飛び出してきそうなムイの姿に僕は思わずゴクリと固唾を飲んだ。


「……カミナリや」

「雷?」

「せや。カミナリや。ヤツはたぶんやけど風以外にカミナリも苦手やと思う」


 クラーゲンジェリーフィッシュによって命を落とした者は数知れない。しかしホテルで療養する青年のように運良く生還できた者もいる。彼はたまたま吹いた突風によって難を逃れたわけだが生還者の中には助かった理由に雷をあげているものも少なくないのだという。


 中にはカミナリを嫌がるような姿を見た者や触手にカミナリが落ちその手が焼け焦げる光景を目にした者もいるといいその時のヤツの慌てようは半端ではなかったという。


 つまりヤツは雷に弱い。ムイはそう結論付けたというわけだ。


「そこでウチは思ったんや。カミナリを喰らわせることができればひょっとするとヤツを退治できるんちゃうか? ってな」


 僕たちはムイの突拍子もない発言に言葉を失った。


「んまぁそうなるわな。もちろんウチもそないな事叶わへん思うてたで。なにせカミナリは自然現象やからな。いつどこで発生するかわからへん。けどなある場所だけはそのカミナリがいつどこに発生するかわかる」

「あ! ムイちゃんその場所ってもしかしてここパムラムにくる途中の馬休めがあった平原じゃない?」

「アオイ兄ちゃん、まさにそこや」

「でもあそこは海から離れた陸地だよ? 雷が発生する場所や時間がわかってもそれをヤツに喰らわせるのは無理な話しじゃない?」


 ムイはニヤリと笑った。


「アオイ兄ちゃん。そこはピンときてもらわなあかんやつやで」

「え? ピンと?」

「そや。ピンとや。まだきいへんか?」

「う、うん。ごめん。まだこない、かな」


 まったく何も頭に思いつかなかった僕の顔を見てムイは小さくため息をつくとその答えを教えてくれた。


「イゼラトスの弓や」


 イゼラトスの弓? ……あ! そうか! イゼラトスの弓と聞いてやっと僕はムイの言いたかった事がわかった。それはクラーゲンジェリーフィッシュをイゼラトスの弓の突風であの平原まで追い込みカミナリを喰らわせるということだった。


「大正解やアオイ兄ちゃん!」

「なるほど! それならたしかにヤツに雷を喰らわせることができるかもしれないね!」

「せやろ。これは1000年魔大戦からこれまで一度も訪れたことがないビッグチャンスや! もしこれが上手くいけば1000年魔大戦の時代から世界中の人々を苦しめてきたクラーゲンジェリーフィッシュがようやくこの世界から消えることになる。途方もない年月誰もなし得なかった偉業や。これは凄い、凄すぎることやで!」


 たしかにこれが成功すれば勝手ないほどの偉業を成すことになる。しかしそれはきっと、いや間違いなく一筋縄ではいかない高難度ミッションになるだろう。


「ほなアオイ兄ちゃん、この歴史的作戦にバシッとカッコええ名前つけてや!」


 何という無茶ぶり。なんでこんな大事な作戦の名前を僕が? そもそも新しい作戦を思いついたのはムイだろ? そう思いたじろいだのも束の間。全員の視線を一身に浴びた僕はとにかく何かカッコ良さそうな名前を考えるしかこの場を脱却する術はなかった。


「えーと。んー。さ、作戦、シー?」


 海だからシー。なんとも安直だったが焦った僕の頭から絞り出された精一杯の回答。それが作戦シーだった。


「作戦シー? ……アオイ兄ちゃん」

「はい」


 やっぱりふざけてるよね? みんな怒るよね?


「カッコええ‼︎ 作戦シー‼︎ さすがアオイ兄ちゃんや!」


 ムイは顔を赤らめ興奮した様子で僕にハイタッチを求めてきた。まじで? アレで良いの? 人の感性とは本当に十人十色だとあらためて思った。でもとにかく良かった。何とか怒られずにすんだ。僕はホッと肩を撫で下ろすとムイの両手にハイタッチした。


 それから僕たちは日をまたぐ直前まで作戦シーに必要な物や事について話し合った。


「ふぅ〜みんなお疲れ様。明日は街で必要な物を調達したらここでゆっくり体を休めて明後日の作戦決行に備えましょう。それじゃアオイ、解散の合図をお願い」

「了解ルヴィス。えーみなさんお疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。それでは解散!」


 僕たちはおやすみの挨拶を済ませると女子は女子部屋に、僕は男部屋に、ムイは自分の家に戻り寝床についた。


――その頃ウォッカの部屋では――


「例の準備は進んでいるだろうな?」

「はいウォッカ様。裏カジノの手配もセントエレナ号の整備も万全にございます」

「グフッ。裏カジノはあいつらが出港したらすぐに開催だ。船の仕掛けも大丈夫だろうな?」

「はい。指示通り船底に穴を開けられるだけの火薬は仕込ませました。この遠隔用の魔石を使えばいつでも火薬に火をつけることができます」

「グフッ。あいつらには悪いが賭けの状況次第で海の藻屑になってもらわなければならないからな。いいか。ぬかるなよ」

「はい」

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