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第71話 オルンジダイヤモンド

 アイースを食べながら歩くこと数分。カジノについた僕たちはその外壁に備え付けられた外階段から屋上へと登った。屋上には南国らしいヤシに似た木や観葉植物が並べられた屋上庭園が広がりそのすぐ側にはオープンテラスのレストランやプール、バーカウターが併設されていた。


 入場口と書かれたゲートには1人のボーイが立っており僕たちが近づくとこう話しかけてきた。


「パムラムハーバーカジノ屋上庭園へようこそおいでくださいました。それでは入場にあたりワンドリンクのご注文をお願い致します」


 さすがはカジノだ。屋上庭園といえどもタダではないらしい。僕たちはオランジジュースやメロジュースなど各々ワンドリンクを頼み庭園へと入場した。


「ご注文頂きましたドリンクでございます」


 ドリンクを受け取った僕たちは海側のベンチに座ると日が沈むまでの時間海を眺めたりおしゃべりしたりしながら過ごすことにした。


「なぁアオイ兄ちゃん」

「なんだいムイちゃん」

「アオイ兄ちゃんたちは何で旅しとるん?」

「そっか。そう言えば話してなかったね」


 僕はムイにウェディングドレス作りの話しをした。


「最高のウェディングドレス作り! なんや知らんけどそれはまた楽しそうやな。やっぱりついてきて正解やったわ。ンフンフ」


 ムイは僕の話しにワクワクした様子で鼻息を荒くした。


「ところでムイちゃんは何で町外れに1人で暮らしてるの?」

「あーそれはやな……簡単に言うとやな。家出や」

「家出⁉︎」


 ムイは父親との喧嘩をきっかけに大陸のとある国から単身海を渡りここパムラムに身を寄せていたのだという。


「ムイちゃん帰らなくていいの? お父さん心配してるんじゃない?」

「ええんや。あんなわからずやなやつのとこなんて帰りたない。心配もしてへん」

「いやいや心配はしてるでしょ」

「してへん! そういう親なんや! 悪いけどこの話しはしまいや!」


 ムイはバッサリ話しを切るとそれ以上その話題には触れなかった。


 そんなやり取りをしているうちに日はだいぶ傾き空の色は青からオレンジへと変わりつつあった。


「日、暮れてきたね」

「本当ですね。空も海もオルンジ色になってきましたね」

「凄いですね。夕陽がこんなにきれいに見えるだなんて」

「も少ししたらもっとオルンジ色が濃くなってきれいに見えるで。運が良ければ地平線に太陽が沈む瞬間空と海がキラッキラに光るオルンジダイヤモンドが見れるかもわからへん」


 オルンジダイヤモンド。それは強い海風によって舞い上げられた海水に夕陽が当たることで起きる自然現象でキラキラとオルンジ色に乱反射する夕陽がダイヤモンドを散りばめたように見えることからそう名付けられたという。


「へぇ〜それは是非とも見てみたいな」

「ウチも数回しか見たことないねんけどな。それはきれいなもんやで。さて今日はどないやろな」


 日没が近づくにつれ屋上のギャラリーもその数を増していく。日が沈むにつれ空は徐々にオランジ色を濃くしていくがいっこうにオランジダイヤモンドはその姿を見せようとしない。


「ん〜今日は無理かもしれへんな」

「オランジダイヤモンドは見れなかったとしても十分にきれいな夕焼けだよ」

「それはそうなんやけど、ウチは見てほしかったんやみんなに。ま、でもしゃあない。自然のことやさかい。また機会があれば見にこよな」

「うん」


 いよいよ夕陽が沈むというその時だった。突風が沖に向かって吹き抜けた。すると風が通り過ぎた海からはしぶきが上がり舞い上がった海水は細かな粒子となって夕陽を乱反射させた。その奇跡的な光景にギャラリーから一斉に歓喜の声があがった。


「わぁ凄い! きれい! ムイちゃんあれ、オルンジダイヤモンドよね?」

「うん。ルヴィス姉ちゃんのいう通りあれは間違いなくオルンジダイヤモンドや」


 地平線からオルンジ色のダイヤモンドを空に向かって散りばめたかのようにキラキラと美しく光り輝くそれはまさにオルンジダイヤモンドの名に相応な光景だった。


「にしても驚いたわ。こんなこと初めてやで。まさに奇跡やな」

「ムイちゃん。奇跡ではないかも、ですよ」


 ムイにそう告げたのはイゼラトスの弓を手に持ったジェナだった。


「ジェナ姉ちゃん! もしかして⁉︎」

「はい。今の突風はコレです」

「はぁジェナ姉ちゃんのそれはほんまたいしたもんやな」


 日が沈む直前に吹いた突風、それはジェナがイゼラトスの弓から放った矢の仕業だった。


「ん? 何だろアレ? オルンジダイヤモンドの中に何かキラキラする別のものが見える気がするんだけど……」


 ルヴィスに言われ消えゆくオルンジダイヤモンドに目をこらすとたしかに何か別のキラキラした物体が見えた。


「クラーゲンジェリーフィッシュや」


 それまで笑顔だったムイの顔が険しい表情へ変わった。


「アレがクラーゲンジェリーフィッシュ。こっから見てもあの大きさって相当だね」


 クラーゲンジェリーフィッシュは地平線近くにいるはずなのに肉眼でもそのシルエットがわかるほどの大きさだった。しばらくの間オルンジダイヤモンドの中を漂っていたがオルンジダイヤモンドが消えるとともに海風に乗り沖へとその姿を消した。

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