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第7話 貴族狩り

「イラッシャイ! イラッシャイ!」「これはおいくらかしら?」「本日限りの大特価だよ〜。寄ってかなきゃ損だよ〜」「ちょっとそれ見せて」「まいど!」「掘り出しもんがぎょうさんあるでぇ」


 市場に着くとそこは沢山の行き交う人々の声や音でおおいに賑わっていた。夜とはまた違った光景に心が踊る。


「アオイ、これから順番にお店回るけどくれぐれもはぐれない様にね」


 僕は子供か! とツッコミを入れたいところだったがキョロキョロとあちこちを見回し注意散漫となっていた様を見ればそう言われても仕方がなかった。


「とは言ったものの……」


 ルヴィスは胸の辺りから取り出した巾着のようなものを覗き呟いた。


「なぁおっちゃん! これ買い取ってくれよ」

「何言ってんだボウズ。そこらへんで拾った石っころだろが。そんなもん誰が買うかよ。どうしてもってんなら宝石屋にでもいって同じこと言ってこい」

「ちぇ」


 野菜らしきものを売る屋台の店主に門前払いされた子供は小石を投げ捨て大通りの人混みに姿を消した。


 そのやり取りを見ていたルヴィスがパンっと手のひらを合わせた。


「宝石屋かぁ。何でもっと早く気付かなかったんだろう。アオイ、まずは宝石屋に行くよ」

「宝石屋?」

「そう宝石屋。ちょっと手持ちが少ないのよ。だからこれを売りにね」


 ルヴィスはあの割れた転移石をプラプラと揺らしながら言った。


「壊れていても売れるの?」

「売れるわよ。魔法石としての価値は無くなっても宝石としての価値はそれなりにあるからね」

「なるほど。そうだお金なら僕も少し持ってるんだけど……」


 僕は財布を取り出すと中身をルヴィスに見せた。

 財布には千円札が二枚と五百円玉が一枚。百円玉と十円玉がそれぞれ四枚。五十円玉が二枚。一円玉はざっと十枚以上入っていた。


「これって……アオイの国のお金なの?」

「うん。円っていうんだ」

「エン? 聞いたこと無いわね」

「だよね。当然ここでは使えないよね?」

「そうね。残念だけど使えないわね。でも素材や美術品としてなら買い取ってもらえるかもしれない……」


 ルヴィスの話しによれば硬貨はそのものが素材として売れる可能性が高く加えて表裏に施された細かい彫刻が目に止まれば美術品として扱われるかもしれないという。紙幣に至っては素材としての価値はおそらく紙切れ同然。けれども硬貨同様に美術品となれば売れる可能性はあるという。


「宝石屋はたしか……中央市の方ね」

「中央市?」


 僕の疑問にルヴィスが答える。


 ここルッカの市場は東市、中央市、西市と大きく三つの市場に分かれており今いる場所は東市で食を扱う店が多く西市は武器屋や防具屋、道具屋などが軒を連ねているという。そして中央市は東市と西市を二分する文字通り市場の中央にある場所で宝石屋をはじめギルドや商工所などが噴水を取り囲むように立ち並ぶ円形の広場のようなところだという。


「それじゃ行くわよ」


 ルヴィスは僕の手を握ると市場を離れ再び路地裏の細い道を足早に歩きはじめた。


「あれ? こっちでいいの?」

「うん。少し遠回りにはなるけどあそこを歩くよりこっちの方がいいのよ」


 中央市へは通りを行くのが一番近い。けれどもそれはあの人でごった返す中を止まることなく直進できればの話で実際は裏通りを行く方がずっと早いのだ。


『大人しく身ぐるみ全部置いてきな。そしたら命だけは取らねぇでやるからよ』


 しばらく行くと何処からか野太い男の声が聞こえてきた。


「今何か聞こえなかった?」

「うん。聞こえた。あっちかな」


 声のする先を物陰から覗くとそこには丸坊主の大男に絡まれた金髪の青年の姿が見えた。


「貴族狩りね」

「貴族狩り!?」

「シッ! 気づかれたら私達もただじゃすまないわよ。特にアオイは貴族に間違えられてもおかしくないんだからね」


 言われてみれば青年の格好は僕のスーツによく似ている。質の良さそうな生地や胸の辺りに輝く勲章など異なる点はいくつかあるものの僕が貴族に間違えられてもおかしくなかった。


「だからか」

「だからかって、何?」

「このポンチョみたいな服を着る理由と昨日の夜ルヴィスがため息をついたワケがようやくわかったよ」

「あ〜それね。うん。そういうことよ。ここは商売が盛んで賑やかなだけにああいう輩も多いのよ。だから少しでもそういう面倒に巻き込まれないようにしないとね」

「なるほど。けどあの人を放ってはいけないな」

「そう言うと思った。でもどうやって助けるつもり?」

「……ルヴィスの魔法」

「……仕方ないわね。派手にやると色々と面倒だからちょっと脅かすくらいにしとくわよ」


 そう言うとルヴィスは本を右手に乗せページを開くと左手をその上にかざした。


「フェノム」


 ルヴィスが呪文を口にするとページに描かれた魔法陣が薄っすらと光り魔法陣の真ん中にロウソクの火のように揺らめく小さな火球が現れた。それはフェノムという火属性魔法の一つで火球を作り出す魔法だ。その用途は日常生活から戦闘まで多岐にわたる。


「見てて」


 ルヴィスは左手の人差し指で火球をピンッと弾いた。すると火球は大男めがけて勢い良く飛び出し足元の地面に当たり弾けた。


「ゔわっ!! 何だ何だ!! 今のは魔法か!? てめぇ魔法が使えるのか!?」


 大男は慌てて後退りすると両手を握りファイティングポーズをとった。


「はぁ? 俺は魔法なんか……いや、そうさ俺は魔法が使えるぞ!」

「なめたマネしやがって! オラァァァ!」


 大男が右腕を高く振り上げたところでルヴィスが再び火球を足元に飛ばした。


「オワワ!!」


 弾けた火球に驚きよろめく大男。


「クソ! 覚えてやがれ!」


 大男は悔し紛れに壁を叩くと路地裏へ走り去っていった。

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