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第69話 お好み焼き…

「すみません。注文お願いします」

「はいよ」

「この『お好み焼き』をお願いします」

「あいよ。お好み焼きね。ちょっと待っててな」


 そう言うと店主の親父は厨房から食材の乗った皿を抱え戻ってきた。


「ほい。肉に魚に野菜。どれでも好きなもん選んでや。それと選ぶんはひとつやなくてもええで。この中のもんやったら好きなだけ選んでくれてええ」

「へぇ〜お好み焼きの具材を自分で選べるんですか」

「まぁお好み焼きやからな」


 僕の知るお好み焼きは豚玉とか海鮮とか初めから具材が決まっているものの中から選ぶことが普段でトッピングで具材を追加するくらいのことはあっても1から具材を選ぶようなことは体験したことがなかった。


「えっと、そうしたらこの肉とこの野菜でお願いします」

「あいよ。みんなは決まったかい?」


 ルヴィスはターブ肉のジンジャーナ炒め、クラニはマサンサの塩焼き、ジェナは夏野菜のラタントラという料理を注文した。


「あいよー。今すぐ作ってくるさかいちょっと待っててな」


 料理を待つこと約15分。まずはじめに運ばれてきたのはジェナの注文した夏野菜のラタントラだった。それは今が旬のトモルコ、キウリ、ヌス、クオラをトゥーメトのピューレで煮込んだ野菜スープのような料理だった。


 ちなみにトモルコはとうもろこし、キウリはきゅうり、ヌスはナス、クオラはオクラ、トゥーメトはトマトによく似た野菜だ。


 次に運ばれて来た料理はルヴィスが注文したターブ肉のジンジャーナ炒めだった。それは豚肉のような肉に生姜に似た野菜をすり下ろしたものを絡め炒めた豚肉の生姜焼きのような料理だった。


 ルヴィスの次に運ばれて来た料理はクラニの注文したマサンサの塩焼きだった。マサンサは秋刀魚に似た魚をシンプルに塩焼きにした料理だった。


 そして最後はいよいよ僕の注文したお好み焼きだ。


「はいよ! お待たせ!」

「……」


 僕は目の前に置かれた料理を見て唖然とした。


 それはお好み焼きのおの字もないものだったからだ。


「あの、これどう見てもステーキですよね?」

「せや。ステーキやで。兄ちゃんが選んだんはそういう肉やからな」

「でもこれはお好み焼き、なんですよね?」

「せやで。これはお好み焼きや」


 僕が選んだ肉はたしかにちょっと肉厚でステーキに最適な感じではあったがなぜそれがお好み焼きなのかまったく理解できなかった。では肉ではなく魚を選んでいたらどうなっていたのか? 気になった僕は店主の親父に聞いてみることにした。すると答えはこうだ。


「魚焼きや」

「魚焼き、ですか。それもお好み焼きなんですよね?」

「せやで」


 野菜ならどうだろう。


「野菜炒めや。これももちろんお好み焼きや」


 ここまでくるともうわけがわからない。選んだ具材によってそれぞれ料理は異なるというのになぜどれもこれもお好み焼きなのか僕にはまったく理解できなかった。


 よし! こうなったら素直に聞こう! それが一番だ。


「あの、選んだ具材によって異なる料理が出てくるようですがなぜ全て『お好み焼き』なんですか?」

「ワハハ。簡単な話しや。好きなもんを焼く、つまりはお客の好みのもんを焼く、せやから『お好み焼き』っちゅうわけや。ガハハハハ」

「ハハ。好みのモノを焼くからお好み焼き。たしかにそうですね……」


 豪快に笑う店主の親父とは対照的に僕は苦笑いを浮かべた。しかしいつまでもそんなことで落胆してはいられない。これはあくまで僕の勝手な思い込みが招いた事。目の前にある料理は『お好み焼き』で間違いなのだからそれはそれとして美味しく頂こうじゃないか! 気持ちを切り替えた僕はナイフとフォークを手に持つと店主の親父に向かって元気よくいただきますを言った。


「あいよ! 召し上がれ!」

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