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第63話 ムイの作戦

 約束の時間よりも30分早く集合場所である街の出入り口に着いた僕たちだったが既にそこにはムイの姿があった。


「みんなおはよう」

「おはようムイちゃん。僕たちも早いと思ったけどムイちゃんはもっと早かったんだね。いつから来てたの?」

「夜が明けてすぐ。バジリスクの事考えとったらなんや興奮してもうてな。眠れんかったんや」


 こちらの世界にも四季があり夏にあたるこの時期の夜明けは4時すぎであるという。だとするとムイは今から2時間半前にはここにいたことになる。


「そんな早くから⁉︎ 眠くないの?」

「うん平気や。それよりもこれ見てや。ジャーン!」


 ムイは背中に背負っていた楕円形の何かを下ろし僕に見せてきた。


「これは……盾?」

「ブッブー。残念。正解はウチが作った対バジリスク用の鏡や」

「ムイちゃん、ひょっとしてそれを作ってたから眠れなかったんじゃない?」

「な、なんでバレたん⁉︎」


 ムイは目を丸くして驚いたが昨日の今日の話しでここに対バジリスク用の鏡があるということは僕たちがホテルへ戻った後、徹夜で作った以外考えられなかった。


「ところでムイちゃん、今日のその格好は鳥?」

「お! アオイ兄ちゃん良い線いっとるで」


 ムイの今日の着ぐるみ、それはアクェライとう巨大鷲を模したものだという。巨大とはいえバジリスクも蛇。蛇の天敵といえば鷲。鷲といえばアクェライだと彼女は言った。


「これならバジリスクもきっと震え上がるで!」


 ずいぶんと可愛らしくデフォルメされたそれにバジリスクが震え上がるとは到底思えなかったがドヤ顔で右手の親指を立てるムイにそんな事は言えなかった。


「みんなちょっとええか? バジリスクのことなんやけど……」


 ムイは僕たちを集めるとバジリスクについて話しはじめた。バジリスクは以前クラニが言っていたように警戒心の強い魔獣であるとムイも言った。擬態を得意としまるで透明になったかなのようにその場の風景に溶け込み獲物が隙を見せるまでその身を潜めるという。そして獲物が隙を見せた時、つまりはバジリスクに背中を見せた時ヤツは毒牙を向け背後から獲物に襲いかかるのだという。


「つまりバジリスクに後ろを取られたら最後っちゅうわけや。けどなその辺の対策は考えてあるさかい安心してや。それよりも1番気つけなあかんのはみんなも知っての通り石化の呪いや」


 石化の呪い。それはバジリスクの蛇眼から発せられる閃光によって文字通り体を石に変えられてしまうものである。石化した者はその動きを封じられ呪いが解かれるまでその状態は続く。詳しい原理は未だ解明されていなのだが石化したからといって死に至ることはなく石になっている間は生命が維持されなおかつ歳も取らないという不思議な現象が起こるといい世界にはこの石化の呪いをあえて利用しようとする者もいるのだという。


「だからアルスはあのままで大丈夫だったんだね。でもどうやって呪いを解くの? やっぱり魔法?」


 僕の質問に答えながらムイが話しを続ける。


 バジリスクの石化の呪いを解くには2つの方法があるという。ひとつは僕が思うように魔法だ。それはあらゆる状態異常を治すエスリカバルという魔法だというがエスリカバルはごく限られた高位の魔法使いにしか扱えない特殊な魔法だという。


「ウチが知る限りエスリカバルを使えるんは大陸におるっちゅう聖女様だけやな」

「なら魔法は無理だね」

「せやな。けど魔法は無理でも薬は案外簡単に作れるんやで」


 石化を治すもうひとつの方法。それは薬だった。ジラロガシという低木の白い葉の粉末を清水に溶かしたものをかけることで石化を解く事ができるという。


「その薬は街で買えるのかな? それともこれから作る?」


 薬は用途が限られているため大きな街の道具店あたりなら売っていることがあるというがここパムラムの店では売っていないという。また材料さえあれば混ぜるだけなので簡単に作ることができるが肝心の材料もまたここパムラムでは手に入らないという。


「そうなるとアルスを元に戻すのはだいぶ先になるのかな?」

「アオイさんそれは大丈夫です。薬ならほら。私が持っています」


 クラニはルッカを出る際、石化を治すもの以外にも毒消しやめまいを直す薬など色々な薬や道具を持ってきたという。


「ですがあいにく私が持ち合わせているは1人分、この1本だけです」

「ほなこの中の誰1人として石化するわけにはいかんちゅーことやね」

「えっと話しを整理するとバジリスクに後ろをとられたら毒牙で噛み殺されてしまう。石化の呪いを目にしてしまったら石にされてしまう。そして相手は巧妙に擬態する。ってことだね。となるとかなり危険な戦いになりそうなんだけど……大丈夫なの?」

「アオイ兄ちゃん。それは心配いらんで。その辺の対策は考えてある言うたやろ?」

「そうだった。それでムイちゃん、その対策ってのは?」

「それはやな……」


 ムイの対策はこうだ。まずバジリスクに背を向けない、後ろをとられない方法。それはみんなで背を向け合って円になることだった。こうすることで360度バジリスクに背後を取られることがなくなり警戒心の強いバジリスクが先攻してくることを防げるという。


 次に石化の呪い対策。これはとてもシンプルなもので単に目をつむる。ただそれだけだという。


「バジリスクの閃光をまともに見なければ石にはならへん。けど全員目をつむっとったらどうにもならへん。そこでや……」


 ムイが提案した作戦、それは囮作戦だった。


 話し合いの結果、バジリスクが擬態を解くタイミング、つまりは襲いかかってくる間を作る役をアオイとジェナが、襲いかかるバジリスクを驚かせ石化の呪いを発動させる役をルヴィスが、最後にその石化の呪いを跳ね返す鏡役をムイが担当することに決まった。


「あの私は?」

「クラニ姉ちゃんは待機や」

「え? 皆さんが危険をかえりみずバジリスクに挑むというのに私1人だけ待機というわけにはいきません!」

「クラニ姉ちゃんの気持ちはようわかる。けどなこれも大事な役割なんや。もし仮にもウチらが全員石にされてしもたらどないする?」

「それは……」

「もしそないなったらクラニ姉ちゃんに助けを呼んで来て欲しいねん。だからこのとおり。お願いや」

「そういうことならわかりました」

「ありがとな。クラニ姉ちゃん」


 というわけでクラニは石化を解く薬を持って安全な場所に待機しもしもの事態に備えることとなった。


「ほな。行こか」


 僕たちは再び岬の洞窟へと足を踏み入れた。

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