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第62話 ムイ・テンセラス(後編)

「アオイ! 大丈夫⁉︎」

「うん。大丈夫だよ」

「なんやアオイ兄ちゃんの知り合いか?」

「うん」

「ああ。よかった。無事でなによりです」

「あまりの急な出来事に心臓が止まる思いでした」


 ルヴィスに続きクラニとジェナもルヴィスの後ろから顔をのぞかせた。


「なんやなんや。後ろの2人も知り合いなんか?」

「うん。そうだよ」

「驚くわ〜。こないなべっぴんさんを3人もはべらすやなんて。アオイ兄ちゃんは見かけによらずモテるんやね。まぁウチもそのもふもふが好きやからざっくりと言わせてもらえばアオイ兄ちゃんが好きやってことになるな」

「は? アオイ、ちょっといい?」


 ムイの言葉に反応したルヴィスが僕の腕を引き顔を寄せた。


「アオイ、あの娘今アオイのことが好きとか言ってたわよね? いったい何があったの?」

「特に何かあったわけじゃないけど」

「けど?」


 ムイに押し倒されてしばらくの間彼女が僕の上に乗っかっていたなんてとても言えない……いや待てよ。ムイはあくまで猫手袋のもふもふにハマっていただけでやましいことなど一切なかったのだから逆に隠す方が不自然というものか? そんな自問自答を繰り返している間に気がつけばルヴィスたちはムイと楽しそうに会話していた。


「ルヴィスのお姉ちゃんがアオイ兄ちゃんのお嫁さんだなんて信じられへんわ。兄ちゃんのどこがそないええねん?」

「全部よ。アオイは私の全てなの」

「はぁーぞっこんやね」

「ところでムイちゃんはなんでアオイのこと好きになったの?」


 話しの切り替えと同時に真面目な表情へ変わるルヴィス。


「ん? 好き? ウチがアオイ兄ちゃんを?」

「え? 違うの? だってさっきウチもアオイ兄ちゃんが好きやって言ってたでしょ?」

「アハハハハ。あれはそう言う好きちゃうで。ウチはアオイ兄ちゃんのそのもふもふの手が好きなだけや。なんならその手だけでも切り落として……クフフ」


 両手の指をわしゃわしゃと動かしながら不敵な笑みを浮かべるムイに僕はたじろぎ3歩ほど後ろへ下がった。


「アハハ。冗談やでアオイ兄ちゃん。いくらウチがもふもふ好きでもそないな事はせえへんよ」

「そういうことならアオイ、それムイちゃんにあげたら? さっきムイちゃんから話し聞いたけどバジリスクの対処法教えてもらえたんでしょ? だったらそれもう必要ないじゃない」

「そうだね」


 ムイは僕とルヴィスの会話を首をかしげ不思議そうな顔で聞いていた。そして僕が猫手袋を外すと、


「な! なんやそれ! 取れるんかいな⁉︎ ちゅーことはもしかして耳も?」

「うん。取れるよ」


 僕は猫耳バンドも外してみせた。


「うわぁ騙されたわ。てっきりアオイ兄ちゃんはウチと同じ獣人族や思てたんやけどな」


 そう言うとムイはフードを下ろした。すると茶色のボブヘヤーにその髪からちょこんと突き出た小さく丸い獣耳が姿を現した。


「ムイちゃんて獣人族だったんだ」

「そやで。ウチは熊耳の獣人族や」


 熊。だからか。僕は先程ムイに押し倒された時のその見た目からは想像できない力強さのわけをようやく理解した。


「そうなんだ。でもそれなのに何でわざわざ猫耳の服なんか着てるの?」

「ウチはいろんなもふもふが好きでな。その日の気分で着るもんを変えてるんや。今日は猫耳の気分やった。それだけの話しや」

「なるほど。そういうことか。それじゃこれ、ムイちゃんにあげるね」

「うわーこんなええもんもろてほんまにええんか?」

「うん。バジリスクの対処法を教えてもらったお礼。にはならないか」

「そないな事あらへん! 本物と見間違えるほどの逸品やで。これ以上のお礼は考えられへん! ほんまにありがとう」

「いやいやお礼を言うのは僕のほうだよ。ムイちゃん、ありがとう」

「ムフフ。着けてみてもええ?」

「もちろん」


 ムイは着ている猫耳の服を脱ぐと僕のあげた猫耳バンドと猫手袋に着替えた。


「極上のもふもふ……幸せ」


 両腕に着けた猫手袋の感触にうっとりとするムイ。


「ところでアオイ兄ちゃん。バジリスク退治はいつ行くん?」

「えっとそれは……鏡さえ用意出来ればすぐにでも」

「ほな明日の昼間やな。鏡ならウチのがある」

「ムイちゃん! 何から何までありがとう。鏡、遠慮なく貸してもらうね」

「ん? 貸す? アオイ兄ちゃん。そうやないで。鏡はウチが持って行く」


 ん? ウチが持って行く? それってムイも一緒について来るってこと? 僕はムイにその真意を聞く事にした。


「ムイちゃん。もしかして僕たちと一緒に来ようとしてる?」

「当たり前やないの。バジリスクなんてレアな魔獣、そうそう見れるもんやあらへん」


 やっぱりそうか。でもこんな小さな娘を一緒に連れて行くというのはさすがに容認できない。


「ムイちゃん。それはさすがに無理だよ」

「なんでや?」

「なんでって。それは危ないから」

「アハハ。アオイ兄ちゃんはそないな事心配しとったんか」

「いやだってそうでしょ。ムイちゃん、子どもなんだから」

「ムフフ。子ども。たしかにウチは子どもや。でもなウチはこう見えても熊耳の獣人族や。少なくともアオイ兄ちゃんより力あるで。それにウチはバジリスクの生態を熟知してる。だからウチが一緒にいるほうがむしろ安全やと思うんやけど」

「……そう言われたらたしかにそう思う」

「せやろ? なら決まりやな。アオイ兄ちゃんたちは泊まるとこあるんか? 無ければ狭いとこやけどここに泊まってくれてええよ」


 僕たちはパムラムハーバーホテルに部屋を用意してもらっている事をムイに伝えると明日の朝7時に街の出入り口に集まることを約束しホテルに戻った。

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