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第60話 魔ダマリの海蛇

 意気揚々と先頭をきったアルスに続き岬の崖下まで下って来た僕たちの前にはぽっかりと口を開いた洞窟が現れた。まるで大蛇が口を開いたかのようなその入り口は風が吹くたびにシャーシャーとまるで蛇が威嚇するかのような音を立てていた。


「何か不気味なところだね」

「そうね。ちょっと怖いわね」


 洞窟からはなんとも言えない異様な空気感が漂っていた。


「この感じ。きっとこの洞窟の中に魔力が溜まっているに違いありません。皆さん行きましょう!」

「おうよ! 俺が先頭を行く。皆んなは俺の後についてきてくれ。アオイは後ろを守ってくれ」

「わかった」

「アルス様待って下さい。念のため皆さんにアップ・ディフェンドをかけさせて頂きますので」

「お! 頼むぜクラニ」

「それでは。アップ・ディフェンド!」


 足元から頭に向かって瞬時に光りの輪が上がりグッと体全体に力が入った事を感じた。


「これで致命傷は避けられます。ですが怪我はしますのでくれぐれも無茶はなさらないで下さい」


 アルスを先頭に薄暗い洞窟に足を踏み入れた僕たちは時折り吹き込む風を頼りにその風が流れる方向へと進んだ。


「風が逆流しては戻っている。皆さんこの先が風の吹き溜まり。つまりこの洞窟の行き止まりだと思われます」

「こういう時はよ。きっと何かが起こるぜ。俺の第六感がそう言ってやがる。だからみんなは少しここで待っててくれ。俺が先に奥を見てくるからよ」


 そう言うとアルスは洞窟の壁をつたい行き止まりの空間手前まで進むとその奥を覗き込んだ。


「……やっぱりな」


 アルスは僕たちのところに戻ってくるなり目にしたものについて話しはじめた。


「やっぱりいたぜ。ヤバそうなのがよ」


 アルスが奥で目にしたもの。それは巨大な海蛇だった。それは行き止まりの空間にトグロを巻き眠っていたという。


「アルス様、海蛇以外に何か見えませんでしたか? 例えば緑色の光りとか」

「悪ぃ。そこまでよく見なかった。けど何となくだが海蛇の腹のあたりが薄っすらと明るかったような気がするな」

「もしかするとそれは海蛇が風の魔力の結晶か何かを抱え込んでいるかもしれませんね」

「ならあの海蛇、ぶっ倒すしかねぇな」


 そう言うとアルスは剣を一振りし奥の空間へと入っていった。と次の瞬間、奥の空間から閃光がはしった。


「アオイさん、ルヴィスさん、ジェナさん、気をつけて下さい! 先程の光りはきっと良いものではありません」


 クラニの予感は見事的中した。時間差で奥の空間に踏み入った僕たちを待っていたのは石像と化したアルスだった。


「これは石化の呪い! だとするとここにいたという海蛇は海蛇ではなくバジリスク!」

「バジリスクって目を合わせると石にされてしまうっていう巨大な蛇ですよね?」

「はい。アオイさんよくご存知で」

「あら珍しい。アオイ、バジリスクは知ってたんだね」


 そう珍しく僕にもわかった。しかしそれは正確にいうと僕のいた世界のファンタジーものに登場するバジリスクを知っていたというだけで本当のところこちらの世界のそれは知らなかった。けれどもどうやらバジリスクはこの世界でも名前を含め大まかな特徴は同じであるようだ。


「ところでバジリスクはどこにいるんだろう? さっきからそれらしい姿がまったく見えないけど」

「バジリスクはとても警戒心が強い魔獣だと聞いた事があります。ですからこの空間のどこかに身を潜めているはずです。何にしても一度退避致しましょう。無策のままバジリスクのテリトリーに留まるのは危険ですので」


「たしかにそうね。一旦出直した方が良さそうね」


 ルヴィスがそう言うとジェナもそれに同調しうなづいた。


「アルスは?」


 石化しているとはいえアルスひとりをここへ置いていくことに抵抗を感じた僕はクラニに問う。


「アルス様なら大丈夫です。石化しても命に別状はありませんし後ほど石化の呪いを解けば問題ありません。アルス様。聞こえてますよね? 必ず戻って参りますのでしばらくお待ち下さい。では皆さん一旦ここを出ましょう」


 僕たちは一度洞窟の外に出ると話し合いをはじめた。


「皆さんは洞窟奥のあの空間に魔ダマリがあったことに気がつかれましたか?」

「はい。さほど大きなものではありませんでしたが空間の中央に水溜りのような魔ダマリが出来ていましたね」


 クラニとジェナは魔ダマリに気がついていたようだがアルスが石化した事に意識を持っていかれていた僕は魔ダマリの存在にまったく気づいていなかった。


「そして苦しくもあそこはバジリスクの巣。あの魔獣をどうにかしなければ魔ダマリに近づくことすらできません」

「ではいったいどうすれば?」


 ん〜。僕たちは全員腕を組み首を傾げた。


「こういうのはどうでしょう?」


 しばらくするとジェナが手を上げ言った。


「バジリスクを何とかするには私たちはもう少しあの魔獣を知る必要があると思います。ですから今一度街に戻りバジリスクの情報を集めるというのはどうでしょうか?」

「ジェナさん! それは良い案だと思います! 街の人なら何か知っているかもしれませんものね。ではさっそく街に戻りましょう」


 パムラムの街に戻った僕たちは手始めにマーメイルに立ち寄りオリビアから話しを聞く事にした。


「こんにちは。オリビアさん」

「いらっしゃいませ〜。あら皆さんお揃いで……あれ? もう1人のお兄さんは一緒じゃないんですか?」


 事情は全てクラニが説明してくれた。そしてオリビアから直接バジリスクについて情報を得ることは出来なかったがその代わりにある人物を紹介してくれた。


「それならムイちゃんに話しを聞くといいわ。ムイちゃんは無類の魔獣好きだからきっとバジリスクのこともいっぱい知ってると思う。もし彼女に話しを聞きに行くならこれ、持っていって」


 そう言ってオリビアは猫耳バンドと猫の手の形をした手袋を僕たちに手渡した。


「これは?」

「ムイちゃん魔獣が好きすぎて自分で魔獣っぽい服を作っては着てるの」


 それっていわゆるコスプレだよな。


「だから彼女に会う時それをつけていればすぐに話し聞かせてくれると思うわ」


「アオイ、ちょっとつけてみて」

「え? あ、うん。こう、かな?」

「あはっ! かわいい!」

「ほんとですね! アオイさんかわいいです」

「アオイ様……可愛い」


 僕は3人にそう言われちょっと恥ずかしかったが悪い気はしなかった。

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